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きみがいる場所  作者: 水瀬


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7/10

[6]

「お腹すいちゃった。どこかお勧めのお店ってないの?」


 街をぶらぶらと歩き回っていた少女が、不意にそう振り返った。


「店、ねぇ。オレは街のことはよく知らないからなあ」

「・・・分かる、気がする」


 言葉も途中に少女はそう言って、溜息を漏らした。


「とりあえず、どっか入ってみる?」

「ああ、そうだな」


 少女といるとなんだか自信がなくなっていく。魔法使いはこっそり肩を落として、少女の跡を追った。

 少女はおのぼりさんよろしくキョロキョロと辺りを見回し、やがて何を気に入ったのか1件の店に入った。

 店構えに見覚えがあったので、魔法使いは一瞬躊躇したが結局扉をくぐった。


「あれ、お城の・・・入り口から来るなんて、珍しいですね」


 入ってすぐにそう声をかけられた。えっと思ってそちらを向くと、見覚えある店員が笑顔で立っていた。


「お久しぶりですね。それも、こんなかわいいお嬢さんをお連れなんて・・・」

「ああ、2階、いいか?」

「勿論ですとも」


 店員はそう2階を示した。

 魔法使いは少女を促して階段を登り、いつもの席に着く。


「何だ、いい店知ってるんじゃない」


 にやにやとしながら少女がそう席に着く。

 これには絶対裏があるはずだ。

 魔法使いは少女を睨みつけた。


「お前、何でこの店選んだんだ?」

「えーと、それは店構えとか、匂いとか・・・」


 しどろもどろの少女の言葉に、魔法使いはさらに身を乗り出す。

 そして、低い声で一言。


「あいつだろ」

「・・・やっぱり分かる? 王が街に行くならここに行けって言ってたから」

「ここに来たかったなら最初に言えばいいだろう。そしたらこんなに歩かなくってもすんだのに」


 疲れたようにソファーへと沈み込む。


「街も見たかったのよ。それより、何で歩かなくていいの?」

「抜け道があるんだよ」

「いいの? そんなこと言っちゃって」

「みんな知ってることだ。それに秘密でもお前になら話すだろ、あいつもお前のことは気に入ってるみたいだから」


 何も注文してないのに、店員はいつもの料理と飲み物を運んできた。

 1階と違い『金持ち』を対象にした作りになっている2階は、豪華とは言えないが上品さが売りらしい。木の椅子のかわりにやわらかなソファー、明かりにも飾りの入ったフードがかけられ、柔らかな光が店内を照らし出す。

 料理も1階とは違い、高価そうな皿にそれなりの形で盛り付けられてくる。当然値段は高い、中身は1階と一緒なのに。

 最後に少女の前にも軽めの酒が置かれた。


「酒飲めないってことはないよな」

「まあね、これでも結構年寄りだから」


 と杯を持ち上げる。


「乾杯でいいのかな?」

「いいんじゃないのか。問題は何に乾杯するかだけど」

「うーん、何だっていいや。乾杯」


 無理矢理、魔法使いの杯に押し付けて、さっさと飲み始める。そして料理に手を伸ばす。


「うん、さすが王様のお勧めだけあって、美味しいわね」


 気に入ったのか、出された料理をパクパクと平らげていく。

 魔法使いは勢い良く食べる少女を、黙って見つめていた。

 そして、すべての皿が片付いた頃、不意をつくように尋ねた。


「ところで、10日も何してたんだ?」

「えーと、ちょっと迷子になってて・・・」

「迷子?」


 困ったような顔の少女に、聞き返す。


「空を飛べるお前が何で迷子になるんだ?」

「近道しようと思って森に入ったら、方向間違えて出られなくなっちゃって・・・飲まず食わずだったから、力出なくて」


 へへと笑う。

 病み上がりのせいなのか、落ち込んでいるのか、今日少女の言葉はどれも歯切れが悪い。

 魔法使いは杯に残った最後の一口を流し込んでから、少しだけ笑って見せた。


「嘘、だろ?」


 わざと区切っていった言葉は、かなり効果的だった。

 少女は眼を丸くしたまま、固まってしまった。


「何、隠してるんだ?」

「・・・ああ、もう。今日は全然駄目だなぁ。・・・そうだよ、嘘だよ。あ、でも迷子になったのは本当だからね。あたし方向音痴みたいだから」


 とってつけたような説明とともに、少女はテーブルを軽く叩いてソファーに沈み込んだ。

 ふてくされたように、唇を尖らせ天井を見上げる。


「ここに来る前に話はつけておいたから、《彼女》の都合さえつけばいつでも良かったんだけど・・・」


 何を言っているのか、一瞬魔法使いには分からなかった。

 尋ねようとして、少女の真剣な表情と暗い声に その理由を思い出す。

 少女はしばらく目を閉じて、そしてゆっくりと口を開いた。


「・・・契約・・・してきたよ・・・」


 やがて小さな声が、そう、告げた。

 それは、数日の間にあの魔法を行うという、予告。

 魔法使いは、黙って、頷くしかなかった。


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