第005夜 少女誘拐疑惑により家族会議
前回のあらすじ
学校から帰ってベッドに滑り込んだら即落ちして夢にダイブ!
夢で少女リコと出会い、現実で目が覚めると腕の中にはその少女が居ました。
「アスカ?」
夢の登場人物であるリコが腕の中にいる。
寝ぼけているのだろうか。
状況を把握できずに呆然としていると妹から追撃が降ってくる。
「まさか誘拐してきたのです?」
「いやいや違うから!」
「じゃあ何です」
「えっと、分からないかな?」
「はぁ、稲荷さんと仲が良すぎるからいつか犯ると思ってたんです・・・」
「無実かな!」
上手く説明できない状況で、つばめとの口論がヒートアップしていく。
「アスカ、うるさい」
リコに怒られてしまった。
「あぁ、ごめんね」
「ん、いい、その人誰?」
「妹のつばめだよ」
それを聞いてリコはベッドから降りて佇まいを正して、つばめへ振り返った。
「リコレット、リコでいい」
「私は渡鳥つばめ、明日香お姉ちゃんの妹です」
「そう、よろしく」
「よろしくね、それでリコはどこから来たのです?」
つばめがリコに詰め寄ろうとしていた。
「質問は後にして欲しいかな、後でお母さんたちにも説明するから」
階下から美味しそうな匂いが漂っている。
つばめは晩御飯を知らせるために来たと推測するべきかな。
それなら夕食時に説明すれば良い。
『つばめ~、明日香ちゃんはまだ起きないの~?晩御飯冷めるわよ~』
「いま起こしたので行くでーす!」
「ごはん?」
「そうだね、それと私の家族に紹介したいけどいいかな?」
「ん」
「お姉ちゃん、リコの分のお皿も出すから先に行くですが、ちゃんと説明して欲しいです」
「もちろんだよ」
部屋を出る時にリコが靴を履いていることに気付いた。
慌てて脱がせたが靴は汚れていなかった。
床も汚れを落とした様な跡は見受けられない。
疑問には思うが、それよりも今はリコの事をどう説明するかかな。
自分でもまさかの展開過ぎて盛大に頭を悩ませていた。
◆◇◆◇
居間に入るとお母さんとお父さんは椅子に座っている。
つばめは追加のお皿等を用意してくれていた。
リコは居間の前で待機してもらっている。
「明日香ちゃん、稲荷ちゃんが来てるなら先に言いなさい」
「えっと、実は稲荷じゃなくて別の友達なんだけど」
「あら、稲荷ちゃん以外を呼ぶなんて珍しいわね」
「うん、紹介するね」
リコを居間へと通して家族に紹介をした。
「彼女はリコレット」
「リコレット、リコでいい」
「まぁ留学生のお友達?」
「それはこれから話すから」
リコを席にエスコートして、家族会議が始まった。
「何から話そうかな」
「誘拐された」
「「「ん?」」」
いきなり不穏なワードが出て来て皆固まってしまった。
「ほらやっぱりです!」
「いやいや、私は誘拐してないよ!ねぇリコ?」
「ん、してない」
「違うのです?」
「ん、違う」
危うかった、でもどうにか軌道修正は出来たようだ。
「じゃぁ誰に誘拐されたのです?」
「わからない、気づいたら森に居た」
「森です?」
「ん、すごく広い」
「でも、家の近くに森は無いのです」
「知らない」
「知らないって・・・」
みんなが困った様な顔になる。当然だ前提の話が抜けているのだから。
「まって、まずリコは私の夢の中で会った子なの」
「お姉ちゃん、寝言は寝てから言うべきです」
つばめが冷たい目で私を見ている。
「いやいや、本当だよ」
「夢かどうかは・・・リコに聞いても分からないですよね」
「わからない」
つばめが盛大に頭を悩ませていた。普通の反応はそうだろう。
「アスカと昨日の夕方会った」
「昨日の夕方です?」
「ん、そう」
つばめが昨日の記憶を必死に思いだしているようだ。
「お姉ちゃん、昨日の夕方は家に居たのです」
「嘘じゃない、夜も一緒に寝た」
「あれ、夜は一緒にご飯食べてるはずです」
「嘘じゃない」
リコの声が尻すぼみになっていく。
「うん、私は確かに昨日の夕方も夜もここに居たよ」
それを聞いたリコは俯いてしまった。
嘘つきにされたと思ってしまったのかもしれない。
「でも今日の夕方、夢の中でリコに会ったの」
「リコは昨日って言ってた気がするよ?」
「最後まで聞いて欲しいかな」
つばめが話を遮ったのでたしなめる。
「私は今日の夕方、ベッドに倒れ込んでそのまま寝落ちして夢を見たの。
私は気づいたら夕焼けに染まる古びた部屋にいた。
リコと出合ったのはその時だよ。
その後は果物を食べて、夜は一緒に牧草のベッドで寝たかな。
それでさっき起きて今に至るの。
だからリコは一度寝てるから昨日って錯覚してるってことかな」
とりあえず起きたままを説明してみた。
けど、つばめは納得できていない顔をしている。
「つまり、お姉ちゃんは夢から人を連れて来たって言ってるのです?」
つばめの頭から湯気が出ている。処理能力が限界に近付いているようだ。
「頭大丈夫です?夢から人を連れてくるのは無理です」
つばめから心底可哀想な目で見られてしまった。
「夢の人っていう証拠とかあれば信じるのです」
「証拠・・・リコが魔法を使えればいいんだけど」
「ん、使える」
「ホント?何が使えるのかな」
「回復魔法」
「え、魔法魔法?二人とも何言って───」
つばめが怪訝な顔をする横で、リコが胸の前で両手を向かい合わせた。
リコが集中を始めると、両手の間には緑色の透き通った球体が淡い光を放って出現した。
「うそです・・・」
「まぁ」
「おおぅ」
つばめは信じられないものを見る目で見ている。
お母さんは少しだけ驚いただけだった。
お父さんは興奮気味に見ている。
「ふぅ」
リコは一仕事が終わったように一息ついて私を見ていた。
「て、手品かなにかかもです?」
魔法を見せても疑うとか頭が固すぎるかな。
つばめを睨む目を鋭くする私を見て、お母さんがリコに提案をした。
「リコちゃん、最近手が荒れててね、回復できるかしら?」
「ん、任せて」
水仕事による手荒れは主婦の悩みの上位だ。
リコは椅子から降りてお母さんの横まで移動した。
お母さんがボロボロな手を差し出すと、それを両手で包んで回復を始めた。
「あら~助かるわ」
「おぉ、おお!」
お礼を言うお母さんの隣で、お父さんが魔法に興奮して鼻息を荒くしていた。
気持ち悪いかも。
「偉いわねぇ」
お母さんは回復が終わるとリコの頭を何度も撫でていた。
つばめは理解が追い付かないのか頭痛に耐えるように頭を抱えている。
額には汗を浮かべて念仏の様に何かを呟いていた。
「夢も魔法も奇跡も存在するです、夢も魔法も奇跡も存在するです...」
何となく言いたいことは分かったけど、コワイ。
とりあえずリコの今後を相談しないと。
「それでリコの事なんだけど」
「夢の自分の家に送るまで帰る場所が無いのよね?それならゆっくりして行くと良いわ。」
お母さんの理解力と懐の深さに感謝する。
これぞ太っ腹というヤツかな?
言うと怒られるから言わないけど。
「オーケー、お姉ちゃん。バッチリ飲み込んだのです」
「あ、そう・・・」
つばめはやっと現状を飲み込んだようだ。
理解が遅すぎて呆れてしまい、素っ気ない返事になってしまった。
それよりも、これから一緒に過ごすリコへ改めて挨拶をしよう。
「リコ、今日からよろしくね」
「ん、よろしく」
こうして無事、リコは渡鳥家へ受け入れられた。
「当面の問題としてはリコの服をどうするかかな」
つばめの服は無理かな。
身長は私より低いと言ってもリコには大きすぎるかな。
稲荷が同じくらいだから、使ってない服が無いか明日あたり相談してみよう。
家族会議でご飯はすっかり冷めてしまった。
温め直して改めて食卓に並べていく。
リコは上品でありながら、美味しそうに大食いを披露していた。
お母さんは「作り甲斐があるわね」と言って微笑んで見守っているが、これが毎日だと食費の心配は必要かも。
◆◇◆◇
食事を終え、リコへ一緒にお風呂に入るか聞く。
するとつばめも一緒に入ると言って来たので3人で入る事になった。
私はつばめの背中を洗い、つばめはリコの背中を洗った。
つばめはリコの髪も洗ってあげていた。
私はその間に自分の身体を洗っていく。
先に洗い終わったリコを湯船に浸ってもらう。
私とつばめは自分の髪を洗い、少し遅れて湯船に浸かった。
3人同時に入ったので大量のお湯が流れていってしまった。
「ご飯美味しかったです?」
「ん、どれも見たこと無い」
つばめがリコに夕飯の感想を聞くと、どれも食べた事が無いものだったようだ。
「そっかー、せっかくなら色々なものを食べられるといいですね」
「ん」
その後は何が美味しかったかなど食べ物の話を主にしていた。
「ん、熱い」
気付くとリコの顔が赤くなってきて、のぼせそうになっている。
「つばめ、リコをお願いできるかな」
「任せるのです!」
2人は脱衣所に入ると扇風機をつけていた。
クールダウンしながら、身体を拭いているのかな。
「ツバメ手伝って」
「え?パジャマの上着、一人で着れないのです?」
「ん」
「これはですね───」
どうやらリコは一人で服を着れないようだ。
ドレスっぽいものを着ていたし、どこかのお嬢様かな?
「少し大きい」
リコは妹が掘りだしたパジャマを着ている。
サイズは大きいようだが、1日くらいは問題ないかな。
「次はドライヤーですね」
パジャマを着せ終わったようで、つばめはリコの髪を乾かすためにドライヤーで奮闘を始めたようだ。
私がお風呂を出た時にはまだやっていたけど、着替えが終わる頃には終わったようだ。
脱衣所から出て居間を通り過ぎる際に、親へ寝る前の挨拶をする。
「「おやすみなさい、お母さん、お父さん」」
「おやすみ」
「「3人ともおやすみ」」
2階へ上って正面の部屋へ私とリコは入り、妹は隣の部屋へと入った。
ベッドは広いのでリコと寝ても余裕はある。
中学校入学時に自分のお小遣いで大きいベッドを買ったのだ。
しかも邪魔にならないように折り畳みにした。
私の趣味は鍛練なので、お小遣いはほとんど使っていなかった。
そのためお年玉と合わせて買えた代物だ。
予備の枕を用意して私の枕の横に置く。
その時、部屋の扉が開いてつばめが枕を抱きながら入ってきた。
「自分も一緒に寝るです・・・」
ということで3人一緒に寝る事にした。
ただベッドは3人並ぶと限界寸前に近いようだ。
私を中心に左の壁側にリコ、右の床側につばめが寝ることで配置は決まった。
リコが私へ抱き着くと、つばめも負けじと私へと抱き着いてくる。
両手に花なのだが寝にくい。最近は涼しくなってきたので暖は取れそうだ。
ひとつ溜め息をつきながら、互いにお休みの挨拶をして眠りにつくのだった。
「つばめ、リコ、おやすみ」
「おやすみです」
「おやすみ」
つばめはお姉ちゃんが取られそうで対抗しているのかな?
見て下さっている皆様に感謝です。続ける励みになります!
GWは1日1話アップ予定です(余裕があればもっとアップします)