第004夜 夢は現実へ
前回のあらすじ
朝は稲荷に怖い夢をみた相談をして、夕方は白昼夢のような幻覚に襲われつつも家に帰りました。
私は黄昏に染まる古びた部屋の中央に立っていた。
立ち上る砂埃が夕日に反射して部屋が輝いているように見える。
目の前の窓から差し込む夕日に目を細める。
窓の右手前には黄昏る少女が立っている。
さっきと同じ光景だ。
(白昼夢の続きかな?でも、夢に落ちた感覚が無かったような・・・)
いつも夢に来る時は暗闇の湖と、底に沈む夢の門を通ってから来る。
けど今回はそれがなかった。
まるでスイッチを押すような速さで現実と入れ替わった。
(稲荷くらいの女の子に見えるかな)
黄昏る少女の背丈は私の腕に収まるサイズくらいで、稲荷と同じくらいだ。
少女は私に気付いたのか、左の肩口からこちらを伺っていた。
頬には一筋の涙が伝っているように見える。
(泣いてる?)
一瞬後ろを向いてこちらへ振り返った時には既に無かった。
(見間違いかな)
少女を見る。
髪は白銀で、後ろ髪は腰下で切り揃えられていた。
前髪は目が隠れる程長く、左側だけ花のヘアピンで留められている。
瞳は深紅に彩られており、吸い込まれそうなくらいに綺麗だ。
全体的な印象として白ウサギのようなイメージかもしれない。
ただ無表情なので何を考えているのかは分からない。
服は薄緑のチューブトップワンピースを着ている。
襟元に申し訳程度のフリルが散らされているのが可愛らしい。
腰には帯が巻かれていて、後ろでリボンになっているようだ。
雑に説明すると身体にバスタオルを巻いた様な服装である。
足はハイニーソで履き口にフリルが付いている。
靴はパンプスを履いていた。
着ている服から推察すると、少なくとも貴族かもしれない。
彼女は少し警戒しながら私へ質問をしてきた。
「だれ?」
「私?明日香、渡鳥明日香だよ」
「アスカ・・・、ん、私はリコレット」
「よろしくね」
「ん」
雰囲気通り内気なのか口数が少なく、会話が続かない。
頑張れ私!
「リコレットはここで何を?」
「リコでいい」
「えっとリコ?」
「ん」
「ここで何をしてるのかな?」
「囚われてる?」
「ここは牢って事かな」
「たぶん?」
「ふーむ」
リコが言っている事が本当なら、少し間抜けな話のように思える。
夕日が見えるということは、助けを呼べるという事になる。
そんな場所が牢なのかな?
そういえば、監視者は居ないのだろうか。
来る気配はないので聞いてみようかな。
「監視者って居ないのかな」
「いない」
「いないの?」
「ん」
監視者に見つかったらどうなるかと無かったが杞憂だったようだ。
それよりも監視者が居ないのはどういう事なのかな。
それに監視者が居ないってことは食事をしてないんじゃ?
心配だ・・・
「水や食事はあるの?」
「外にある」
「囚われているってなんだっけ・・・」
外に出られるのは囚われているというのだろうか?
監視者が居ない状態で生きているなら、補給する手段があるのは確かかな。
でも抜け出せるのはザルすぎないだろうか?
「抜け出さないのかな?」
「帰り方、わからない」
「ふむ」
少し考えれば当然か。
帰る場所が分かれば留まる必要はない。
「それなら私が手伝おうかな」
「本当?」
「本当だよ、任せて欲しいかな!」
「アスカは冒険者?」
自分は冒険者だろうか?
夢での立ち位置を考えた事はなかったが、
魔物と戦ったりするのであながち間違いではないかもしれない。
「タブンそうかな?」
「でも冒険者の格好じゃない」
身体を見下ろすと学制服を着ていた。
確かに冒険者とは思えない格好かな。
「まぁ守れるくらいは強いから安心して」
「わかった」
「それじゃぁどうしようかな」
くきゅぅ
「・・・ご飯」
リコのお腹から可愛らしい音が鳴っていた。
外は夕方でリコを連れ出すには遅い時間だろう。
出発は明日にして今は外で食料を調達することにした。
◆◇◆◇
外に出ると周りは湖に囲まれていた。
建物に巻き付くような階段を下まで降りて見上げたそれは塔のようだ。
湖を渡る手段として塔の前から真っすぐ幅広い道が伸びている
その先は湖を囲う森となっていた。
この光景は見た事がある。
一昨日あたりに最後に見た夢の景色と一緒だ。
(最近、見た事のある夢が多い気がするかな)
「アスカ、こっち」
リコは湖を横切る道を進み、森の手前で立ち止まった。
周りを見ると水辺に沿って植物の樹等が沢山生えている。
互いに食べる分だけを採取して塔へ戻る頃には陽が沈んでいた。
1階の古びた扉を開けると、部屋の真ん中に新しい家具が置かれている。
小さなテーブルと2つの椅子だ。
もしかしたらリコを捕らえた時に、最低限は利用できるようにしたのかな。
ありがたく使わせてもらう事にした。
「それじゃぁ今日はもう暗いし、明日帰ろうか」
「ん」
「いつも寝る場所はどこかな?」
「上にある」
最初に居た部屋に戻ってくる。
でも布団のようなものが見当たらない。
リコはある一画を目指して歩き始めた。
「リコ?」
リコは何かが積まれている山の前で足を止めた。
大きなシーツが被されていて何の山なのか分かりにくい。
「アスカ、ここ」
大きなシーツを取り払うと、そこには牧草が積まれていた。
「牧草ベッド?」
「ん、布に一緒に包まって寝る」
「なるほど」
見た目は貴族だけど随分とワイルドな生活をしているようだ。
ここで暮らしていれば仕方ないのかもしれない。
リコは牧草の山を崩してベッドを手早く作り上げている。
最後に大きなシーツをその上に敷いて端から包まり始めた。
「アスカはそっち」
「ありがとう」
言われた通り逆側から布を被ると、思った以上に暖かかった。
これなら夜を越せそうだ。
隣で包まるリコに身体を向けてると身体を寄せてきたので、抱きしめて寝る事にした。
「「おやすみなさい」」
◆◇◆◇
「──ぇちゃ─、お─ぇちゃ─、おねぇちゃん!」
私を呼ぶ声に意識を揺り起こされる。
目を覚ますと妹が身体を揺すっていた。
肩下まで伸びた茶色い髪が背中から流れ落ちて私の前で揺れている。
「つばめ?」
「やっと起きたです」
「あぁ、帰ってすぐに寝ちゃってたのか」
目を擦りながら身体を起こそうとしたが上手く動かせない。
「お姉ちゃん、一つ聞いてもいいです?」
「なにかな?」
「それ、なんです?」
つばめが蔑むような目で私の腕の中を指差す。
それと同時に腕の中で何かが身じろぎをしていた。
ベッドへ倒れた時には私は一人だったはず。
私が寝ている間に潜り込んでくるとしても、つばめくらいだろう。
でも目の前に居るという事は別の誰かが腕の中に居るということだ。
なら誰が居るのか?
「何って───」
視線を落とした先に見たものは自分でも信じることが出来なかった。
何故なら夢で共に寝た彼女、リコが居たのだから。
「アスカ?」
少女をお持ち帰りしてしまった・・・次回は家族会議!どう説明したらいいかな!?
見て下さっている皆様に感謝です。続ける励みになります!
GWは最低でも1日1話のアップを目指してます。