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夢はもう一つの現実でした  作者: 宮城希
序章
3/54

第0.5夜 ズレ始めた日常 Side. 狐嶋稲荷

いきなりサイドストーリーです。

1話に関係する事なので書いてみました

 ワシ、狐嶋稲荷(こしまいなり)の朝は早い。

朝5時半に起床し、巫女服に着替え、境内の掃除をするのが1日の始まりなのじゃ。


『今日も朝から精が出るのぉ』


 ワシへ話かけるのは稲荷神社の神様であるお狐様じゃな。


「ふむ、日課であるが故に当然じゃな」


 振り返ると屋根の上でお狐様が頬杖をついて寝そべっていた。

お狐様は人型で袴姿(はかますがた)をしている。

この普段から腑抜けた様な神様が縁結びを担っておるのは、(にわ)かに信じがたいものじゃ。


『して稲荷よ』

「なんじゃ?」


 お狐様は身体を起こすと、空の彼方を見上げながら渋い顔をしたので、

ワシもその方角へ視線を送るが、特に何も見えなかった。


『今日は身近な人間を気に留めておいた方が良いかもしれぬぞ』

「ふむ」

『いっその事、抱きとめておくのも良い手かもしれんの』

「魅力的な提案じゃな」


 お狐様は冗談半分でニヤついておったが、これもアドバイスなのじゃろう。


『その者が大切ならば、しかと護る(・・)のじゃぞ』

「そうするのじゃ」


 最後に真剣な声のトーンで忠告されたのは以外じゃったが、

言われるまでも無いのじゃ。


 境内の掃除が終わり、社務所へ戻ると母上が朝食の準備をしていたので、

私は脇でお狐様にお供えするお稲荷を作り始めた。

お稲荷は好きなのじゃが、自分で作るものは好きな時に食べられるためか、

そこまで食べたいと思うことは少ない。


「食べるなら明日香のお稲荷じゃな」


 明日香と自分の作るお稲荷の違いは分からないが、彼女が作ったものは好きだ。

具体的にはジャンキーと言われても仕方ないくらいに好きなのだ。


「できた」


 握り終えたお稲荷を幣殿(へいでん)へ持って行いくと、

お狐様がお供えを待っていた。


『大儀である』

「大袈裟じゃ」

『まぁそう言うでない、使う機会が無いものでな。』

「会話相手がワシだけでは仕方ないの」

『そうじゃ、仕方ないのじゃ』


 揶揄(からか)ってはみるが特に気にする様子はなかった。

ワシは朝食の時間もあるので、話をそこそこに切り上げることにする。


「また夜に来るでの」

『待っておるぞ』


 社務所に戻って朝食を済ませ、学校へ行く準備が終わったところでインターホンが鳴った。


ピンポーン


 来訪者を確認するモニターを見ると明日香が映っている。


「明日香か、いま出るから待っておれ」

『うん、了解』


 玄関を出て明日香と挨拶を交わし、境内を横切って階段を下りながら明日香の夢の話を聞く。

明日香は空気が美味しい場所が好きだという話で、

神社の空気は癒しの空間とまで言ってくれたのは正直嬉しかった。

ただ残念な事に、全面禁煙ではないので今後は検討するべきかもしれない。


「褒めても何も出んぞ?」

「あ、それで思い出した」

「なんじゃ?」

「お狐様にもお供えをしたんだけどね、お昼はお稲荷さんかな」


 お狐様の話をしてからというもの、ワシへお稲荷を作ってくる際は、

お供えする分も作ってくるようになっていた。

お陰でお狐様の舌が肥えてワシのお稲荷では不満なようじゃ。


(明日香のお稲荷か、それは待ち遠しいのぉ)


 楽しみなのが隠しきれずに揶揄(からか)われたせいで、お稲荷への渇望が強くなり血走っていると、ワシを落ち着かせる為に明日香が抱きしめてきた。


「むぐっ、む、むぅ・・・」


 明日香に抱きしめられながら、お狐様の言葉を思い出していた。


『いっその事、抱きとめておくのも良い手かもしれんの』


 いや、そっちでは無いな。


『その者が大切ならば、しかと護るのじゃぞ』


 ワシと明日香の身体能力を比べたら明日香に軍配はある。

つまりお狐様の言う護る(・・)はワシの領分での話だろう。


(もし、霊的に護ることであれば、ワシの能力で少し結界を張るかの)


 仮に間違いであっても、支障はないものじゃ。ある分には困らないであろう。ワシは明日香の丹田へ自分の霊力を静かに流し込んだ。


 明日香の匂いは不思議と落ち着く。たまに(よだれ)が出そうになるのは内緒じゃ。

まだ階段の途中で人通りは無い、十分に満喫させてもらおうかの。


「落ち着いたかな?」

「うむ」


 そうして落ち着いた後は登校を再開して学校へ向かったのだ。


◆◇◆◇


キーンコーンカーンコーン


「お昼じゃ!」


 待ちに待った明日香のお稲荷の時間じゃ!

明日香はワシのテンションに呆れ顔になっておった。


 お稲荷は相変わらず絶品で無我夢中に食べていると、

明日香は幸せそうな顔をしておった。


 お狐様は護れと意味深な事を言っておった。

このお稲荷・・・もとい笑顔を守るためなら、ワシは何でもするというものじゃ。


◆◇◆◇


 放課後になり、同好会でいつものように鍛練をしていると明日香が今更な質問をしてきた。


「何で鍛練に付き合ってくれるのかな?」


 主な動機としては明日香を守るためじゃな。

一人で出来る事に限界はあるもので、その時に助けになれるようにと鍛えておる。

お狐様に何年も前から


『いつかお主の友は窮地に立たされる時がくる、助けたくば鍛え続けるがよい』


と助言を頂いてはおるのだが、近々である事しかわからず、詳しい事は分からぬままじゃ。

だから───


「もう少ししたら分かるじゃろうて」


 そう曖昧に答えることしか出来なかった。

お狐様の助言を考えると鍛練が足りているかも不安じゃ。

その想いから出た向上心に、明日香が対抗心を燃やしてくれたのは嬉しい事じゃ。


◆◇◆◇


 運動量を明日香に合わせていると体力の限界は簡単に超えてしまう。


(冗談でも年寄り扱い扱いされるのは不服じゃのう)


 それにしても今年中学へ入学して、もう9月中旬とは早いものじゃ。

年を取ると時間が早く感じるとはよく言ったものじゃが、そうかもしれぬ。


「そういえば最近は影が長いね、今は逢魔時(おうまがどき)かな?」


 何やら明日香が不穏な事を言い始めた。

ワシはホラーが苦手と分かって揶揄(からか)っているのかと思ったが、そうでは無かったらしい。


「ふん、神に仕える巫女が怖がってはおられぬよ」


 少し強がって見せると明日香は苦笑いを返していた。

もうすぐワシの家路につく鳥居の前じゃな、今日はお別れかの。

気が付くと明日香は歩を止めいたようじゃ。


「明日香?」


 どうしたのかと振り返ると眉根を寄せて額を右手で抑えており、駆け寄っても反応は無かった。

嫌な感じはしないが、寝ているわけでも無さそうだった。

試しに名前を呼びながら左腕を軽く引いても反応はなく、

少し体制を崩して倒れそうになったので抱きしめた。


「明日香!」


 再度名前を呼ぶと今度は意識が戻ったようで安心した。

そう思うも束の間、抱きしめられてしまった。


(今日はやけに抱き着いてくるのぉ。まぁよい、ついでに結界を強化しておくかの)


 明日香の匂いを堪能しつつ、丹田へ霊力を流し込んでおいた。


 いつまでも抱きしめられると苦しいのだが、それ以前に寝ているんじゃないかと思い、

適当に文句を言って離れてみたが、特にそうでは無かったようじゃ。


 家に送ろうか提案してみるが、心配は無用のようだったので、

念のため家に戻ったら連絡するようにだけ伝えておいた。

帰って暫くしたら無事メッセージが来たので一安心だ。


(結局、お狐様が言っていた様な気に留めたり護ったりする事は無かったかのぅ?万が一、悪い夢を見るのだとしたら結界が役に立ってくれることを祈るばかりじゃな)


 夢については、いつも通り朝に聞けば良い事で、

これ以上の心配は無意味なので明日を待つことにした。


「願わくば、明日香が良い夢を見ますように」


 そう願って今日を終えた。

GW中は毎日の投稿を考えております!

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