死神さん
ボクは領地の地図を眺めていました。
領地のどこに、どのような動物さんがいるのかをチェックするためです。
「ご主人様! お仕事中にすみません!」
背後からメイドさんの声が聞こえてきました。
ペンを机に置き、ボクは振り返ります。
ボクの背後に立っていたメイドさんは、丸くて小さな鳥さんを抱いていました。
「その鳥さんは?」
「お屋敷の前でウロウロしていたんです! たぶん迷子かもしれないと思って、連れてきちゃいました!
「ぴー!!」
笑顔のメイドさんに抱かれた鳥さんは、小さな翼をパタパタさせました。
白くて丸い体に小さな翼。とてもかわいいです。
「なるほど、そういうことでしたか。たしかこの鳥さんは——」
再び地図に目を向けます。
たくさんの動物さんの居場所が書き込まれた地図。
きっと鳥さんのお家がどこにあるかも分かるはずです。
「ぴー!」
鳥さんは、地図の右端に向かって鳴きました。
そこには、鳥さんと同じ姿の鳥さんの写真が貼られています。
「ここが鳥さんのお家のようです」
「東のポケット山ですね! 秋になると紅葉が綺麗な場所です!」
「ぴ~」
お家を褒められて、鳥さんは誇らしげです。
さて、これで無事に鳥さんのお家が分かりました。
次は鳥さんをお家に連れていってあげましょう。
ただし、その前に
「ペペロッペ卿! 困ってる人がいた~!」
背後から魔術師さんの声が聞こえてきます。
ボクとメイドさん、鳥さんは振り返りました。
すると、ボクたちの背後には、魔術師さんに連れられた、黒いローブを着たガイコツさんの姿が。
なんだか恐ろしげな雰囲気です。
このガイコツさん、もしかしたら。
「魔術師さん、その方は死神さんですか?」
「うん! そうだよ~」
「お初にお目にかかる。某、死神と申す者でござる」
怖い雰囲気とは裏腹に、死神さんの声音は穏やかでした。
よく見ると、死神さんが着ているローブの素材は高級品です。
きっと死神界のお偉いさんなのでしょう。
しかし、どうにも違和感があります。
その違和感の正体を口にしたのはメイドさんでした。
「あれ? 死神さん、鎌はどうしたんですか?」
そうです。あの特徴的な鎌を、死神さんは持っていないのです。
寝るときも手放さないという鎌を持っていないとは、何かあったのでしょうか。
ボクたちの疑問に、死神さんは答えます。
「スクーターで移動中に落としてしまったようだ。某、一生の不覚」
「どのあたりで落としたか、見当はついていますか?」
「ついている。東にある山だ。しかし、探しても無駄である。某、すでに東の山を探ったが、鎌は見つからなんだ」
「そうでしたか……」
困りました。これでは死神さんはお仕事ができません。
なんとかして彼を救わないと。
「近場にちょうどいい鎌は……」
「たしか、お屋敷の倉庫に死神さん用の鎌がありませんでしたか?」
「あるよ!」
「ありましたね」
メイドさんの言う通りです。
すっかり忘れていました。
「ねえねえペペロッペ卿、倉庫にある鎌を、死神さんに貸してあげようよ」
「ええ、それが良いでしょう」
決まりです。
ボクたちには使い道のなかった道具です。
倉庫で眠っているよりも、死神さんに使ってもらった方が、鎌も喜ぶはずです。
「死神さん、少し待っていてください! 私が新しい鎌を持ってきます!」
「かたじけない」
それから数分後、メイドさんが鎌を持ってきました。
鎌はとても重いのか、メイドさんはフラフラです。
ドカンと鎌が床に置かれると、死神さんは驚いた様子。
「こ、これは、エドアルド社製の鎌ではないか! このような良い品に出会えるとは、なんと誉なことか!」
骨をカタカタさせる死神さん。
喜んでくれたようで何よりです。
鳥さんも鎌に興味があるのか、メイドさんの腕を飛び出し、鎌を眺めています。
次の瞬間でした。
鳥さんが鎌を食べてしまったのです。
「ああ! 新しい鎌が!」
「と、鳥さん! それは食べちゃダメです!」
メイドさんは、チャキチャキと鎌を食べる鳥さんを抱き上げました。
しかし、時すでに遅しです。
鎌の先端は欠けてしまっています。
「おやおや、鳥さんは鎌が主食だったんですね。もしかすれば、落とした鎌も鳥さんたちに食べられてしまったのかもしれません」
「ぴー!!」
美味しい鎌に満足げな鳥さん。
欠けた鎌に呆然とする死神さん。
とはいえ、大きな問題ではありません。
「まあ、大丈夫です。倉庫にはまだ鎌があります」
「はい! あと10個はありますから、安心してください! すぐに取ってきます!」
「今度はボクも手伝います」
ボクとメイドさんは、その後すぐに倉庫から鎌を持ってきました。
鎌はとても重く、運ぶだけでも一苦労。
死神さんに鎌を渡す際、ボクはつい言ってしまいます。
「こんなに重い鎌をいつも片手に持っているなんて、死神さんはすごいです」
「大したことではござらん。なにせ、骨しかない某でも持てる代物。慣れれば誰でも持てるであろう」
さすが死神さん、言うことが違います。
死神さんは軽く鎌を担ぎ、顎の骨をカタカタさせました。
今度は魔術師さんがしっかりと鳥さんを抱いているので、鎌を食べられることもありません。
「ふむ、エドアルド社製の鎌を借りられるとはな」
「その鎌、あげます。返さなくても良いですよ」
「なんと!」
姿勢を正した死神さんは、深々と頭を下げます。
「かたじけない! このご恩、いつかお返ししましょうぞ!」
「ということは、また死神さんと会えるということですね。楽しみにしています。次は一緒にご飯を食べましょう」
「是非に!」
こうして、死神さんは新しい鎌を手に、お屋敷を去っていきました。
スクーターに乗る死神さんを見送ったボクたちは、ゆっくりと紅茶の時間です。
「ぴー!」
「そうだ! 鳥さんをお家に返してあげるの、忘れてました!」
「あ、ホントだ!」
「ごめんなさい、鳥さん」
「ぴ~」
やれやれ、といった風の鳥さん。
その後、魔術師さんがポケット山に鳥さんを連れていってあげました。
お家に帰れた鳥さんは、美味しい鎌を食べられたこともあり、とても満足げだったそうです。
めでたしめでたし。