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電車 後編

 トンネルを抜けると、とてつもない光景がボクたちを待っていました。


「おお~! 大都会だ~!」


「ここは……知らない街ですね」


「私も、この街は見たことも聞いたこともありません。だけど……高いビルがいっぱいです!」


 車窓からは、数え切れないほどの超高層ビルが空を切り裂く光景が広がっています。

 超高層ビルのてっぺんを見るだけでも、首が痛いです。

 近未来的です。

 カッコイイです。


「あっちのビル、高さ1000メートル以上はありますよ! こっちは、たぶん200メートル前後のビルですけど、10棟以上のビルが並んでいるので密度がすごいです!」


「なんだか、いろんな見た目のビルがあるよ!」


「はい! 伝統的なデザインや進歩的なデザイン、ガラスカーテンウォールなどなど、多種多様です!」


「キレイなビルがいっぱいだね!」


「キレイでカッコイイ高層ビルがいっぱいです!」


 メイドさんの目が輝いています。

 窓に張り付く彼女は、超高層ビルに心を奪われてしまったようです。


 ところで、ボクにはひとつだけ疑問がありました。


「駅はないのでしょうか? 電車を降りて街を歩ければ、メイドさんも喜ぶと思うのですが」


 ふとした疑問です。

 これに魔術師さんは答えます。


「この電車はね、行きたい場所には連れていってくれるけど、駅には止まらないみたい」


「そうなのですか。変わった電車です」


 だけど、それでも充分かもしれません。

 高層ビルを眺めるメイドさんは、とても幸せそうな表情をしています。

 どこから持ってきたのか、カメラを持ったメイドさんは高層ビルを次々と撮影しました。


 しばらく摩天楼を満喫したメイドさんは、満足げです。


「部屋に飾る写真が増えました! 私はもう満足です! 次はぺぺロッペ卿の行きたい場所に行きましょう!」


 いよいよです。

 ボクは少しだけ考えて、言いました。


「そうですね、ボクは天国に行きたいです」


「「ええぇ!?」」


 メイドさんと魔術師さんがすごい声で驚いていますが、ボクの願いは変わりません。

 電車はトンネルに入りました。


 はて、天国というのはどのような場所なのでしょう。

 トンネルの先の景色を思い浮かべ、ボクは楽しみと同時に恐怖を抱きました。


 数秒後、まぶしい光にボクたちは目を瞑ります。

 目を開けると、そこは天国——


「「「あれ?」」」


 なぜでしょう。窓の外に広がるのは、見慣れた草原でした。


「ここは……私たちが住んでいるお屋敷の周辺ですよね」


「ってことは、私たちは死んでた!?」


「怖いことを言わないでください!」


「えへへ~」


 いたずらっ子な魔術師さんです。

 しかし、困ってしまいました。


「ペペロッペ卿、これじゃあ……」


「満足はできませんね」


 期待外れです。

 電車には本気を出してもらいましょう。


「せっかくですし、地獄に行きましょう」


「「ええぇ!」」


 ボクの願いを叶えるため、電車はトンネルへ。

 地獄という行き先に、メイドさんと魔術師さんは肩を寄せ合い震えています。

 さすがのボクも、お願い事を間違えたような気がしました。


 とはいえ、もう手遅れです。電車はトンネルを抜けてしまいました。

 はて、地獄はどのような場所なのでしょうか——


「「「あれ?」」」


 なぜでしょう。車窓から見えるのは、見慣れた草原です。


「また、私たちのお屋敷の近くです」


「天国も地獄も身近なものだよ、って電車さんが教えてくれてるのかな?」


「そういうことなんでしょうか……」


 何はともあれ、やっぱり期待外れです。


「ご主人様、不満そうですね」


「当然です。次こそは、ボクの期待に応えてもらいます」


 ボクは息を吸いました。

 そして、大きな声で言いました。


「ネコさんの国に行きたいです」


 すると電車はトンネルへ。


 トンネルを抜けると、そこはやはり草原でした。

 ただし、見慣れない草原です。


 しばらく草原を走ると、電車は駅に止まりました。


 駅では、ボクたちが通ることのできない小さなドアが開きます。

 ドアを通って電車に乗ってきたのは、のんびり屋さんのネコさんたちでした。


「にゃ~」

「にゃ~ん」

「にゃ~」


 ネコさんたちは自由気ままに、電車内を歩き回ります。


「かわいい! 待って待って~!」


「にゃ~!」


 魔術師さんはネコさんたちと追いかけっこ。


「ほら、おいで~」


「うみゃ~」


「ふにゃ~」


 寄ってきたネコさんを抱いて、メイドさんもネコさんのようになってしまいました。

 ボクはというと


「にゃ~!」

「にゃ~ん!」

「うみゃ~」

「にゃにゃ~」


 たくさんのネコさんに囲まれてしまいました。

 ネコさんに囲まれ、ボクは身動きが取れません。


「ペペロッペ卿、ネコさんたちに大人気だね!」


「ご主人様、ネコさんたちのご主人様になれますね」


「これだけ囲まれてしまうと、少し困ってしまいます。でも、かわいいです」


 ボクたちは電車内で、ネコさんたちとたくさん遊びました。


 少し時間が経つと、ネコさんたちはお昼寝をはじめます。

 自由にお昼寝するネコさんたちを眺めながら、ボクは電車にお願いしました。


「そろそろお家に帰りたいです」


 電車はボクのお願いを聞き、トンネルに入ります。

 トンネルを抜ければ、見慣れた草原に到着です。


 間もなく電車は駅に停車し、ドアが開かれました。


「ネコさんたち、さようなら!」


「さようならです!」


「またどこかで会えると良いですね」


「にゃ~!」

「にゃ~ん!」


 ネコさんたちとの別れの挨拶を済ませ、ボクたちは電車を降りました。

 たくさんのネコさんたちを乗せた電車は、ゆっくりと、そして悠然と駅を去っていきます。


 去り際、電車は警笛を鳴らします。

 きっと電車は、「またのご利用を」と言っているのでしょう。


「ペペロッペ卿、今日は楽しかったね!」


「ええ。電車の旅も楽しいですね」


「それではご主人様、魔術師さん、帰りましょうか」


「うん!」


「はい」


 電車の旅を終えたボクたちは、楽しい思い出を胸に、お屋敷に帰りました。


 めでたしめでたし。

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