フライパン 後編
171個。
収穫したフライパンの数です。
気づけばお昼ご飯の時間になっていました。
ボクたちはメイドさんが作ってくれたテリヤキバーガーを食べながら、お話をします。
「フライパン、たくさん採れましたね」
「大収穫だよ!」
「でもご主人様……このフライパン、どうしましょうか?」
「たしかに、こんなにたくさんのフライパン、使い道がありませんね」
「圧力鍋だったら、私が作ってるポーションの素材になったのに」
「「「う~ん」」」
困ってしまいました。
このままでは、お屋敷がフライパンに埋め尽くされてしまいます。
頭を抱えてしまうボクたち。
ここで、腕時計を見たメイドさんが叫びます。
「大変! お買い物に行く時間です! このままでは特売を逃してしまいます!」
一大事です。
だけど、おかげでボクは思いつきました。
「そうです! 街でフライパンを売れば良いんです!」
「「おお~」」
我ながらこれは名案です。
早速メイドさんはフライパンを持って、街へお買い物に向かいました。
ボクと魔術師さんはメイドさんの運転するトラックを見送り、メイドさんも帰りを待つだけです。
*
お屋敷に帰ってきたメイドさんは、ホクホク顔でした。
彼女が持つ袋には、たくさんの食材とたくさんのお金が入っています。
「見てください! こんなに儲かりましたよ!」
「これだけのお札を見るのは久しぶりです」
「ということで、今日はステーキです!」
「うおーー!! やったーーー!!!」
いつも美味しいメイドさんのお料理が、さらに美味しくなります。
晴れた日に美味しいご飯、楽しい会話。
今日はとても良い日です。
*
次の日になりました。
昨日と同じく、ボクはカーテンの隙間から差し込む太陽の光で目を覚まします。
2日連続の良い天気です。
ボクは2日連続のお庭の散歩に向かいます。
「あ! ペペロッペ卿だ! おはよう!」
「おはようございます、魔術師さん」
お庭のお散歩中、魔術師さんと朝の挨拶を交わします。
2センチの戦車を運ぶ魔術師さんは、いつも通り元気です。
続けて、ボクの背後から鈴のような声が聞こえてきます。
「ご主人様! おはようございます!」
「ああ、メイドさん、おはよう——うん?」
ビックリしました。
メイドさんは両手にフライパンを持っています。
それだけではありません。彼女が持つ袋の中にも、服の中にも、たくさんのフライパンが詰め込まれています。
まるでフライパンのお化けです。
完全に昨日と同じ展開です。
「またフライパンが生えてきたんですか?」
「そうみたいなんです! 一晩で、昨日と同じくらい生えていました!」
「ビックリですね。不思議です」
収穫したばかりだというのに、たった一晩で100以上のフライパンが生えるのは、おかしなことです。
これは調査をする必要があります。
「魔術師さん、フライパン畑を掘ってみてください」
「分かったー!」
ボクの言葉に従ってくれた魔術師さんは、ショベルカーでフライパン畑を掘りはじめました。
新鮮なフライパンごと地面を掘り続けるショベルカー。
2メートルは掘ったかな、というところで、魔術師さんが何かを発見します。
「あ! 見て見て! 地面の中から建物が出てきた!」
魔術師さんの言う通りです。
フライパン畑の下には、大きな建物が埋まっていたのです。
「何か書いてありますよ!」
「そうですね。なんと書いてあるんでしょうか……」
建物に書かれた文字。
それをメイドさんが読み上げます。
「えーと、『フライパン工場』って書いてあります!」
これで全ての謎が解けました。
「なるほど、このフライパン工場が、フライパン畑を作っていたのですね」
地下の工場で作られたフライパンが、お屋敷の庭に生えてきていたのです。
この工場のおかげで、ボクたちは昨日、ステーキが食べられたのです。
メイドさんは少し考えて、言いました。
「フライパンを売って稼いだお金は、工場に渡した方が良いのでは?」
「ええ、メイドさんの言う通りですね」
けれども、魔術師さんは待ったをかけます。
「でもでも、フライパンを売ってお金を稼いだのは私たちだよ! 小売店にも売り上げの一部が入って良いと思うの!」
「ええ、魔術師さんの言う通りでもあります」
2人の言葉は間違っていません。
だから、ボクはひとつの答えを口にします。
「売上の7割は工場に渡しましょう。ボクたちは3人しかいませんから、売上の3割でも充分な収益になります」
「賛成です!」
「まあ、それなら良いかな……」
決まりです。
メイドさんは早速、昨日の売上の7割を工場の窓の前に置きました。
そして魔術師さんは、工場の窓以外の全てを土で埋めます。
これでフライパン畑は元通りです。
「これでフライパン工場さんも満足してくれますかね?」
「満足してくれなければ、交渉をするまでです。それよりも、今日の分のフライパンを収穫しましょう」
「分かりました! 魔術師さん、手伝ってください!」
「はーい!」
その後、ボクたちはフライパンの収穫をしました。
今日、収穫できたフライパンの数は180個。やっぱり大収穫です。
この先も、フライパン工場さんと仲良くできれば、ボクたちも貧乏貴族を脱出できるかもしれませんね。
めでたしめでたし。