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お財布

 とある晴れた日。

 とある賑やかな市場。


「お嬢ちゃん、今日のフライパンは新鮮だねぇ」


「はい! フライパンは今が旬ですから!」


「ウチの野菜も今が旬だよぉ。どうだい、買っていかないかい?」


「美味しそうな野菜です! もちろん買います!」


「毎度ありぃ!」


 メイドさんはいつも通り、採れたてのフライパンを売り、食材を買っていました。


 ところが、その日はいつもと違うことが起きます。

 買い物を終えたメイドさんが、お財布を落としてしまったのです。


 地面に置き去りにされたお財布は、走り去るトラックを眺めるだけ。


「取り残されてしまったか。仕方がない」


 お財布はそう言って飛び跳ねました。

 飛び跳ねるたび、お財布は少しずつ前進します。

 もちろん、目的地はお屋敷です。


「硬貨やお札が少ないのは寂しい限りだが、今日に限っては悪いことではないな」


 貧乏貴族のお財布は軽いものです。

 おかげで体が軽いお財布は、どんどんと前へ進んでいきました。


 ただ、お財布の移動距離にも限界はあります。

 お屋敷はあまりにも遠いのです。


「タクシーを使うべきか? いや、金がない。草原の近くまで行くバスで我慢するか」


 自分の限界を自覚し、お財布はバスに乗りました。


 バスに揺られること約1時間。


 街の景色は草原の景色へ。

 人は減り、建物すら少ない場所へとバスはお財布を連れていきます。

 遠くに見える山脈は、メイドさんのポケットの中から見えた山脈でした。


 目的地が近づいていることに、お財布は安心感を抱きます。


 とはいえ、ここはまだ草原の入り口。

 バスを降りても、お屋敷はまだ遠いのです。


「再び歩きか。果たして、お屋敷にたどり着くのはいつのことやら」


 停留所にて、お財布はため息をつきました。

 太陽は西の空に傾いています。

 今日は野宿を覚悟しなければいけないかもしれません。


 ただし、お財布は幸運でした。

 お屋敷の方角に向かう行商人の馬車が、すぐ近くを通りかかったのです。


「これはまたとない機会!」


 お財布はピョンと跳ねて、行商人の馬車に乗り込みます。

 行商人には何も言わずに馬車に乗り込んだのです。

 お財布は息を潜めました。


 さて、馬車に揺られること数時間。

 アクセサリー類や骨董品に囲まれながら、お財布は外の様子をうかがいます。

 残念ながら、お屋敷はまだ遠くです。


「ううむ……きちんとお屋敷に帰れるのだろうか……」


 1人っきりの旅です。

 だんだんと、お財布は弱気になっていました。


「いや、必ず帰れる。必ずお屋敷に帰ってみせよう」


 お財布は決して諦めません。

 弱気になるたび、お財布はメイドさんの顔を思い出し、自分を鼓舞し続けました。


 そんなお財布の強い思いが届いたのでしょうか。

 空には1機のドローンが。


「あれは、ペペロッペ卿のドローン! まさか、私を探して……!」


 必ずしもそうとは限りません。

 それは、ただの通りすがりのドローンかもしれません。


 けれども、お財布は自分に従います。

 お財布は勢いよく馬車を飛び出し、ドローンに見えるように飛び跳ねました。


 するとどうでしょう。

 ドローンはお財布の横に着陸します。


「発見しました。これより、お財布を保護します」


 そう言ったドローンは、続けてお財布にレンズを向け、


「もう大丈夫です。すぐにペペロッペ卿の迎えが来ます」


「本当か! ああ……良かった……」


 これでお屋敷に帰れると一安心。

 緊張から解放されたからでしょうか。

 お財布は強烈な眠気に襲われ、ついには眠ってしまいます。


 次に目が覚めたとき、お財布はトラックの中、メイドさんの隣にいました。


    *


 さて、ここまでがお財布さんから聞いた話です。


 小さな大冒険に、ボクも魔術師さんも、そして地底人さんも聞き入ってしまいました。

 一方のメイドさんは、お財布さんを優しく抱き上げます。


「ごめんなさい! 私が不注意だったばっかりに、お財布さんを大変な目に遭わせてしまって!」


 涙目のメイドさん。

 でも、それは笑顔と同居した涙です。


 メイドさんはお財布さんを大事にしていました。

 だから、お財布さんが無事に戻ってきたことが、心の底から嬉しいのでしょう。


 喜ばしいのはボクたちも同じです。


「良かったですね。メイドさんもお財布さんも悲しまずに済みました」


「うん! お財布さんに魔法をかけておいて正解だったよ!」


 自分の手柄を誇る魔術師さん。

 地底人さんはメイドさんの側で感情を爆発させました。


「うわぁぁぁん! メイドとお財布が再会できたのだぁぁ! 感動的なのだぁぁ!」


 メイドさん以上に涙を流す地底人さん。

 彼女はアルパカさんで涙を拭います。


 何はともあれ、お財布さんは無事に帰ってきたのです。

 お財布を抱きしめたメイドさんは言いました。


「もう二度と、落としたりなんかしません!」


 その言葉に、心なしかお財布さんは嬉しそうにしています。

 これで、明日もいつも通り、メイドさんとお財布さんは仲良くお買い物ができますね。


 めでたしめでたし。

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