表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

旅行1日目 後編

 大聖堂の端っこには、重い鉄の扉があります。

 鉄の扉をくぐると、尖塔のてっぺんへと続く階段が現れました。


「長い螺旋階段ですね」


「何段あるかな?」


「数えたことはないのです」


「それじゃあ、上りながら数えようよ!」


「数えることはできないのです」


「え!? なんで!?」


「てっぺんまではエレベーターで行くからなのです」


 そう言って、天使さんは壁のスイッチを押します。

 同時にエレベーターの扉が開きました。


 メイドさんは感心した様子です。


「古い建築物と現代技術の融合! 私、こういうの大好きなんです!」


「気に入ってくれて何よりなのです」

 

 無表情な天使さんも、どこか嬉しそう。


 ボクたちは、さっそくエレベーターに乗り込みました。

 軽快な音楽を聞きながら、ボクたちは尖塔のてっぺんに到着するのを待ちます。


「どんな景色が見られるのかな~、楽しみだな~」


「歴史ある大聖堂の尖塔、あの有名な魔法使いアルゼンが立った場所に、私も立てるなんて……」


 いよいよです。

 エレベーターの動きが止まり、再び扉が開きはじめました。

 扉が開くなり、強い光がボクたちの目に。


「こっちなのです」


 天使さんの指示に従い、数歩前へ。

 すると、ようやく明るい場所に慣れたボクたちの視界に、素晴らしい景色が広がりました。


 それは、高さ800メートルの尖塔から見下ろす歴史の街の景色。

 数千年の歴史が積み重ねられ、今も変わり続ける街の全体像です。


 網目状の街道。

 区画ごとに違う、石造りや木組み、コンクリートの建築物。

 豆粒のような人々や乗り物。

 空を飛び交う気球、ドラゴン、飛行機、宇宙船。


 ボクたちは鳥になったような気分でした。

 歴史を一望できる景色に、ボクたちの心は踊ります。


「すごい、すごいです! ダイフク城もセンベ宮殿も、凱旋門もアラーレ劇場も、なんでも見えます!」


「綺麗な景色……」


 不思議です。

 いつもは冷静なメイドさんが無邪気にはしゃぎ、いつもは無邪気な魔術師さんが冷静になっています。


 かくいうボクも、素晴らしい風景に言葉すら出てきません。


 天使さんは首をかしげます。


「満足、してくれたのです?」


「もちろんです。旅行の初日から、最高の気持ちになれました。ありがとうございます」


 これは素直な言葉です。


 それに対し、天使さんはかすかに笑みを浮かべました。

 どうやらボクたちだけでなく、天使さんも喜んでいるようです。


 その後も、ボクたちはしばらく尖塔から街を眺めました。


 ボクたちが地上に降りたのは、陽が傾きはじめた頃。

 アンコロモチ大聖堂の前で、ボクたちは天使さんに見送られます。


「久々に人間とお話ができて、嬉しかったのです」


「ボクたちも、普段は行けない尖塔のてっぺんに行けて、とても嬉しかったです」


「良い思い出になりました! ありがとうございます!」


「天使さん、また会えると良いね!」


「はい、なのです」


 手を振るボクたちと、お辞儀をする天使さん。


「そういえば、お名前を聞いても良いのです?」


 そうでした。

 天使さんとの自己紹介がまだでした。

 すぐさまボクは、簡単に自己紹介します。


「ボクの名前はペペロッペです」


 天使さんはうなずき、そして言います。


「ではペペロッペさん、さようならなのです」


「さようなら」


 別れの挨拶を終えた天使さんは、石像に戻りました。

 ボクたちはアンコロモチ大聖堂を後にし、宿泊地へと向かいます。


 旅行1日目は、とても貴重な体験ができた良い日でした。


 めでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ