地底人さん 前編
メイドさんと魔術師さんの2人と一緒にお昼ご飯を食べているときでした。
どこからか叫び声が聞こえてきます。
「フハハハハハハ! 地上はこの我が支配したのだ!」
なんということでしょう。
誰かに地上が支配されてしまったようです。
ボクたちは叫び声を上げた人を探します。
しばらく辺りを見渡すと、メイドさんが窓の外に指をさしました。
「あそこに誰かいます!」
メイドさんの指の先には、たしかに人影が。
よく見ると、その人影はとても細い目、真っ白な肌、鋭い爪を持っています。
ボクは彼女を知っていました。
「あの人は、地底人さんですね」
その名の通り、地底に住んでいる人です。
数十年に一度だけ地上にやってくる、珍しい人です。
これで人影の正体は判明しました。
それでも魔術師さんは首をかしげます。
「ねえねえ、地底人さんは何をしているの?」
「う~ん、分かりません」
たくさんのアルパカさんを前に胸を張る地底人さん。
彼女が何をしているかを知るには、彼女に直接、質問するしかありません。
「少し声をかけてみましょう」
ボクたちはお昼ご飯を中断し、お屋敷の外に出ました。
雲ひとつない青空。 燦々と照りつける太陽の光。
ポカポカ天気の中で、地底人さんは声を張り上げています。
「地上の民たちよ! これからは我を支配者と崇めるのだ!」
「ふーん」
「よいぞよいぞ! お主らは良い民なのだ! 我はお主らを気に入ったのだ!」
「ふーん」
アルパカさんたちは表情ひとつ変えていません。
だけど、地底人さんは満足そうなので良いでしょう。
「地底人さん、どうしたのですか?」
「その声は……ペペロッペ卿! この地を支配する者なのだ!」
「う~ん、まあ、間違ってはいません」
「やはりな!」
人差し指をボクに向け、地底人さんは白い歯をのぞかせます。
アルパカさんたちも一斉にボクを見つめます。
どうしてでしょう。ボクは嫌な予感を抱きました。
それはメイドさんと魔術師さんも同じようです。
地底人さんはボクたちの嫌な予感を的中させるように言いました。
「この地上世界は我が支配したのだ! この地の支配者であるペペロッペ卿よ! お前の土地を我に明け渡すのだ!」
「ふーん」
アルパカさんたちに応援され、自信満々の地底人さん。
メイドさんはとっさに反論します。
「待ってください! 地底人さんは何を根拠に地上を支配したと言っているんですか!?」
「根拠? 我が地上を支配したと言っているのだから、我が地上を支配したのだ!」
「ええ~!?」
めちゃくちゃです。
これにはメイドさんも言葉を失ってしまいました。
アルパカさんたちは、どうやら地底人さんの味方のようです。
アルパカさんたちはボクたちをじっと見つめています。
その視線に耐えられなくなった魔術師さんは、ボクの背中に隠れながら言いました。
「どうするの?」
「そうですね……」
ここははっきりと答えるべきでしょう。
「地底人さん」
「なんなのだ?」
「土地は明け渡せません」
「なんだとなのだ!?」
地底人さんの顔がみるみる赤くなっていきます。
彼女が怒っているのは明白です。
「なぜなのだ! なぜ我の言うことが聞けないのだ!」
「なぜと言われても、聞けないからです」
「我はお前を許さないのだ! 決闘なのだ!」
「「け、決闘!?」」
突然の物騒な言葉に、メイドさんと魔術師さんはびっくりしています。
心なしか、アルパカさんたちもびっくりしているような気がします。
メイドさんは地底人さんに抗議しました。
「いきなり土地を明け渡せと言って、それが嫌なら決闘しろだなんて、ひどいです!」
ボクも同感です。
さすがに地底人さんの言葉はめちゃくちゃです。
だけど、きっと地底人さんは話し合う気はないはず。
それならば、ボクの答えはひとつだけ。
「地底人さん、決闘を受け入れましょう」
「「「ええ!?」」」
想定外の返事だったのか、メイドさんと魔術師さんはびっくりしています。
心なしか、アルパカさんたちもびっくりしているような気がします。
それどころか、地底人さんまでびっくりしています。
しばらくの沈黙が訪れました。
その沈黙を破ったのは地底人さんです。
「フハハハハハハ! 面白いのだ! 生まれてはじめての決闘なのだ!」