戦闘は用法用量を守って行いましょう。
「カイッ!」
「あいよ!」
外骨格鎧の腕に仕込んである単分子ワイヤーを射出し、何とか壁に取り付いた。
指示を出すと親指を立てて答えてくれたので、フィアナとシュナは大丈夫だ。
「しょっ、と…」
壁に亀裂を見つける、そこから中には入れそうなので壊れた壁から建物内部へ。
薄暗いが何か動く者の気配がする。
銃剣を起動させ、注意深くあたりを見回した。
「恐怖映画かよ」
起き上がらなかったら死体か人形だと思っただろう。
土色の皮膚は水分を感じないくらいカラカラな者、手には武具を所持。
ボロボロの鎧を着ているのは、現地の兵士のように見える。
「話が分かるなら聞いてくれ…」
銀河連邦条例、この辺境で通じるかなぁ…。
「俺は…って、やっぱ無理か!?」
それらがいきなり襲い掛かってきた。
「そっちがその気なら!」
狙いも曖昧、ただ振り下ろすだけの剣線をよけるのは造作もなかった。
銃剣の銃口を展開してエネルギーの刃に変え、襲い掛かって来た者の腕を払う。
「…どんなカラクリだよ」
あっけなく斬れて落ちて床で蠢いている腕。
斬れ落ちてもそれを拾おうとせず、そのまま襲いかかって来る。
「さながら亡者兵って所か、誰か何者かに操られている感じだな?」
目の前の者でなく、仮にもしいるのならこの遺体を動かしている者に問いかけてみた。
返事の代わりに振り下ろされるのは折れ曲がった錆付いた剣。
「あぁもう、こんなんアクションゲーム感覚だな!」
一応の銀河連邦条例は聞いて貰えそうにない、自衛の為の応戦する事にする。
そんなこんなで約一時間、正当防衛している。
「のあッ!?」
いきなり壁から槍が飛び出る、鼻先をかすめた。
「このッ!?」
壁に向けて熱撃弾を撃ち込む。
確認はしないが焼けてはいるだろう。
「のっけからこれかよッ!?」
とりあえず上を目指して進むと階段を発見、登って進んでみるとこうなった。
かれこれ10体以上は、無効化してきたが減る気配がない。
さて問題は。
銃剣の弾倉は予備もあるし自動充填式だからほぼ無限。
しかし、外骨格鎧の衝撃緩和は、限りがある。
修理すると24000、衝撃樹脂の追加装填だけなら5000、買い替えなら最新モデルが10000~30000。
うん、俺の命の値段は5000です。
いや、喰らわなければ言いだけの話!
「やってやる!」
破損なんてさせてやらない。
奴らの武装からみて、剣や弓矢や槍やらだから回避できるはず。
これが終わったら絶対買い換えてやる。
「…よし、いないな?」
やっと陸橋の上まで出た。
ドラゴンはいない、最初にいた場所からそんなに離れていないが崩れていて戻れそうにない。
「進むしかないか…!?」
俺は足を止めて銃剣を構えた。
漆黒の全身鎧のそれが座っている。
微動だにしないが、その兜から赤く血走った眼が見える。
「…通しては貰えないんだよね?」
ゆらりと立ち上がり、信じられないスピードで突っ込んできた。
「くッ!?」
気がつけば顔の横に長剣の刃があり、自分の顔が映っている。
避けなければ串刺しだった、冷や汗が垂れた。
油断なんか出来ない相手だ。
高速の剣戟がはじまった。
「ヒュッ!」
一瞬が命取り、読み間違えれば命が喰らわれる。
こちらの攻撃は固い鎧に阻まれ浅い傷しかつけられない。
さっきのまでの亡者兵とは段違いの強さだ、一撃が重くて鋭い。
くそ、致命打を与えられない。
「くぅ!」
大振りの一撃が外壁に刺さる、チャンス!
しかし長剣を手放し殴りかかってきた。
飛び退いて避けて、距離をとった。
「ぐぉおぉおおぉーーーッッッ!?」
突然、何者かの咆哮と地響き。
ドラゴンとは違うそれがこちらを睨む。
「次から次と…まったく」
亡者兵とは違う、猛牛が二足歩行したような生物。
それが巨大な斧を持って向ってくる。
「今度はミノタッ!?」
猛牛人は黒騎士を掴み、陸橋の下に投げ落とした。
「…味方、ってわけじゃないよな?」
次に猛牛人は、涎を垂らしながら斧を振り上げた。
「御主人様、今!!」
「シュナか!?」
飛び出して猛牛人の顔に袋を被せるシュナ。
俺は急いで銃剣を出力の最大に引絞った。
「シュナ、飛べッ!!」
同時に飛び退いたシュナが見えたので、引き金を強く引き寄せる。
最大火力撃を奴に叩きつける為に。
赤い斜線が天空まで走り、遅れて射撃音が響く。
激しい閃光が巻き起こりそのあとに残ったのは、猛牛人の下半身だけだった。
「シュナ、平気か?怪我はないか?ありがとう助かった!」
「…平気、無事で怪我ない」
シュナは身体をビクッと震わせたが構わず頭を撫でた。
「さて、みんなと合流しよう」
「ん、たぶんこっち…」
「分かった」
シュナと俺は、白亜の建物の方に歩き始めた。