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空を見上げたその向こう  作者: 猫姫
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どんな所でも住めれば都。

竜の一撃で老朽化した石作りの陸橋が落ちた。

御主人様は無事、ワイヤーを射出して壁に取り付いたのが見えた。

宝石人ボックスはたぶん無事、有翼人ハルピアンがその後を追って滑空したのが見えたから。

あの羽だって伊達じゃないだろうし、良かったみんな無事か。


目を瞑り、数秒後に起こる未来に備えた。


ザブンッ!


…ここは?

一面の水、上方に光りが見える。

少し泳ぐと草が生えた岸に付いた。


辺りを見ると上空に小さな穴がありそこから落ちてきたようだ。

辺りを見回してみた、何か小さい生き物が動いた。


「クラヤミトカゲ…」

星系によって差異は違うが大体一緒の体長数センチの原生生物。

私達、吸血人ドラキュリエは、彼らを洞窟の水先案内人として重宝している。


「…捕まえた」

頭からガブリ、そのままチューチューと血を吸う。


たぶんこの姿を見られたから吸血人ドラキュリエなんて言われるようになったのだろう。

吸血ドレインは別に食事や嗜好じゃない、血からその生き物の情報を得る為だ。

一匹からでも得られる情報は多く、クラヤミトカゲならここ数百年分の周囲マップ情報が得られる。


ちなみに人種なんかは情報が多すぎて吸血ドレインしすぎると、自我を保てなくなり精神が崩壊してしまう。

正直に言って不味すぎて飲みたくないし、一滴から得られる情報にさえ妄想ノイズが混ざるから余程の変わり者の吸血人ドラキュリエしかしない。


「さてと…」

目を閉じ集中する。


ここは、古井戸。

壷の様な構造、そこの水は飲料水として有効、この上は台所。


「…ん」

もう少し集中した。


クラヤミトカゲは、陸で生まれたが霧が突然発生し追われて井戸にきた。

その際、台所で給仕の女の人が霧に襲われている所を目撃している。

気が動転しているのか必死な形相で塩を撒いている。

そのあとここに落ちた、霧はなぜか入ってこなかった


「…ふぅ」

少し歩いて見る。

クラヤミトカゲがここで暮らしてたとき見たものがある。

給仕が誤って落としたのであろう鍋とクラヤミトカゲの巣、中には卵があった。


その辺の石で簡素な石かまどを作り、乾燥して燃えそうな物を探した。

それから御主人様に持たされた背負い袋を開けてみた。

防水仕様で中身は濡れていない、丁度良いのでメモ帳を取り出した。

日記をつけろと言われたけど、血を吸えば情報が引き出せるのだからいらないと思う。

数個貰った卵と食べられる草を捜し集め、調理用のナイフでクラヤミトカゲをブツ切りにして鍋に入れる。


「便利…」

バックに入っていたライターは、簡単に破ったメモ帳の切れ端に火をつけられた。

ついでだから服を脱いでその辺に干して、火の前に座る。


鍋が煮えるまで目を閉じた。



隠し名は『透明無垢純粋シュリナ・シュア・シュシュ

私の集落は割と裕福だったので、一度も飢えた事はなかった。

それは長であるじっちゃんが機甲兵装エクスプロラシオンを持っていたからだ。

おかげで遺跡の発掘と封印は100を超えた。


それが他の集落の嫉妬を集めた。


そんなある日、宝石人ボックスの男が現れた。


男は言った。

「発掘依頼をします、ザナドゥの…」


それは罠だった。


巨大宇宙船に分けて乗せられ、暗い船底コンテナに押し込まれた。

それでもみんなは、まだ見ぬザナドゥ遺跡に意気は高かった。


それから粗末な食事が途絶え、皆が飢えはじめた。

騙されたと呟く者が出る中、じっちゃんが諌めた。

それから程無くして我慢は崩壊、生を求める死が連鎖した。


私もそれに飲み込まれた、それを引き戻してくれたのはじっちゃんの腕だった。

痩せてはいても大きな腕が私を押さえつけてくれた。

無意識に噛み千切って血を啜り、我に返って泣き出して謝った。

力ない笑顔で頭を撫でてくれた。


「心配ない」と。


そして三人になった。

仲間を喰って力をつけた獣に成り下がった仲間だった者。

集落の長でもっとも力があったが、力の枯れたじっちゃん。

最後の力を振り絞るじっちゃんの後ろで、恐怖で震えが止まらない私。


結果、相討ちしたじっちゃんと仲間。


…。

……。

………。


それから何時間たったのか何日たったのか分からない。


「誰かいるか!」

扉の向こうから声が聞こえた。



「あ、鍋…煮えた」

背負い袋の中にあったフォークとスプーンと皿を用意し、食べる事にした。


「いただきます…」

それが何の言葉か知らない、けど御主人様が言えと言うので。


「…不味い」

草味、獣くさい。


ひんやりとした壷の中の世界、霧に浸食された外から隔離されているからここは安全。

食事も工夫すればたぶんやっていけるだろう。

生きていくだけなら食料も豊富、奴隷でない独りだけの世界。


「…よし」

乾いた服を着て身支度を整える、出口を捜す事にした。


「御主人様のご飯は、美味しかったんだ…」

私は出口を求め、クラヤミトカゲの記憶の底を漁った。

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