落とし穴はだいたい他人が掘って罠にする。
ドルアガート星系第四番惑星クリシュアナ、生命が宇宙進出レベルまで発達したが衰退した。
近隣の惑星の植民地化で留まり、その痕跡は遺跡として今も残っている。
最近その一つの惑星の地下にレアメタルが眠っていることが分かり、そこに目をつけたリクレット社が惑星ごと買い取り調査を始めた矢先だった。
調査団の第一陣が謎の霧に阻まれ調査を断念、持ち帰ったサンプルは何の変哲もない霧と高純度レアメタル鉱石。
問題ないと判断したリクレット社は、第二陣として本格的な機材を積んだ資源発掘チームを送り込んだ。
しかし、調査団の通信途絶、反応がなく安否が分からない。
もう後には引けない資金を投資していて、最悪の場合は資源発掘チームの残した情報だけでも回収して欲しいとのこと。
「いったいなんなのかしらね…さて、大気圏突入するわ」
「了解、まぁ着いてみれば分かるさ」
フィアナの宝石が明滅する。
俺らは各々所定の場所に座り、シートベルトを閉める。
中古宇宙船は、大気圏突入時に一瞬全ての電力が消えたがトラブルはそれだけ、すぐに復旧した。
次に前面スクリーンに映ったのは、青い海と青い空だった。
「陸地はあるか?」
「…んとね、待って…あった。例の調査団と同じ反応感知、近くに降ろすわ」
「おぉ、日の光りがあるのは助かる!」
着陸の衝撃に船体が揺れる、何とか着地出来たので大気成分を調べるドローンを射出。
湿度が少し高いくらいで、呼吸に出来る酸素濃度、有害毒素は無く紫外線も通常範囲内、重力も地球と同程度。
「それじゃ上陸しますか…」
完全防御服じゃなくてもいいのは助かる。
各自で身支度を済ませ、上陸する事にした。
「これは…」
最初に目にしたのは白銀の砂、動植物が一切見えない。
遠くに見える白亜の建物、中世末期の城のような作りに見える。
「…硬化蛋白質だと思う」
「化石化した骨?」
「ちょっと違う、生きたまま一瞬で石になったような感じ、それが粉になったもの」
シュナは砂を少し摘んで凝視して、手のひらで転がしてから立ち上がった。
「兎に角、捜索を始めよう」
俺達は発掘チームの救難信号を頼りに進む事にした。
「ッ!?」
「…信号消えた!?」
「どういうことだ?」
カイと俺は顔を見合す。
フィアナが発信機をチュックしたが異常は見られない。
「…くる」
シュナの言葉のあと、俺達は霧に包まれた。
「みんな離れるな!」
慌ててシュナの手を繋ぐ、ねっとりと纏わり付く霧の中を進んだ。
周囲は霧のようなもので5m先が感知できない、センサーも駄目か。
遠くに見えた建物に向け歩みを進める。
30分は歩いただろうか、霧の先に巨大な門が見えた。
引いても押してみてもびくともしない。
「カイ、ちょっと頼む」
「あいよ」
「いっせーのッッッ!!」
俺は外骨格鎧を腕力増強モードに切り替える。
カイの両腕に力が篭り、扉は二人がかりで少しづつ開き始める。
「いっちば~んっ♪」
一人分の隙間が開き、フィアナが飛び込んだ。
「こら、あまり先に行くなよ?」
俺らは順に門をくぐる。
扉の先は巨大な陸橋で所々崩れている。
その先には開かれた扉、検疫所か何かだろう。
さらにその先に陸橋は続き、遠くから見えた白亜の建物に繋がっている。
石作りの陸橋に似合わないものを見つけた。
リクレット社のエンブレムの上陸用飛空挺だ。
「カイ、救護キット。フィアナとシュナは生存者を捜してくれ」
全員に指示を出し、俺は発掘チームの飛空挺に近づいた。
かなりの勢いで着陸、いやこれは墜落したのだろう。
「…」
小型飛空挺には、生存反応が無く操縦席に遺体が一つあるだけだった。
手を合わせてから飛空挺内を見て回ったが、とくに変わった様子は無かった。
やはり外からの攻撃痕が原因か。
「御主人様!」
シュナの声の方へ向うとそこには靴跡がある。
歩幅が大きく間隔は乱れている、かなり焦って走って逃げた感じだ。
「…取り合えずみんなと合流しよう」
「分かった」
いきなり空が暗くなった、違う巨大な何かの影だ。
「な、なんなの今度は!?」
「あれは!?」
「ド、ド、ド、ドラゴンッッッ!?」
たぶん飛空挺が墜落した原因はこいつだろう。
巨大蜥蜴で背中に羽根が生えた生物、まさに神話にでも出て来そうな西洋竜だ。
「に、逃げッ!?」
その怪物は急降下し陸橋に降り立つ、拍子に地面は揺れ崩れた。
俺達はそのまま真っ逆さまに、下へと落ちた。