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河童編・16




「まったく……ずいぶんと舐めた真似してくれたもんだ。

 おかげで嬢ちゃんを見つけるのに苦労したぜ」



「ミズチ? き、貴様まで……なぜここにっ!?」



 ミズチおじちゃんが来てから、河童のおじさんの顔色がもっと悪くなった。

じりじりと後ずさり、ミズチおじちゃんをじっと見ている。



「お、おまえはこの件には関係ないはずだろう!? 

 神同士の争いごとは、不介入が決まりだぞ?」



 やたらと震えているあたり、ミズチおじちゃんが怖いのだろうか。

たしかにこの中では体が大きくて強そうだものね。

思わず逃げ出そうとした退路を塞ぐように、

ミズチおじちゃんが通せんぼをする形で、目の前にさっと立ちはだかっている。



「ああ? 大ありなんだよ」


「……っ!?」


 かっと目を見開いて威嚇するミズチおじちゃんに、

河童のおじさんも私も、青い子もびくっと反応した。



「てめえがこんな小さい嬢ちゃんをかっさらったからじゃねえか。

 俺様は、女子どもは守るべき存在だと思っているからな。

 それをこんな身勝手な都合でさらわれたとあっちゃ、やっぱ許せんだろ。

 ましてや、そこに居る嬢ちゃんは俺様の氏子だからな」


「く……! この娘はおまえの眷属だったのか!!」



 ミズチおじちゃんはいつもよりも怖いお顔をもっと怖くして、

河童のおじさんをぎろりとにらむ。


 前に見たことがある私も、ちょっと足がぷるぷるしてしまったぞ。

そのおじちゃんの肩の上に居る亀の翁おじいちゃんは、

相変わらず小さくて、長い眉毛とかひげが無かったら亀の子どもみたいだ。


 でも、翁おじいちゃんは、それを見ても全然怖がったりしていなかった。



「まあ待てミズチよ。わしの方から先に話をさせてくれんかの?」



 河童のおじさんは、ミズチおじちゃんの存在に気を取られていたせいか、

翁のおじいちゃんの存在にようやくに気づくと、

強張っていた顔を緩め、その場に膝をつき深々と頭を下げた。




「こ、これは翁様!! このような場所においでで……」


 話を遮るように、翁おじいちゃんが持っていた小さな木の杖が振り上げられた。



「緑王よ、久しいのう。

 先日の会合では話すこともあまり出来なかったが……。

 さて、それよりも、これはどういうことかの?

 水神の力を使い、他所の水神の神域へと侵入して悪さをしたとか」



 翁のおじいちゃんの長いまゆげは、ますます悲しそうに下がった。

それと同時に……眉毛の間から見える、きらーんと金色に光る眼がある。



「天主より賜った水神の力を悪用したらしいが?」


「そ、……それ……は……」


「それも、わしが後見に入った桃色のお嬢さんを、

 どこぞの水神の若造が、愚かにもかどわかしたと、

 ここにおるミズチから報告を受けてのう……。

 安否が心配じゃったから、一緒に連れてきてもらったのだが」


 ちらりと、翁のおじいちゃんが私の方を見てうなずいた。


「無事のようで何よりじゃ」


「キュ」


「……そ、それは、ですね。嫁取りは早い者勝ちですから……。

 水神連中の間で評判が良いという娘を先に嫁にしようと、余は……」


「だが、このお嬢さんは、既に龍青のせがれをずいぶんと慕っておってのう、

 嫁入りを認めてくれない者達に、心を痛めておるほどじゃった。

 わしは、純粋な思いを持つ者にはめっぽう弱くての。

 お嬢さんが望んだ嫁ぎ先に無事に嫁入りできるよう、

 わしも助力は惜しまないつもりじゃった」



 だから、他の水神には「龍青のせがれの婚約者には、手出し無用」と、

注意すら伝えていたはずだが……と、首を振りながら顔を見上げる。



「まさか、まさかとは思うが……聞いてないはず……なかろうの?」


「……っ!」



 ミズチおじちゃんの肩から、ぴょんっと飛び降りた翁おじいちゃんは、

杖をこつこつさせながら、固まっている河童のおじさんの方へと近づいていく。

小さいから、歩くのがてちてちとおそいけど、

なんだろう……なんだかそれが今はとっても怖く見える。


 こんなに小さいのに、なんなんだ。



「……これまで、水神に願いを請うのは身勝手なものばかりでの、

 久しぶりに、誰かを一心に思う純粋な願いを聞けて、わしは嬉しくなった。

 皆に恐れられる水神の身である者を、こんなにも慕ってくれるものが居たとな。

 それも、不遇な日々を送って来た龍青のせがれをだ」


 翁おじいちゃんがまた私の方を見る。



「キュ」


「それを、それをのう……そんな純粋な娘の願いを踏みにじり、

 お嬢さんを無理やり嫁にしようとしていただと? 

 どうしてそんな真似ができた?」


「……っ!」


「え? どうしてそんな非情な真似ができた?」



 翁おじいちゃん、龍青様、ミズチおおじちゃんにハクお兄ちゃん。

気づけばみんなによって、じりじりと周りを取り囲まれ、

河童のおじさんは身をちぢこませた。これではもう逃げ場はないだろう。

そのおじさんに向かって、翁のおじいちゃんは笑っている。

ただ、その笑みがいつもみたいな様子はなく。



 ゴゴゴゴ……と地響きを上げながら、目が笑っていない。



「これまでは成長のために、見守るつもりでいたが……。

 そなた達の一族は、盟約を忘れたのか?

 子どもを庇護することを条件に、そなた達は神格にあげられたのに。

 その神の力で、そなた達は子に害するものとなり果てたか」


「あ……あああ……あの……」



「わしは悲しいぞ、ああ実に悲しいぞ緑王。

 同じ甲羅こうら仲間ということで目をかけてきたつもりだったが、

 まさかこんな幼子をかどわかすとは、それも他所の水神の婚約者の娘を、

 やはり子どもに悪さをする、元のあやかしのさがには勝てぬのかのう……」



 にぎられた小さな杖が振りかざされると、

水で出来た竜巻が、河童のおじさんの足元から起こり、

その中にあっけなく飲み込まれた河童のおじさんは、

抵抗することも出来ず、中でごぼごぼと息を吐きながら溺れていた。



「うごごごごっ!?」


「これぞ、河童の川流れじゃのう、自分の水域で溺れる気分はどうじゃ?」



 巻きあがった水流に、なすすべもない河童のおじさんの姿を、

私と青い子はそろって見上げる。


 こうしてみると、翁のおじいちゃんの方が強いらしいな。

神様同士の力は打ち消し合うとか言っていたけど、

河童のおじさんはされるがままだ。

水がようやく引いたと思ったら、今度は頭の上から、

ばばーと、水と一緒に石のつぶてが落っこちて来ていた。



「いだだだたっ!?」



 その痛みから逃げ出そうとしても、水流から出てこないようにと、

龍青様達が何重にもおじさんの周りに結界を張っている。


 龍青様は、「よくも俺の姫に……」とぶつぶつつぶやきながら、

結界の中に自分の作り出した水の蛇を潜り込ませ、

足元からかぷかぷと噛みつかせていたし、



「はははは、いやだなあ主様、生ぬるいですよ。

 お仕置きなんですから、このくらいはやらないと!」



 赤いその目をギラギラとさせながら、

ハクお兄ちゃんは紫色の霧みたいなのを出していた。

あれ……もしかして毒じゃないのかな? 結界の中にするすると入っていき、

それをもろに吸い込んだ河童のおじさんは……。



「うがああっ!?」


 口からぶくぶくと変な泡を吐いて、今度はもがいている。

ミズチおじちゃんは、なおも逃げ出そうとする河童のおじさんを、

そのたびに中へと引き戻していて。



「子ども相手に何考えてやがるんだよ! てめえは!!」



 ミズチおじちゃんは、そう言いながら、

どさくさまぎれに2、3回と河童のおじさんを殴っていた。

そんなみんなを、私と青水龍の子は並んで、ただ、ただ見つめていて。



「……ねえ、あたし達はすることないし、ひまだから、あっちで遊ぶ?」


「キュ」


 そうだね。いいよ。


 河童のおじさんが、ぎゃあぎゃあと庭先で悲鳴を上げる中、

その場に残された私達は、たいくつしていたので仲良く手をつないで歩き出す。

向かった先には、とてもきれいな白い砂が広がっていたので、

そこでめいっぱい遊ぶことにした。


 私知ってる。庭師のおじいさんが庭の一角で、

「たんせい」込めて作っている、あの庭に似ているもの。

本当なら絶対に立ち入ってはいけない場所だ。


 顔を見合わせて、私達はきっと同じことを思ったのだろう。

私達なりの、子どもの仕返し方法を。



「やるわよ!」


「キュ!」



 それは実に「壊しがい」のある場所だった。


 白い山になっているのもあったので、飛び乗って壊した。

近くにあった木の枝をぽきぽきと折っては、地面へとぶっ刺す。


 砂で模様が描かれているのもあったので、それもぐちゃぐちゃにして。

並べてある石を次々にひろっては、色んな所に放り投げて遊んだ。

きれいな花も見つけたので、次々に引っこ抜いては花冠を作る。

すると、思いのほか楽しかった。悪い子になってみるのも悪くない。



「キュ!」


 龍青様のお庭だったら、ぜったいに出来ないことをやりまくった。

そんな私達を見て、悲鳴を上げる河童の従者たちが居たけど、知らない。

キュイキュイと笑い声を上げながら、楽しいねと遊ぶ私達をよそに、

庭先では水神様たちが、まだ悪い河童のおじさんをこらしめていた。



「うぎゃあああああっ!?」


「ああっ、わ、若様……!!」


「おいたわしい……」



 河童のおじさんの従者達は、その様子にやっぱり気づいていたけれど、

建物の陰に隠れながら誰も助けようとはしなかった……。

いや、たぶん出来ないのだろうけれど。

何せ、水神様がこんなに集まってみんな怒っているし、

誰もその怒りに触れたくないんだろうな。ほら、龍青様の父様のことがあるから。


 だから従者のみんなは、かたかたと震えて遠巻きに見ていた。

なので、それをいいことに、私も龍青様達もそれぞれ大暴れしていた。





※  ※  ※  ※





 その後、落ち着いた頃に分かったことは、河童のおじさんは正体を隠し、

陸に住む、ある娘を好きになって求婚したが、河童であることを気づかれ、

こっぴどく振られていたらしい。


『私、どちらかと言うと青い水神様の方が好きだわ。

 龍の姿は近寄りがたいけど、人型だと強くてりりしくて……。

 お近づきになるのは難しいだろうけれど……』


……なんて言われたものだから、余計に逆恨みしたんだって。



「昔から、どいつもこいつも、龍青、龍青……っ!

 なんで、こいつばかりがもてるんだ!!」


「……」


「キュ」



 なにそれ? 龍青様、何も悪くないじゃんか。

私はあきれて、巻き込まれたことにキュイキュイと抗議したくなった。


 それでその後、私が龍青様と婚約者になってから、

ミズチおじちゃんの水域が、みんな龍青様の領域になったこと。


 黄泉に行ってしまった龍青様を助け、

怖い呪術師のおじさんをやっつける手助けをしたので、

他の水神様からも「ひょうばん」というのが良くなり、

龍青様も、あの人間を倒したことで他の水神も助けたことになるから、

とても感謝されているのだとか。


……ひょうばんって何だろう? まあいいか。


 つまり、私を自分の嫁にすれば龍青様のように、

他の水神にも自分が認められて、水域も広がると思ったらしい。

水神が力をつける方法はいくつかあって、良い嫁を得る事、

水域をたくさん持つことが、格とやらをあげるのに良いんだって。



「信仰によって生まれたものは、信仰によって存在を許される。

 自分を純粋に慕ってくれる娘と番になれば、それだけ強くなれるからな」



 ハクお兄ちゃんがそう言って教えてくれた。


 だからって迷惑な話だな。ぷくっと頬をふくらませ、私は怒った。

誰でもいいわけじゃないんだぞ、私がすきなのは龍青様なんだから。

そう言ったら、龍青様が嬉しそうに笑っていた。



「そうだね。俺も姫以外の娘は嫁に欲しくないよ」


「キュ!」


 そうだよね。私達は一番の仲良しさんだもの。

これまでも、きっとこれからもだ。


 でもそんな私達の話を他所に、さらって来た河童のおじさんは、

ミズチおじちゃんに怒鳴っていた。



「大体おまえもだミズチ! なぜこんなヤツに水域をやるんだ。

 それならまだ、川の管理が得意なこの余に譲ればよかっただろう!!」



 ほしかったんだな……ミズチおじちゃんの水域が。


 するとミズチおじちゃんは、頭をがしがしと掻きながらこう言った。



「あのなあ……俺様の管理していた水域は、

 元々は龍青のものもあるんだぞ。こいつが力を付けてきたなら、

 持ち主に返してやるのが当然だろうが」


「……は?」



 ミズチおじちゃんは目の前の河童のおじさんに近づいた。



「俺様が持っていた水域も、今は龍青のものって事になっちゃいるが、

 それはあくまで名義だけだ。管理は今も俺様がしているんだぜ? 

 うちのが迷惑かけた落とし前に、いくらか手放すことも覚悟していたが、

 龍青にはあっさりと断られちまったからな」


「は?」


 河童のおじさんは、訳が分からないと言う顔をしているので、

ミズチおじちゃんは呆れた顔で、腰に両手を置いてそれに応える。



「だから、うちで手に入る名産品とかを、ときどき龍青に献上している程度だ。

 それとこの嬢ちゃんは、俺様の管理していた水源の水を飲んでいた子だしな。

 関係が全くねえわけじゃなかったし」


「……っ!」


「今は嬢ちゃんと主従の盟約を結んでいるからな。

 だからもしも嬢ちゃんに何かあれば、この俺様だって当然動くさ。

 大事な親分様だからな、嫁入り前なのに何かあったら大変だろ?」



 俺様はこう見えても義理堅いからなと、

指先であごを触りながら笑っているミズチおじちゃんが居る。



「お、おまえ正気か!? 

 水神が何で他所の婚約者の子分になってなるんだ!?

 それもどう見ても野良の雑種の、ちんちくりんな小娘だろう!」


「まあ、なりゆき? 嬢ちゃんは害がなかったし大丈夫だろと思ったんだ。

 でも今じゃ忠誠だってあるぜ? 

 俺様の大事な嫁を見つけてもらったからな」


「おまえ……また嫁を迎えたのか?」



 ミズチのおじちゃんに、新しい嫁が居ることは知らなかったらしい。

「おまえにすら嫁が居ると言うのに……それも再婚」と、

河童のおじさんはがくりと首を下げた。


 静かになったのに気づき、手まりを持ってみんなに近づく。

お話終わった? とキュイっと聞いたら、龍青様が振り返り、

両手を広げて「おいで」と呼んでくれた。


 だから私はしっぽを振りながら龍青様の元へ駆けていき、

腕の中で悪い河童のおじさんを振り向いて見下ろす。

結界はもう無くなっていて、おじさんは力尽きたようにしゃがみ込んでいた。



「お、翁様だってその娘をずいぶんと気に入って……だから」


「わしの気を引こうと、この娘をさらったと?

 悲しいのう、桃色のお嬢さんはわしを助けてくれた恩がある。

 他の水神連中が、この小さなわしを見捨てて行った中をなあ……。

 このお嬢さんは、わしを助け起こして水辺まで運んでくれたのだ。

 幼い身でわしを案じてくれた。その娘の後見を名乗り出たからには、

 このような行為をみすみす許すと思うか?」



 ぽこんと杖が河童のおじさんに投げつけられ、

おじさんは大げさに頭を抱えた。


 そこで私の目がきらんと光る。やや、この反応……。

どうやらあの頭のてっぺん……おじさんの弱点らしいな。

そうか、河童は頭が弱いのか。



「――さて、ということじゃが、どうするかの桃色のお嬢さん。

 こやつを処すのは、被害を受けたそなたの権利じゃ。

 ずいぶんと怖い思いをさせられたようだからの、

 少し強めにお灸をすえてやるといい」


「キュ……?」


 おきゅう? すえる?

 

 私は首を傾げた。



「数百、いや数千年……少し乾いた地底の底へ、邪神として幽閉でもするかの?

 “子どもに悪さをしない”という盟約で神格にあげられたのじゃから、

 反すればその水神としての神籍は奪われて当然じゃろう。

 他の水神もお嬢さんに恩義あるゆえ、黙ってはいないだろうて」



 私が決めちゃっていいの?

……なんて思っていたら、みんなが私に目が向いているのをいいことに、

河童のおじさんの目が金色に光ったのに気づき、

私はぎくっと体を強張らせる。


 ヤツはぎりぎりと食いしばった顔で、

懐から小さな刀をそっと引き抜くのが見えた。

その視線の先は――……。



「き、貴様だけはああああ――龍青えええええっ!!」


「!?」



 ヤツが龍青様に飛びかかろうとしているっ!!


 だからそれを見ていた私は、しっぽをぴんと立て、

片腕で構えた龍青様の腕を足場にし、ヤツに飛び掛かる。



「キュー!!」


 げしっとヤツの顔を踏みつけ、頭の上に飛び乗り、

弱点の頭を引っ掻いてやろうと、べたっと張り付く。



「姫!?」


「キュイイ、キュー!!」



 龍青様、いじめちゃだめ!!



 その時に私の着物のそでから、ぽろりと「ある物」が落っこちた。


 青い子にきゅうりをあげるために、

女房のお姉さんからもらっていた塩の入っている包み。

それをヤツの頭の上で盛大にぶちまけたのだ。



「うぎゃあああああっ!?」



 河童のおじさんから出る悲鳴に、私までびくっと飛び上がる。

慌てふためくように私が乗っている頭をかばおうとし、

私はその勢いで払いのけられた。



「キュイ!?」



 だけど私は強かった。これまでのことを勉強していた私だもの、

今回は地面にぶつかる前に鈴を鳴らすことが出来た。


 水の蛇が私の体を少しだけふわっと持ち上げてくれたのを見て、

私は「でんぐり返し」のとっくんの成果をもう一度やってみる。


 くるくるくる……すたっ!


 すると地面になんとか着地することが出来たのだ。

どうだすごいだろう! 自分でもびっくりなくらいに上手くできたぞ。



「ひ、姫、大丈夫かい?」


「キュ」



 そのまま顔を見上げて、お兄さんにほめてもらおうと思っていたら、

河童のおじさんの頭の上から、もくもくと煙が上がっていて……。

なんだ。一体何が起こっているんだ?



「キュ……?」



 そこで私は、ある事に気が付いた。


 そういえば河童の一族には、

海を水域として持つことが出来ないと言っていたな。


 それはなんでかなと思っていたんだけど……今分かった気がする。

こいつ、塩に……あのしょっぱい海水の中では生きられないんだ。


 つまりヤツの弱点は……塩!



「み、水! 真水――っ!!」



 ざぱーっと慌てて頭の上から水を降らせるも、既に遅い。

みるみるうちに力を奪われていって、立つことすら出来なくなっていた。

私はそれをいいことに、急いで鈴を鳴らす。


 それで手にした小づちを河童のおじさんへと向けた。

これ以上悪さをしないように、きっとこれが一番いいだろうと。


 悪いヤツから龍青様を守らなきゃ。

もう、あの夢の時とはちがうんだから!



「キュイ、キュー!」



 小さくなあれ――!


 私は小づちをシャランと鳴らし、キュイっとそう願った。


 





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