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姫のおままごと



「キュイ?」


「あら、姫様、ちょうどよい所に、どうぞこちらへ」


「どうぞ姫様」



 ちりりんと鈴を鳴らしながら、手まりを持って屋敷の中を散歩していると、

二人の女房のお姉さんたちに呼び止められ、手招きされた。

 

 その部屋はいつも龍青様の着物を手入れしたり、着物を仕立てたりする所だ。

前に機織りとか、組みひも作りも教えてもらって楽しかったな。


 針っていう、銀色でとっても細長い棒と糸を使って作られていくそれは、

作業中は危ないから近づいちゃダメって言われているんだけど。

ここはきれいなものがいっぱいあって、私のお気に入りの所だったりする。


 女房のお姉さんは針の数を数え終わると、私の方へと向き合った。



「実はですね。皆で姫様にこれを作ってみたのです」


「キュ?」


 なあに?


 差し出されたそれは、布で作られた人の形をしているものだ。

なんだろうこれ、髪は青い糸が使われていて、

小さく仕立てられた着物まで着ている。


 これ、なんだか姿が龍青様に似ているな、身に着けている着物とか、

髪の色とか形とかも似たようにまとめられていて、

とても小さな鈴まで付いているんだもの。



「これは人形というものです。本来は厄災……。

 怖いことを肩代わりなどしてもらうために使うものですが、

 子ども用の遊び道具としても、使われるんですよ」


「キュ」


「公方様の着物を仕立てる際に、端切れが出来まして、

 前に姫様の赤い着物を使った時の、綿花の残りもありましたから、

 それを詰めて作ってみましたの。姫様の遊び道具にいかがかと」


「キュイ」



 もらっていいの? 私が受け取って顔をあげると、

嬉しそうに、「どうぞ」と女房のお姉さん達は言ってくれて、

私の頭をなでてくれたので目を細める。

お姉さんの着物から龍青様とはちがう、いい匂いがした。



「ええ、姫様用に作ってみたんですわ」


「この屋敷には遊ぶものが少ないですものね。

 いつものおままごと用に使っていただけたらと思いましたの。

 公方様を模した人形なのですが、分かりますでしょうか」


「キュ!」



 わかるよ! 龍青様の着物の布から作られたってことは、

龍青様の着物とおそろいなんだね。私は小さな龍青様をなでて、

ぎゅっと抱きしめてみる……抱っこしやすくて大きさもちょうどいいけど、

あの匂いがしないな。私の大好きな龍青様と香の匂いが混ざったのが。

私は自分の着物の袖から匂い袋を出して、人形の袖の中に匂い袋を入れた。


 すんすん……すんすん。


「キュ」



 うん、これでいいかなあ?

後で龍青様にごしごしすれば、もっといいよね。

ふふ、うれしいな。私のお気に入りがまた増えたよ。

私は近づいてきた手まりに、人形を見せてあげた。


 人形の両手をもって、一緒に手まりをころころしてみたり、

手まりの上にのせたりして遊んでみる。楽しい。

しっぽを振って新しい遊び道具で遊ぶ私を、

女房のお姉さんたちが笑って見守っていた。



「着替えも楽しめるように、何着か小さな着物もおつくりしましたので、

 後で遊んでみてくださいね。それで簡単な着付けや、

 色合わせの練習もできますし」


 そう言って見せてくれた小さな小箱の中には、

人形用の着物や布小物が入っていた。

すごいすごい、可愛いね! 私のためにいっぱい作ってくれたんだ。


 私はぴょこぴょこと飛び跳ねて喜んで、

そこに居た女房のお姉さん達に次々抱き着いた。



「ふふ、こんなに喜んでいただけると、作った甲斐かいがあるというものです」


「ひ、姫様、次はこちらへ」


「キュ」



 じゃあ今の龍青様に合わせて、おそろいの着物を着せたりできるね。


 私はたくさん女房のお姉さん達に抱き着き、膝の上に乗り、

抱っこしてもらった後、キュイっとお礼を言ってから手を振って、

さっそく龍青様に見せに行くことにした。


 しっぽをぶんぶんと振りながら歩く私は、会う人会う人に人形を見せてあげて、

龍青様なの、いいでしょう? と教えてあげる。


 すると侍従のお兄さん達が「よかったですね」と笑ってくれた。



※  ※  ※ ※



 龍青様のお仕事をしている部屋に着いた。

お兄さんの配下になったミズチのおじちゃん、神使のハクお兄ちゃんが、

文机を仲良く並べて、むずかしそうなお顔で一緒にお仕事をしていた。

最初、にらめっこの練習をしているのかと思ったくらいだ。


 龍青様がミズチのおじちゃん達の水域も手に入れたことで、

一緒に仕事を行うことも出てきたせいなんだって。


 龍青様は手慣れたように、さっさと書いて指示を飛ばしているけれど、

ミズチのおじちゃんは頭を抱えながら、時々龍青様に相談していて、

ハクお兄ちゃんは、まだ水神を継ぐことになるかは分からないけれど、

今後を考え、水神の長としての仕事を教わっている最中だと教えてもらった。


 水神様のお仕事はみんなの幸せのためだ。

私はそろそろ近づいて、龍青様の横に座り、お兄さんに寄っかかる。



「おや、姫お帰り……どうしたんだい? それは」


 すると龍青様は私のことに気づいてくれた。



「キュ?」


 私は持っていた人形を龍青様に見せてあげた。

あのね? 女房のお姉さんがね、私のために作ってくれたんだよ。

おままごとにどうぞって言われたの。


 あ、そうだ。お兄さんの匂いを……。

私は龍青様のお膝で人形をごしごしした後、

人形に顔をうずめ、匂いをすんすんと嗅いで、これでよしとうなずいた。



「もしかしてこれは俺の人形か……?」


「キュイ」



 そうだよ。これで龍青様といつでも一緒だね。

私はしっぽを振りながらキュイっと鳴くと、

龍青様がはずかし気に笑っていた。

なぜここで、龍青様がはずかしがるのか分からないけれど、

嬉しそうな龍青様を見るのは嫌いじゃない。


 膝の上によじのぼって座らせてもらうと、

私は人形の龍青様の頭をなでたり、着ている着物をじっと見つめる。

どうやら今日、お兄さんが着ている着物とおそろいのようだ。

私は龍青様のきれいな着物を見るのが好きなので、

おそろいの物を作ってもらえて、すごく嬉しい。



「ぬ、主様の人形……だと?

 なんて贅沢ぜいたくなものをもらっているんだ」



 近くでそう言いながら、こちらをじいっと見ている気配に気づき、

顔をあげると、ハクお兄ちゃんが私の持っているものを、

ぎろっとした目で見ていた。



「……キュ?」


 私が、さっと右へ左へ人形をやると、視線が同じように動く。


……ほしいのか。


「キュイ」



 あげないよ? これは私のなんだから。私はぎゅっと人形を抱く。

そう言うと、「べっ、別に欲しいなんて言ってないだろ!」と言うので、

私はキュイっと鳴いて、じゃあハクお兄ちゃんの分は頼まない。

そう言ったら、今にでも泣きそうな顔をされた。



「……っ、そ、そんな……」


「……キュ」



 やっぱりほしいんじゃないか!


……しかたないな、私はおりこうさんだからね。

素直じゃないお兄ちゃんのために、後でお姉さん達に頼んであげようかな。

ちゃんと伝わるかどうか自信はないけど。



「キュイ」


「姫?」



 さて気を取り直して、私は手元の人形を見つめて、龍青様を見上げる。

じいっと後ろを振り返って龍青様の顔を見てから、人形をなでなで、

またちらっと振り返って、人形をぎゅっとした。



「ひ、姫?」


「キュ……」



 龍青様の人形だけれど、龍青様じゃないのは分かっている。

だから龍青様を見ながら、龍青様にくっ付いている気分でかまってみた。

そんな私の考えが分かったのか、龍青様が顔を赤くしている。

私はまたちらっと見て、人形に口をくっ付けてみた。



「キュ~?」


「ひ、姫……」


「おし、龍青、こっち終わったから目を通して署名くれや。あと割り印も。

 ……って、お? 今日は何を持っているんだ? 嬢ちゃん」



 それまで頭を抱えながら仕事をしていたミズチおじちゃんは、

仕事に集中していたのか、話に参加していなかったようだ。

私の手に持っているものを初めて目にして、手に持っていた筆を置いた。



「……俺の人形だそうだ。女房が姫に作ってくれたものらしい」


「キュイキュイ」


「ほ~そりゃ良かったじゃねえか、嬢ちゃん」



 声をかけられて嬉しかった私は、みてみてとミズチのおじちゃんに近づき、

龍青様の人形を見せてあげた。


 着物を少しめくると、しっぽまでちゃんと付けてくれているんだ。

私は思い出したように人形の龍青様のしっぽをなでなでした後、

龍青様の所に戻って、お兄さんのしっぽをなでなでしてみた。



「ひ、姫……やめなさ……姫? ちょ、まって……っ!?」



……触り心地がちょっとちがうけど、まあいいか。

龍青様のしっぽは、もっとつるつるして気持ちがいいんだけど。



「キュイ」




 そのままいつものように、しっぽを自分のとからめて振ってみると、

龍青様が前のめりに倒れこんで、ぴくぴくしている。



「こ、こら! ちびすけ!! 

 また主様に、なんてことしているんだおまえは!?」



 ハクお兄ちゃんが顔を真っ赤にして私を引き離す。なんでだ。

番同士がじゃれあうのは良いことのはずなのに。

両手足をじたばたして逃げると、私は倒れている龍青様にしがみ付き、

離れろ、やだとハクお兄ちゃんと言い合いになった後、

そのまま龍青様の懐に逃げ込んで、そう、立てこもった。


 龍青様と引き離す奴は敵なのだ。



「嬢ちゃんは、ほんと龍青の奴が好きだなあ」


 ミズチのおじちゃんに言われて、私はうなずく。

大好きだよ。だって私とお兄さんはいつだって仲良しなんだから。



※ ※ ※ ※



 それから、数日後。



「――姫様、公方様をお忘れですよ。

 裸のままでは公方様がお風邪をひかれますわ」



 女房のお姉さんの一人が、手まりで遊んでいた私に声をかける。



「キュイ」


「……」



 それを聞きながら、龍青様は近くの文机の前で、

ぷるぷると震えて筆を握っていた。

近くの文机では、いつものようにミズチのおじちゃんが、


「俺様は今日もすごく頑張った」


と言って、一仕事終えたと言い出しては息抜きに酒を飲んでいる。



「あー……早く嫁の顔が見てえなあ」


 嫁恋しさにやっているのが酒を飲むことらしい。

あとはハクお兄ちゃんが、自分の書き物をしながら、

私の方をちらちら見ながらまだ仕事をしている。

きっと息抜きに、遊びに誘ってほしいんだろう……が、

大事な仕事中だし誘わなかった。


「キュ」


 私は裸のままの龍青様……の人形を拾い、

とりあえず肌着だけを着せて、敷物の上にそっと寝かせてあげた。

小さな龍青様のお世話をするのは私の仕事だ。

良い子にしていてねと頭をなでて、そしてまた手まりを持って遊び始める。


 今、私は大好きな手まりでころころ遊ぶのに夢中だったのだ。



「まあまあ姫様、これでは公方様が行き倒れているようですわ」


「キュ?」


 うつ伏せで寝かせるのはだめなの?



「そうですわね。肌着のまま倒れているなんて、

 まるで公方様が事件に巻き込まれたか、裸同然で出歩かれているようですわ」


 もう一人の女房のお姉さんがそう言ってうなずく。


「ご乱心かと思われてしまいます」


「キュ~?」


 人型だと、裸で過ごすのはそんなにだめなことなの? 

私、今は龍体にしかなれないし、着物を着るのも好きだけど、

裸はすごく楽だから、一番良いと思っているんだけどな。

だからいっぱい着ていたのを脱がしてあげたのに……。

そこでばんっと文机を叩き、立ち上がる龍青様が居た。



「お、おまえ達! その人形のことを公方とか呼ぶのを止めないか。

 ここでそんな話をして、事情を知らぬものが聞いたりでもしたら、

 俺が肌着だけで出歩いていると思われるだろう!」


「キュイ?」


 ちゃんと肌着という着物を着せているのに、どうしてだめなんだろう。

前に”しろむく”とかいうのを着せられたときに思ったけれど、

着物はきれいだけれど、重いからあんまり着ない方がいいと思うんだよね。

そうしたら、肌着は裸同然なんだよと龍青様が教えてくれた。



「ですが公方様、こちらは元々が公方様の人形ですし」


「姫様もそのつもりですよね?」



 女房のお姉さんに言われて、私もそうだよとキュイっと鳴いてうなずく。

じゃあ、龍青様と私の子どもの名前を付ける? と聞くと、

龍青様が固まった。


「は? お、俺と姫の?」


「キュ」


 侍従のお兄さん達に言われたんだ。

私がこの人形を持っていると、まるで公方様の子どもみたいですねって。



(龍青様のとと様が、私達に子どもが出来たら会いに来るって言っていたな)



 親になるのがどういう感じか、

子どもの私にはまだよくわからないけれど、

私のとと様とかか様みたいな感じかなって思うと、

悪くないなって思うんだ。



「……お、俺と……姫の子どもか……。

 そ、そうか姫と出会うまで嫁は諦めていたが、

 姫が嫁になってくれるのなら、俺もいつか子どもが……」


「キュ?」


「おーい、龍青? 戻って来いや」



 ミズチのおじちゃんが声をかけるも、反応がない。

その日、龍青様はそのまま顔を真っ赤にしたまま、固まってしまった。


 そうして私は、人形と手まりで遊ぶことが多くなった。

巣穴に持って帰ると、とと様が龍青様の匂いのある人形を嫌がるので、

人形を持って、とと様と追いかけっこをして遊ぶこともあるんだけど、

「返してきなさい」と涙目で言われてしまったので、

しかたなく、屋敷に置いてもらうことにしたんだ。


 


 それから、また数日後。


 あれから話がどう伝わったのか、

私の姿を模した人形も、女房のお姉さん達が作ってくれた。

ハクお兄ちゃんの分も作ってもらうつもりが、なぜか私の人形。

どうやら間違って伝わってしまったらしい。


 しかたないのでハクお兄ちゃんに、代わりにいる?ってキュイっと聞いたら、

「いらんわ!」と断られてしまった。


「ぼくがそんな物をもらって、一体どうしろというんだよ!?」


「キュ」



 それもそうか。

だから桃色の私の人形は、龍青様と一緒に並べて遊ぶことにした。


 私が龍青様の人形、龍青様が私の人形を持って、

会えないときは、この人形を私だと思ってねと龍青様に言うと、

龍青様は「そうか……では大事にするよ」と言って受け取ってくれる。



「……嬢ちゃんに会えない時は、

 それを抱きかかえて寝る、龍青の姿が目に浮かぶな」



 するとそれを見ていたミズチのおじちゃんが、

目頭に手を当てて、くうっと傍で泣いていた。

……なにかいけないことだったのだろうか? 

龍青様を見上げると、さっと目をそらされた。



「お、俺はそんなことをしないぞ。俺をいくつだと思っているんだ」


「どうだかなあ? おまえ、嬢ちゃんの事になるといろいろと……。

 嬢ちゃん、頼むから龍青の奴を捨てないでやってくれな?」



 そう言っておじちゃんに頭をぽんぽんされた。

だから、捨てないよ? ずっとずっと仲良しだし一緒だよと。

龍青様のお膝の上は、私の幸せになれる場所なんだから。

私はこんな風にと、人形同士の頭と頭を持って、口と口を合わせてみた。



「ひ、姫? こら、人形でもそんなことをするんじゃない」


「キュイ?」


 なんで? 仲良しの証だって、前にかか様もとと様も言っていたのに。

龍青様ともいつもやっているよね?



「ちょっとまて……あれ、いつもやっているのかよ、龍青様よ」


「だ、だから、あれは姫が一方的に……って、

 おまえだっていつも目の前で見ているだろうがっ!!」


「キュイ……」



 そう、龍青様からはこういうことはしてくれないんだ。

もう他の水神様にも認められた婚約者なのに。子どもだからって理由で。

私は龍青様に頭をなでてもらったり、抱っこされたりするとすごく幸せだから、

きっと龍青様からしてもらったら、すごく幸せなのになあ。



「ひ、姫? そういう触れ合いはな? もっと姫が大きくなって、

 他に誰もいない所でこっそりとするもので……っ!」


「キュ」


 こくりとうなずく。そうか分かった……誰も居なければいいんだね?

じゃあ、あっち行こうとお兄さんの人形を片手で抱きかかえたまま、

龍青様の着物のすそをぐいぐいと引っ張る。


 私、また少し大きくなったんだよ。



「ちょ、違う、今という意味じゃないから、

 姫? ちょっと待ちなさい」



 それを見た女房のお姉さん達が笑う。



「公方様、そろそろ観念された方がいいかもしれませんわ」


「幼い姫様は、今のうちに引き留めておきませんと」


「そういうことを言ってしまうと、

 大きくなってからしてくれなくなりますよ?」


「おまえ達な……今の姫をけしかけて俺をどうしたいんだ」


「キュ?」


 すると女房のお姉さん達は答える。



「押してもだめなら、押し倒す特訓ですわ」と。



 それを聞いた龍青様を振り返ると、

目の前で赤くなった顔をしていて、両手で顔を覆っていた。



「まあ、確かにこういうことを教えるのは、やはり婚約者の役目だしなあ」



 ミズチのおじちゃんがそう言いながら私の頭をわしわしとなでる。



「そ、それはそうだが、さすがに今ではないだろう?

 ……それにしても、姫はいつになったら成体になるんだろうなあ、

 もうこんなにも俺のことを慕ってくれているんだから、

 いっその事さらってしまえたらいいのに」


「キュ」


 龍青様ならいいよと、私はキュイっと鳴く。



「……それで夕方になったら自分の巣穴に帰るんだろう? 姫は」


 

 言われてうなずいた。


 そうだよ、良い子は暗くなる前に帰るお約束なの。とキュイっと鳴いたら、

龍青様ががっくりとうなだれた。



「姫、それはさらうとは言わないよ」


「キュ?」



 そうなの? でも、かけおちは三日で終わるんだよね?



「……姫はませているんだか、子どもなのか分からないなあ。

 まあ、俺のことを意識してくれているのはありがたいんだが。

 この分だと、姫の巣立ちはまだまだ先になるか」



 龍青様はそれから、ぶつぶつとつぶやいていた。

神様だから、周りがあっという間に過ぎていくらしいんだけど、

こんなに過ぎていく時間がゆっくりに感じたことはないんだって。


 龍青様のお膝の上によじ登って私はちょこんと座りこんだ。

お兄さんが心配しなくても、このお屋敷は私の居場所の一つになっているし、

もう私のなわばりだからねと話したら、龍青様は満足げに私の頭をなでる。



「そうだな、俺は姫の帰る場所の一つだ」


「キュイ」



 龍青様と知り合って、大好きなものが一つずつ増えていく生活。

楽しくてうれしくて、ここで過ごすのは私にとって大好きな時間だ。


 いつか、龍青様の帰る場所も私の傍だったらいいなって、

そう思いながら私はしっぽを振りながら龍青様に甘えた。


 目指すは強くてりっぱなお嫁さんなのだ。






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