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白蛇編・10~姫のはじめてのおつかい~




 黄泉へ旅立ってしまった私の婚約者、

龍青様の魂を連れ戻すべく、生きたまま飛び込んだ死者の世界は、

私が考えていたよりも、とても暗くて寂しい所だった。


 ミズチおじちゃんのおかげで、痛い思いとかしないで来られたのはいいけど、

月明かりや蛍の道しるべもない、光るこけやキノコもなくて、

ただ大きな霧に包まれて、あまり先がよく見えない。


 でも私は紅炎龍のとと様の子ども。強い子なんだ。

心細い気持ちをぐっとこらえて、私はとてとてと前に進んだ。

少しだけなら火が使えるので、灯りを作っては前に進んでいく。



 すん……。


 すんすんすん、すんすんすん。


 さあどこだ、どこにあるんだ。私のお気に入りのあの匂いは。

どこかに私の好きな匂いが残っているはずだ。


 龍青様もここへ来たばかりだから、きっと近くに居るんじゃないかと、

地面に張り付き、鼻を近づけて、私は龍青様の匂いを探しているのに、

余計な匂いが混じってしまい、私の行く手を邪魔する。



「キュ……キュイイ」


 どうしよう、手掛かりがなかなか見つからないぞ。


 見渡す限り、暗い闇の世界が広がっている。

こんなに暗い所を一匹ぼっちで歩くのは久しぶりだな。

そう……あれは私が、とと様とかか様とはぐれて、人間から逃げていた時、

心細くて、ただ逃げる事しか出来なかった時に似ている。



「キュ~」



 すん、と鼻を鳴らした。あの時は龍青様が私のそばにいてくれた。

懐に抱いて、泣いてばかりだった私のことを守ってくれていた……。

だから生き延びることが出来たんだ。


 だから今度はきっと私の番。

私が、龍青様を助けてあげる番なんだ。

小さな手をぎゅっと握り、こくりとうなずく。

だいじょうぶ、私のやることは分かっている。


 龍青様、どこに居るんだろう。さっきからキュイキュイと呼んでいるけれど、

呼び声に応えてくれる様子もなく、ときどき反応を見せてくるのは、

私の姿を不思議な顔で見てきたり、おいでおいでと、

どこかに連れて行こうとするような黒い影がいっぱいいる。


――見るからにあやしい……あれはきっと近づいちゃいけない気がする。


 足元にはミズチのおじちゃんが命づなだって言っていた。

あの銀色に光る糸が、私の足元からずーっと遠くへ伸びている。

これをたどれば私が暮らしていた元の世界には戻れるんだろうけれど、

一度戻ったら、もう龍青様を助ける事はできないんだよね……。


 だから、これを使うのは私と龍青様が一緒に帰る時だけだ。



「キュ……キュイイ……」



 がんばるんだ私。震える自分に気合を入れるんだ。



(また、会う、会うんだから)



 涙をぽろぽろと流しながら、両手を前に伸ばしてとたとたと進む。


 キュイキュイ、とたとた。キュイキュイ、とたとた。


 龍青様、どこ――? お迎えに来たよ――?


 変な感じだね。いつもは龍青様が私のことをお迎えに来てくれるのに、

今は私が龍青様をお迎えに行くなんて。


 これはもう、お兄さんを見つけたら、私ががんばったごほうびに、

いつもの抱っこだけじゃなくて、背中でおんぶもしてもらわないと、

私の気持ちが晴れないよ。



「……おやあ? こんな所に生きた子どもの魂……。

 いや、生身の奴が迷い込んで来るとは珍しいな」


「それも龍の子どもじゃねえか、はは、親はどうしたんだ。ん?」


「キュ!?」



 怖そうな獣姿のあやかしに見つかった。私が見る初めての妖だ。

一匹は猪の顔、もう一つは熊の顔をしている。

あやかしでなくても、両方とも私の天敵だという事がその姿で分かる。

全身が黒い煙に覆われていて、薄気味悪くてとても怖かった。


 私は飛び上がった後、くるっと方向を変えて、たかたかと逃げ出す。

まずいのに見つかった! ここで喰われるわけにはいかないのに。



「キュ、キュイイイ!」


 逃げろ逃げろ!



「待て、そこのガキ!!」


「大人しく喰わせろ!!」


「キュ!」



 やだ!


 龍青様の桃も持ってないヤツになんて、用はないぞ!


 ミズチのおじちゃんが言っていたのはこれか!

逃げながら私があわてて足の鈴をちりんと鳴らすと、

鈴から水の塊がじょばばばーっと出てきて、

私の後を追いかけて来たあやかし達のお腹に命中した。



「ぐほあっ!?」


「ぐえええっ!?」



 そのまま地面に叩きつけられるようにして、ゴロゴロと転がった二匹。


 よし、今のうちにと思っていたら、今度は私の方がすてんと転んだ。

鈴が助けてくれて、地面にぶつかる事だけは回避できたけれど、

さっきから手足が震えて思うように動かない。


 こういう時、いつもだったら龍青様が必ず来てくれたけれど、

今は龍青様に助けてもらうことは出来ないんだ。

だから、急いで立ち上がって逃げなくちゃいけないのに、

怖くて足に力が入らなくてあせってしまう。



「キュ、キュイ……」


 転んだせいで、風呂敷の中に入れていた巾着袋の中の桃の欠片が、

ころんと中から飛び出てきて、落ちそうになる。

あ……と、私があわてて両手で桃の欠片をつかんだその時、

桃の甘くて美味しそうな匂いがした。



「……てめっ、なにしやが……そっ、それは!!」


「もっ、ももも桃かああっ!?」


「……キュ?」



 私に追いついたあやかし達が、私の持っている桃に驚いている。

ううん、驚いていると言うより……怖がっているの?

私は試しにキュイっと鳴いて、桃をあやかし達にかざしてみた。

もしかして食べたいのだろうか? ダメだよこれは私のおやつなんだから。

すると、どうしたことだろう? ずざっと一歩後ずさったではないか。


 私がじりっと近づけば……ずざっと音を立てて、

後ろに後ずさる二匹のあやかし。


「……」


 お互いに、じいいっと無言で見つめ合った。


 じりじり……ずさずさっ!!


 じりじりじり……ずさずさずさっ!!



「キュ……?」



 顔が汗だくになっている二匹のあやかし達。



――これは、いける?



「キュ――ッ!!」


「うぎゃあああああっ!?」


「こっ、こっちくんなああああっ!!」



 声をあげ、桃を両手に持って、

今度は私の方が、大きな図体をしたあやかしを追いかけ回す。

どうやらこの桃が弱点らしい。体から白い煙がしゅうしゅうと出ている。

神様がくれた食べ物だからだろうか?


 そう言えば、“はじゃたいま”がどうの……って、

前に龍青様が桃をくれた時に言っていたけど、

もしかしてこのことなんだ。桃すごい。さすが龍青様がくれた桃だ。


 私はさらにキュイキュイと鳴いて、

がぜんやる気を出して追い回した。悪いヤツは許さないぞ!


 相手も涙目、私も追われたから涙目、だからおあいこなのだ。


 私はがんばって追い回した。

すごくがんばって途中でちょっとだけつかれたので、

持っていた桃の一つを、走りながらもぐもぐと食べてしまったけど、

黄泉の食べ物は食べていないので、お約束は守っている。


 大好きな桃のおかげで、またやる気を出してあやかし達を追い回した。


 やがて、鳥とかサル顔のあやかし達も見かけたけど、

みんな私を見ると同じように逃げ出したので、まとめて私は追い回す。

しばらくして、ふんっと鼻息を荒くして立ち止まった私は、

ガラの悪いあやかし達が「覚えていろ!」と、

泣きながら去っていくのを見届けた。


 ど、どうだ思い知ったか! この私を怒らせたら怖いんだぞ。


 ほんとだぞ!



「……キュイ」


 

……さてと、長くここには居られないって、

ミズチのおじちゃんも言っていたし、急がないといけないよね。

早くしないと龍青様、こっちの住民になっちゃうものね。行くか。



「――……子どもの悲鳴が聞こえてくるから、何事かと来てみれば、

 あの時のわらべじゃないか、こんな所で何をしておるのだ?」


「キュ?」



 背後から掛けられた声に、新しい敵が来たのかと、

びくりと反応した私があわてて声のした方を振り向くと、そこには……。



「キュ……!?」



 目の前には青銀髪の長い髪を後ろに流し、

水面を模したような瞳のおじさんが、私を見下ろしていた。

一瞬、人間かと飛びあがったが、よく見ればどこかで見知った顔だと気づく。


 右の目元には、私が前に抵抗したときに付けたひっかき傷がまだあって……。

忘れもしない。私と龍青様を結び付けた先代の水神、

大好きなあのお兄さんと面差しがとてもよく似た。

龍青様のとと様がそこに立っていたのだ。



「キュ?」


 私は本物? と目をぱちぱちして見上げると、

龍青様のとと様が私に笑いかけてくる。



「久しぶりじゃのう童よ。少しだけ背が伸びたかの?

 だが、なぜこんな所におるのだ。ここは死者の居る黄泉の世界、

 おぬしが死んでここへ来るには、まだかなり早いはずだが……。

 おや? おぬしなぜ生身のままなのだ?」


「……」


「まさか我の呪いがきちんと解けていなかったのかのう?

 龍青の奴はこのことを知っておるのか? 我、怒られてしまうか?」


「キュ……」


「うん? もしや我のことをもう忘れてしまったかのう?

 そうじゃな、おぬしはまだ幼子だものな。

 そ、そうか……もう忘れられたか、地味に寂しいの」



「キュイ」


 ううん、覚えているよ。


 かいしょ――……。


 私は指を指して、おじさんを呼ぼうとしたが、

目の前で手のひらを差し出されて、言うのを止められた。



「待て、その続きを言うな、また言われたら我は泣くぞ?

 膝を抱えて泣いてしまう自信があるぞ?」


「キュ?」



 ”かいしょうなしのおじさん”で覚えていたんだから、

しかたないじゃないか。



「なぜ、そっちで覚えるのだ。娘よ」



 じゃあ改めて……龍青様のとと様だ! 久しぶり!


 私は龍青様に面差しの似ているそのおじさんに、キュイっと飛びついた。

まさかそんな、ここで龍青様のとと様に会えるなんて、

でもそうだよね。このおじさんもこっちの世界に来ていたんだもんね。

ここで会える可能性はあったんだ。


 足元に飛びついた私は、そのまま下から上へと一気によじ登っていき、

胸元でぷらーんとぶら下がる形で、キュイキュイと泣きついた。

良かったあああ、知っている相手に会えたあああっ!



「お? おおお? どうした。どうした!?

 ずいぶんと今回は我を歓迎しておるではないか。童よ」


「キュイ、キュイイイ!」


「……その様子では何か事情があるのだな? 

 ほれ、よしよし……泣いていないで話してみい、

 我は凄い水神だったのだからな。願いを聞いてやらんこともないぞ?

 前に約束したままだったからな……ただし息子の桃は無理だがな」


「キュ、キュイ、キュイイ……」


「ほれ、高い高いをしてやろう、だからな、な?

 わー……我、幼い娘を抱っこ出来ておる。ちょっと父親らしいかの」



 私の勢いに、龍青様のとと様の顔が引きつっている気がするけど、

これまで心細くて緊張しまくっていた私には、それどころじゃない。


 腕で体を支えられ、抱っこをされた私は、

すんすん言いながら龍青様のとと様にしがみ付く。

そして、きれいな布で涙を拭われて、最後にちーんと鼻をかむと、

少し気分がスッキリして、私はたどたどしくも話せるくらいには回復した。



「キュ、キュイ、キュイイイ」


 あのね、龍青様のとと様、龍青様が大変なのっ!



 私は両手をぱたぱたさせながら、これまでの事を必死で話した。

龍青様が悪い人間に襲われて、魂がこっちへ来てしまったこと、

今みんなでお兄さんを助けるために、手分けをして動いていることを。



「なに? それでおぬしだけで黄泉へ来たと?」


「キュイ、キュイイ」



 私はこくんとうなずく。


 でもね。黄泉の世界ってとっても暗くて広いし、

龍青様がどこにいるか分からないの。呼んでもお返事してくれないし。

私の鼻でこっちかなと思って歩いてきたんだけど。

途中であやかしに追いかけられて、分かんなくなっちゃって……。


「キュ~……」


 

 龍青様に、あのお兄さんに会いたいよう……と私は涙をぽろぽろと流す。

知っている相手に会えたことで、ほっとしてしまったせいかもしれない。

泣き止んだはずなのに、私の目からまた新しい涙があふれていた。



「おお、おお、よしよし……」



 静かに私の話を聞いてくれた龍青様のとと様は、私の体を片腕で支えると、

なだめるように、もう片方の手で頭をなでてくれた。

その手のしぐさは、龍青様に少し似ている気がした。



「なるほど、我の息子の魂がこの黄泉の世界にのう……。

 他の水神も狙われたとは、どうやらずいぶんと手練れの人間のようだの。

 都の陰陽師や僧侶……ではないな、分別はわきまえておるし、

 水神に恩をあだで返すような愚かな輩はいまい」


「……キュ?」


 首を傾げた私に、龍青様のとと様は教えてくれる。



「昔な、日照り続きで都やその付近に雨を降らせてやった事があっての。

 その際には都の高名な僧侶に請われてのことだったからな。

 となると……敵は流れのものか、くずれの仕業かの」


「キュ……」


「よしよし、大体の事情は分かった。じゃあおいで」



 ひょいっと龍青様のとと様は私を肩の上に乗せて、

闇の中をゆっくりと歩きだす。



「……それにしても、夫婦になる前に嫁を現世に残してきてどうするのだ。

 まだ嫁になってないとはいえ、大事な娘をこんなに泣かせて、

 あいつも悪い奴じゃのう、あれ程に嫁は大事にせよと言ったのに……」


「キュイイ……」


 龍青様、悪く言っちゃいやなの。龍青様は悪くないもん。

お兄さんはね。私のことを守ってくれたんだよ。

私はキュイキュイと鳴いて抗議した。



「おお、すまんすまん。泣くな泣くな童よ。

 ほんにおぬしは我が息子にとても懐いているのう、事情はあい分かった。

 それでは迷い込んだ我の息子を見つければいいんじゃな?」


「キュイ?」


 ……もしかして、一緒に探してくれるの?


 そう聞いたら、龍青様のとと様はうなずいてくれた。



「これでも我は龍青の父親じゃからな。

 生前、我は息子に父親らしいことを何もしてやれなかった。

 本来、子どもを守るのは親の役目、だから今度こそ役に立って見せよう」



 それにしても……と、龍青様のとと様は辺りを見回した。


 私の匂いに他の死んだ魂が反応したのか、

わらわらとまた何か、こちらに近づいてくる気配を感じる。

もしかして……さっきのあやかし達かもと涙目になって、

ひしっと龍青様のとと様にしがみ付いた。



「キュ、キュイイ……」


「娘、おぬしはまだ死の匂いをまとわぬ生者だからな、

 みずみずしいその魂は、未練のある者を自然と引き寄せてしまうのだ。

 だが、おぬしは息子の大事な嫁となる娘、そして我の子どもにもなる。

 子は龍族にとって大事な宝、我の子どもにそう勝手に手出しはさせんよ」



 龍青様のとと様の声を聞いたのか、

地をうような獣の雄叫びのようなものが、すぐそこまで聞こえてきて、

やがて怖い声が辺りにじわじわとひびいていく……。


 ”ソノ、コドモヲ……コチラニ、ワタセ……”


 ”ミズミズシイ……ワカイ……イキタ……タマシイ……”



 黒い何かが群れになって、一斉にこちらへと押し寄せてくる気配がした。



「キュイイイ!」


 黒い影に囲まれ怯えた私は、

ひしっと龍青様のとと様にさらにしがみ付いた。


 すると龍青様のとと様は私を抱きかかえたまま、後ろにざっと下がり、

足で何かを蹴り飛ばしたではないか。



「――たわけ、この我を誰と心得るか!」



 シャン、シャンシャンシャン!



 片腕で私の体を支えた龍青様のとと様は、

もう片方の手に金色の鈴を取り出してきて、それを鳴らす。

すると足元から暗闇が晴れてきて、地面が光る金色の花畑へと変わっていき、

近付いて来ていた黒い何かが、一斉に悲鳴を上げて消えていく。


 それは鈴の音とともに起きた。ふしぎな力だった。



「キュ!」


 すごいね! きれいきれい。

周りが明るくなったことに、私が両手をぱちぱち叩いて喜んだら、

龍青様のとと様は鼻息荒く笑った。



「はは、どれ見たか! これぞ我の得意技、神清しんしょう結界よ。

 我が眷属を加護し、辺り一帯を洗い清める一族秘伝の浄化奥義だ。

 この中にはいかなる邪な亡者やあやかしもはらわれて、一切踏み込めん!!

 水神は引退したが、それでも我は神の血を引く末裔だからな、

 神通力はいまだ使えるぞ」


「キュ」


 すごいんだねと、私はこくりとうなずく。



「……まあ、これはおぬしが我の目を覚まさせてくれなければ、

 出来なかったものだがな」


「……キュ?」


「さあわらべ、いや我の力の一部を受け継いだ龍の娘よ。

 ここからはおぬしの出番じゃて。息子との絆でこの困難を補って見せよ。

 ……ときに聞くが、かくれんぼは得意かのう?」


「キュイ」


 こくりとうなずいた。得意だよ。

龍青様とも、ときどきやっているもの。



「ほうほう、では見つける方は?」


「キュ!」


 得意だよ! どこへ隠れても私は龍青様を見つけられるの。

だって龍青様はいつだって私が見つけやすいようにしてくれてね?

私は龍青様の匂いを毎日嗅いでいるから、

龍青様の匂いがあればすぐにわかるの。



「ならば、いつも通りにしてみよ。

 龍青が隠れやすい所も分かるだろう?

 あやつが隠れそうなところは、その鈴も知っておる。

 それからは息子の神気を感じ取れるから、それをたどって行けばいい」



 そうか、これは“かくれんぼ”のときと同じなんだ。

だから怖がらずに進めと、頭をなでてくれた龍青様のとと様に、

私はキュイっとお礼を言って腕から飛び降りて思いっきり鈴を鳴らした!

いつもみたいに、鈴にも手伝ってもらうんだ。



「キュイイ!」


 龍青様をみつけて! とキュイキュイと叫べば、

鈴はさっきとちがった輝きを見せて、どこかへと光の道が伸びていく。



「……!」



 会える、会えるんだと両手を前に伸ばし、しっぽを振り始めた私に、

龍青様のとと様がうなずいて微笑んでくれた。



「さて、行く前に……その鈴を貸してみよ。

 我の持っている神力もそれに付与してやろう、お守りにな」


「キュ?」


 言われるままに、鈴がある方の足を差し出してみる。

すると私の足に結んである銀色の鈴に、龍青様のとと様がそっと触れ、

鈴の周りに一瞬、金色の光が包み込んで消えて行った。



「それでより、探し物が見つけやすくなるだろうて。

 どんな因果があろうが、親子の血の縁はどんな場合でも切れぬ……。

 我の血を引く息子ならば、なおさらな」



 私はお礼を言って急いで駆け出した。

視界は足元から明るく照らされ、鈴から銀色の光が出て、

龍青様のとと様が出してくれた金色の光の道も出来ている。

それぞれが私の行く先を示してくれている。行くべき道を教えてくれる。


 すんと鼻を嗅げば、今度は嗅ぎ慣れた匂いが見つけられるようになって、

私は後ろからついて来てくれている、龍青様のとと様を振り返る。


「キュイ!」



 みつけた! こっちから龍青様の匂いがするよ。

さっきは霧でよく嗅ぎ取れなかった龍青様の匂いが、今ならはっきりわかる。

私が大好きなあのお兄さんの匂いが遠くからきている。



「あやつの残留思念の欠片から出た匂いじゃな、

 ……やはり、我より探しものはおぬしの方が得意なようだの」


「キュイ!」


「我は余り息子とは過ごせず、縁が薄いせいじゃな。

 この地にやって来たのは我の方が早いと言うのに、

 息子がやって来たことには気づかなかった……。

 しかしこればかりは、どうしようもないことだからの」



 少し寂しげに笑う龍青様のとと様がいたので、

私は一度立ち止まり、龍青様のとと様の元に戻ってくると、

ぽんぽんと軽く足を叩いてなぐさめた。






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