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25・それから



 雪解けの季節がやって来て、お日様がぽかぽかと暖かい日も増えてきた。

そんな中、とてとてと私は知らない獣道をひたすら歩いている。


「キュ」


 すっかり迷ってしまったな。私の郷はどこだろう?

鼻をすん……と鳴らしながら、私は高い所を目指して帰り道を探していた。


 暖かくなってきたと言っても、まだ寒さも少し残る時期、

身を寄せ合い暮らしていた私には、

親からはぐれて生き延びられる可能性は低いし。

早く戻らないと大変かもしれないな。


 でも、私には龍青様からもらった龍の鈴がある。

もしもの時は、これを鳴らせばいいとか思っているが……。


「キュ」


 もうちょっとだけ、がんばるか。


 龍青様からもらった着物も着ていて暖かいし、

手にはさっき掘り起こしたタケノコがある。

水は龍青様の鈴を鳴らせば大丈夫なので、食べ物には困らないが、

タケノコは龍青様にあげようと思って、

がんばって掘ったものだから取っておきたい。


 お腹が空いて、じゅるっとよだれが出てくるが我慢だ。


「キュ~……」


 でも帰り道が全く分からないのは、幼心に不安だな。


 誰か知っている匂いが残っていないかなと、

くんくんと地面に顔をくっ付けて匂いを探すが、それらしいものは見当たらない。


「キュイ、キュイ」


 見慣れない場所なので私のかか様を呼ぶ。


 かか様、かか様、どこ?


「キュー……キュイイ……」


 呼んでいるうちに涙がぽろぽろと流れていく。

遥かかなたにある高い木々の間から、光がわずかに差し込んでくるが、

鳥の泣き声もしていない……このまま帰り道が分からなかったら、

ここで野宿になるな。


 私が歩くたびに、ちりりんと鈴の音が鳴るが、

いつも彼を呼ぶための音色とは違う。

足に結ばれたこの鈴の音と、着物に染みついた匂いのおかげで、

今の所は大きな獣に狙われることもなかった。けれど寂しい。

巣立ちの練習とはいえ、見慣れぬ場所を歩くのは不安になる。


 でも、かか様はきっと私くらいの時から苦労して生きてきたので、

幼いうちから私にいろいろ教え込みたいのだろうな。



「キュー……」


 ……が、私はまだ甘えたい盛りの子どもだ。

こんな時に、真っ先に思い浮かぶのは龍青様の顔で、

でも今日はかか様に、ぬし様を呼ばないで一日過ごす事を言われているんだよね。


――そう、私がこうなっているのは、

かか様によって言われたことが原因だった。


※  ※ ※  ※




それは、今日の朝のこと。



『キュイ』


 いってらっしゃい、とと様、大物をって来てね。


 今日はとてもいい天気だったから、

とと様や郷の雄達は、いつもどおり狩りに出かけることになり、

私はちょいちょいと小さな手を振ってお見送り。


 水神の嫁になるという盟約の印が消えたせいか、

私の瞳の色は、とと様とかか様の色を混ぜたような深い黄色の色になっていた。


 それを見て、とと様とかか様はとても喜んでいたけれど、

私は龍青様とのつながりが無くなったのは、ちょっと残念だった。


(嫁になった時に龍青様にまた緑にしてもらうから、いいけどね)



 

『ああ、行ってくるぞ桃』


『……キュ』


 ふう、やれやれ。これでいつでも龍青様に会いに行けるな。

……なんて思って、持っていた手まりと一緒にいざ行こうとしたら、

私の首の後ろ根っこを、あむっと咥えてきたかか様に捕まった。



『キュ?』


『遊んでばっかりだから、今日はきっちりお勉強をしましょうね』



 えー……これから、龍青様の所に遊びに行こうと思ったのに。

今行けば、朝餉あさげをごちそうしてもらえるんだよ?

キュイキュイと抗議しても、かか様にはだめって言われた。



『今日はぬし様に頼らないで、自分の力を付けてみなさい』


『キュ~……』


『お転婆なあなたの面倒を、いつも見て下さるのはありがたいことだけど、

 さすがにこう毎日と、ぬし様の所に行かせるのもね』



 龍の子どもは、幼いうちから自立できるだけの力を付けていかないといけない。


 急に親と死に別れたり、外敵に狙われたりする事もあるからだ。


 私も郷を襲われて、親や仲間とはぐれた時は、

自分だけの力だけでたくましく生きて行かなくてはと、

そう覚悟していた頃もあったけれど、龍青様に助けられた後は、

寂しかった分、いっぱい甘やかされていたので、

危機感とやらもすっかりなくなってしまった。



『キュイイ……』


 龍青様と遊びたいよう……かか様。



『龍の雌は幼い頃から、つがいとなる相手を見つけるものもいるけれど。

 本当にぬし様の嫁になりたいのなら、もう少し頑張らないとね』


 あれから……とと様とかか様に龍青様とのこと、かか様の先祖の事を話した。

かか様は私が幼すぎて言ってもまだ分からないだろうと、黙っていたらしい。


『私も、私のお母様も、おばあ様たちも、自分が成体になるときにね。

 両親と死に別れていたの、頼るべき者を失い次代へとつなげる。

 それが私達の償いであり役目だった。あのままなら私もいつか……。

 あなたが成体になったその日に、死ぬはずだったのよ』


『キュ……』


 私はぎゅっとかか様に抱きついた。

かか様ととと様がそんなことになるの、私はやだ。

そう言ったら、かか様は私をぎゅっと抱きしめてくれた。


『遅かれ早かれ、親は子を残して先に死んでいくものなのよ。

 だからそれまでに、自分の子どもに大切な事を教えておくの』


『キュイイ……』


『私達は自然界にも見放された呪われた白龍の一族、

 それでもいつかこの償いを終え、呪いを解く日を願っていたわ。

 ……自分の子どもを犠牲にするような未来ではなく』


 そんなかか様を、とと様は全て分かった上で自分の群れに迎え入れたらしい。

私の言葉では全然うまく伝えることは出来なかったけれど、

その後に龍青様が現れて、私の代わりに説明してくれたのだ。

代替わりのこと、龍青様のとと様が起こした盟約の話を、その終わりを。


 おかげで、かか様は何かほっとしていたようだし、

とと様は……。


『じゃあこれで、うちの娘はもうぬし様の嫁にはならなくていいんだな』


『キュ?』


 え? なるよと言ったら、とと様が絶叫していた。


 だって、私は龍青様の番になるんだから。


『そんな……っ! もう娘を手放さずに済むと思ったのに!!』


 今は自立のために私をきたえているのに、

私が親離れするのをなぜ悲しむのだろうか。

しょうのないとと様だな……とは思ったが、そう言ったらとと様は、

きっとまた泣きそうな気がするので黙っておいた。私は良い子なのだ。


 まあ反対されても私が大きくなったら、

龍青様の嫁にはなってあげる約束をしているので、

その時は無理やり巣立っていけばいいかなって思っているよ。

できたらいつか、「いいよ」って言ってほしいけどね。



『父親は、娘にはいつまでも傍に居てほしいものよ』



 かか様がそう言っていたから、子離れ出来るのかなって思っている。


 そういえばかか様は自分や先祖にあんな事があったのに、

よく私が龍青様と遊ぶのを許してくれたなって思っていたので、

かか様にそのことを聞いてみたんだけど。


『そうね……確かにあなたが主様に求められているのを知った時は、

 やはり運命には抗えないのかと悲しんだ時もあったけれど、

 でも、あなたと主様の普段の様子を見ていたら、

 もしかしたら、私が思うようにはならないんじゃないかとも思ったの』



 私が元々怖がりだったのに、龍青様にとても懐いていた様子を見て、

大丈夫じゃないかって思ったんだって。


 それで、これまでのことが落ち着くと、かか様は龍青様と会う前と同じように、

私にみっちりと生きていく術を教え込もうとしていた。


『キュ、キュイキュイ』


 かか様、私は遊びたいんだ。勉強はやだと言ったが、

それだと主様の嫁にはなれないと言われ、私は大人しく従うハメになった。

頬をふくらませて機嫌を悪くした私に、かか様は溜息を吐きながら教えてくれる。

私にだけは隠されていたその話を。


 龍青様は私の中にあった呪いが発動しないよう、

密かに自分の体に呪いを欠片にして受け入れて、

少しずつ浄化してくれていたらしい。


 いつも私の頭をなでてくれた龍青様、

あの時にずっと私の中から抜き取ってくれていたと。

その方法は自分で毒を取り込み続けるようなものなんだって。



『私はそれを主様から密かに教えていただいたわ。

 あなたが遊び疲れて主様の腕の中で眠っている時にね。

 あなたや私達を生かし助ける方法を、あの方は命がけで見つけようとしてくれた。

 その時に、もしかしたら私達へ呪いをかけた水神様とは、

 違う方なのではないかって思い始めたのよ』



 実は龍青様は私と出会う前から、

この呪いを解く方法を密かに探してくれていたという。


 その呪いを解く方法は二通りあった。

一つは掛けた相手が呪いを直接解いて身に取り込むこと、

二つめは術者の血を引く者が身代わりとなって、解く方法なのだと。



『もしも浄化が間に合わない場合は、ぬし様はあなたの呪いをすべて引き受け、

 先代様を道ずれに、黄泉へ行こうともしていたそうよ。

 自分の代で水神の一族を終わらせることも考えていたそうなの』


『キュ!?』



 そう言われてみれば夢の中で駆けつけてくれた時も、

やたらぼろぼろの姿をしていた龍青様。

何度も咳こんで、すごく苦しそうな顔もしていた。

きっと私が知らない所で私を助けようと無理をさせていたのだろう。

つまり私は、また龍青様に命を助けてもらっていたのだ。



『キュ……キュ……』


 涙がぽろぽろと流れる。そこまでして私を守ってくれていたのだと。

守ろうとしてくれていたのだと。


 震えが止まらない。龍青様は私の知らない所でずっと戦ってくれたんだ。

私が普通に陸で暮らせるように。私が死なずに済むように。



『あなたの前では笑顔でいらっしゃるけど、

 本当はとても疲れていらっしゃると思うのよ。

 だから今日はせめて休ませて差し上げましょうね?』


『キュイ……』


 知らなかった。


 あのとき龍青様のとと様が言っていた言葉は、そういうことだったんだ。


『キュ……』



 だから今日は、龍青様のお膝の上で貰うおやつもおあずけだ。

そういうことならと、すん……と鼻を鳴らして、手まりにお留守番を頼み、

かか様の後を仕方なく付いて行く。


『キュ……』


 ふと、足を止めて滝のある方向を振り返る。

龍青様、早く元気になるといいな……。



 その後、私はかか様に連れられて野山を歩き、

食べられる物を見分ける方法を教えてもらったり、

巣の作り方を教えてもらったり、外敵から襲われた時の為に、

身を守る方法を教えてもらっていた。


 一番の勉強は、人間への知識を持つこと。これは龍青様もよく言っているな。


『キュ』


 早く大きくなりたいものだ。そうしたらこんな勉強ともおさらばなのに。

龍青様も待ってくれているし、たくさん食べたら大きくなるかな?



『キュ……』



 思い出したら龍青様が恋しくなった。今ごろどうしているのかな龍青様。


 私に黙って美味しい物を食べていないよね? それとも寝ているのだろうか?


 大丈夫かなと思いながら、キュイ、キュイと空を見上げて、

ここには居ない龍青様のことを思い浮かべる。

龍青様はいつだって私を助けて、守ってくれているのに、

私には出来ることがほとんどない。もしも子どもじゃなかったら違ったのかな。


『キュイイ……』


 もしかしたら、この空のどこかで見守っていてくれているかもしれない。

私は両手を空へと振り、着物に残った龍青様の匂いを嗅いで過ごした。


 さて、だいぶ雪解けもあって、歩きやすくなってきたけれど、

まだ食料になるものを探すのは一苦労だ。

龍青様からもらった赤い着物を汚さないように気を付けながら、

雪や土を掘り起こして、食べられる木の実や草の芽を探していた。


『キュ』


『ええ、それは食べられるわ』


 見つけたらそれは自分の食料になる。

しいの実を口の中に入れて、もしゃもしゃとかみ砕いた。

んー……やっぱり、焼いたお魚とか獣の肉とか桃とかの方がいいな。

煮物とかいう、塩気のある食べ物もないし。


 龍青様のお屋敷で、いつもごちそうを食べさせてもらっているからか、

味を付ける訳でも、食べやすくすることもなく、

素材そのままを口にするのにちょっと抵抗がある。



『いざという時、こういうのにも慣れておかないとだめよ?』


『キュ……』


 私がぜいたくを知ってしまったせいだって、かか様が言う。

確かに、前までは何とも思わずに食べていたものなあ……。


(あ、そうだ。龍青様にタケノコ採って来てあげよう)


 柔らかくて食べやすいから、食べたら元気になるかも。


『キュ』



 思い立ったら早かった。そのまま竹林を探して近づき、

手ごろな大きさのタケノコを見つけ、夢中になって掘っていたら、

いい感じの物が手に入ったので、キュイっと母に見せてあげようと振り返る。

……でもそこに母の姿はなかった。



『キュ……』


 まずい。はぐれた!


 探しても探しても姿が見えないではないか。


『キュイイ、キュイイ』


 心細くなって涙が浮かんでぽろぽろと頬を伝う。

自分だけだと寂しくて体が震えてくる。どこかに居るかか様を呼んだ。

さっきまで傍に居たはずなのに、どれだけはぐれてしまったのか。

慌てていると、ざわざわと風が周りの竹林を揺らしていく。


『キュ……』


 それはまるで――……郷を襲われたあの頃のようで。


 足元の鈴を鳴らそうと思ったが、はっと気づいた。

そうだ。今日は龍青様の力を頼らないようにと言われているんだった。

キュイキュイ鳴いて母を呼んでもみるが反応はないので、

私はしかたなく、帰り道を探す為に歩き出して……。




※  ※  ※  ※



――そして今、私は疲れてしゃがみ込んでいた。


「キュイイ……」


 もう疲れて歩けない。この短い手足では進める距離も短かった。


 両手には採ったばかりのタケノコを大事に持ち、

近くにあった木の根の端にちょこんと座りこむ私。

せっかく採れたんだから、これは龍青様にあげるんだと思っていたのに。

もうだめだ……と、ころんと後ろにひっくり返り、すんすんと泣く。


「キュイイ」


 もう龍青様と、二度と会えないかもしれないんじゃないか。


 手にタケノコを抱えたまま、キュイイっと龍青様を想って泣いた。

すると鈴が光り出すので、慌てて起き上がり両手で押さえつける。

だめ、会いたいけど龍青様は休ませてあげないと。


 けれど、鈴の光は収まる事がなく、

私の涙とその声に反応して、近くに水たまりが出来た。



「なんだ姫……珍しく会いに来ないと思ったらここで何をしている?」



 その場に響くのは、私が一番会いたいそのお兄さんの声。

顔をあげると扇片手に龍青様が居て、私のことを見つめていた。


「キュ……? キュー!」


 龍青様、来ちゃったあああっ!

私がそう叫んで、キュイキュイ泣いていると。


「な、なんだこの俺が来てはいけなかったのか?」


「キュ?」


 あ、そうだ。私は今迷っていたんだった。

私は驚きつつも龍青様の足元の着物に顔を埋めて、ぐりぐりと額をすり付ける。


 龍青様だ。龍青様会いたかったよ……と、

そのままキュイキュイと泣きだしてしっぽを振る私を、

龍青様はしゃがんで頭をなでてくれる。


「なんだなんだ。今度は甘え出して……よしよし、その様子だとまた迷子か?

 姫は体が小さいからな、まだ上空を飛ぶだけの翼は出来てないようだな。

 じゃあおいで、姫の郷まで連れて行ってやろう。

 今頃は姫の母君が心配して探しているだろうから、使いを出しておくか」


「キュ」


 龍青様、疲れているのにごめんなさい……。


「……うん? 姫が困った時に頼られるのは嬉しいからいいよ。

 これも番……いや、今は婚約者の務めだからね。

 それにその鈴は姫に異変があれば俺を呼び出すようにもしてあるから、

 俺はそれで様子を見に来たんだよ」


「キュ……?」


「こんな所で寂しく泣かれるよりは、まだ頼ってくれる方がいいからね。

 だから困ったときは、俺に遠慮しないでいいんだよ桃姫」



 そう言って龍青様は今日も笑いかけてくれた。


 龍青様は片手から水で出来た魚を作りだし、

魚は足元に出来た水たまりに、とぷんと潜り込んだ。



「……ところで姫、さっきから何を持っているんだ? 泥だらけだぞ」


「キュ?」


 そうだ。タケノコ、龍青様にあげるの。

私は持っていたタケノコを持ち上げた。

これで元気になれる?



「俺にか? ああ、これはタケノコか、そうか、もうそんな季節か、

 ありがとう桃姫、じゃあ後で春の膳を用意してもらおうか。

 ちょうど女房達が菜の花やふきのとうを摘んできたと言っていたからな」


「キュ!」


 龍青様はまた水で魚を作りだすと、タケノコを手渡して運んでもらう。



「煮しめや吸い物もいいし、タケノコのご飯も美味いぞ」


「キュイ」


 聞いているだけで美味しそうだ。私はいけない龍になってしまった。

これじゃあ私は、ちゃんとした成体の龍になれないんじゃないか。


 いつも龍青様に用意してもらうばかりで、

私はちゃんとお返しができていないのにな。



「……俺の嫁になるのなら別に良いだろう? 俺が養うんだし。

 番が飢えないように、満たしてやるのは雄の役割だからね」


「キュ」



 私が成体になって巣立てる時になったら、龍青様が迎えに来てくれて、

屋敷で暮らし始めることになっている……それが巣立ちでいいのかな?

今も龍青様のお屋敷にはよくお泊りしているから、

あんまり変わらない気がするけど。



「それは……姫が俺との生活になれるよう、

 子どものうちから巣立ちの練習をした方が良いだろう?」



 なんだそうなのか、じゃあ大丈夫だねって私はうなずいた。


「ふふ、俺は甲斐性があるからね。

 衣食住には困らせたりしないから大丈夫だよ。

 それにお礼は姫が大きくなって俺の嫁になってくれる事で、

 充分、お釣りができるくらいになるよ」


「キュ?」


 そうなの?


「ああ、それに姫はいつも俺に愛情を示してくれるから、

 俺の水神としての力も増して、最近は少しずつ安定してきているんだ。

 だから、共に暮らせるようになったら、もっと幸せになれるだろうね。

 ……まあ、姫にとっては時間がたくさんあるのだし、

 俺の嫁になるかどうかは、それまでによく考えるといいよ」

 


 私が龍青様にじゃれ付いているだけでもいい事はあるんだ。

しっぽをぶんぶんと振って、じゃあ楽しみだねとキュイキュイ鳴く。

その時に風が吹いて、私の鼻先に桃色の花びらがかすめて、くすぐられた。

へぷしっ! と、くしゃみをしてしまって、すんと鼻を鳴らして辺りを見回す。

何だろう今の……ひらひらしていたけど。



「ああ……姫、少しだけ寄り道していこうか?

 確かめたいものがある。ちょうど見ごろかも知れないよ」


「キュ?」


 なにが?


 龍青様は私を抱き上げたまま、するすると歩き出した。





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