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7.ラデアーナ②

ここまでのストーリー:エルフを助けた。

 それからは大変だった。


 シュヒリとプラトリーが血相を変えて現れ、サスケに説明を求めた。


 サスケは「たまたま山の中を歩いていたら、彼女を誘拐した窃盗団に遭遇し、声を掛けようとしたら、逃げられた。彼女を放っておくわけにもいかないので、連れてきた」と説明した。むろん、息子が人殺しになったとは言えない。


「盗賊団に声を掛けるとか、その勇気は認めるが、そんな危険なこと、今後は勝手にするなよ!」


 シュヒリに怒られた。


「ごめんなさい。気を付けます」


 サスケは申し訳なさそうな顔でやり過ごす。

 シュヒリの通報によって、警備隊とか関係者がやってきて、ラデアーナに話を聞こうとするが、大人たちが話しかけようとしても、サスケの後ろに隠れてしまうので、サスケが大人たちの対応を行った。また、サスケのそばを離れたがらないので、親が迎えに来るまで、サスケの家に泊まることになった。


「あらあら、好かれちゃって」


 プラトリーは二人を見て、微笑む。そんな場合じゃないでしょ、とサスケは内心思う。

 関係者が帰って、スクアルス家にも平穏が訪れた。

 喋りつかれたサスケは、気分でも変えようかと、家を出ようとする。すると、ラデアーナに裾を掴まれた。


「どこに行くの?」

「海を見に行くんだよ」

「海?」

「見たことないの?」

「さっき、ちらっと見た。あれが初めて」

「そっか。なら、もっと、ちゃんと見てみようか」


 サスケは、丘を下ったところにある砂浜へとラデアーナを連れて行った。

 波は穏やかで、夕日が沈み、空が橙色に染まっていた。


「わぁ」


 ラデアーナが目を輝かせる。純粋な反応に、サスケは何だか嬉しくなる。


「きれいだね!」

「ああ」

「ねぇ、海の水ってしょっぱいの?」

「しょっぱいよ。確かめてみたら?」


 ラデアーナは海を一瞥し、サスケの手を引く。


「一緒に行こう」

「この波なら、さらわれないから、一人で大丈夫だと思うけど」


 それでも、ラデアーナが心配そうにしているので、ついて行く。

 足首まで海につけ、少しだけ遊んでから、家に帰ることにした。

 ゆるやかな丘を登りながら、ラデアーナが言う。


「そう言えば、どうして、サスケがあの人たちをやっつけたこと、言わなかったの?」

「何のこと?」

「せいれいさんが言ってたよ。サスケがやっつけたって」


 精霊と話ができる人間はかなり限られているが、エルフは誰でも精霊と会話ができるらしい。そんなことが本に書いてあったことを思い出し、精霊って、本当にいるんだと思った。


「……まぁ、色々、面倒なことになるからな」

「めんどうって?」

「大人になればわかるよ」

「むっ。サスケだって、子供のくせに……」


 実際、二週目なんだよな……。サスケは笑って誤魔化す。

 それから家に帰って、一緒に風呂に入ったり、ベッドで寝たりするイベントがあって、次の日になった。


「ラデア!」

「パパ!」


 ラデアーナの父親が、王都の騎士ともにやってきた。二人は抱き合い、喜びを分かち合う。


「良かったわね」

「ああ、良かった」


 目じりに浮かんだ涙を拭うプラトリー。シュヒリはそんなプラトリーの肩を抱いた。相手の親の気持ちがよくわかるのだろう。サスケも、その気持ちはわかった。


「此度のあなた方の活躍、王様も感謝していました。ありがとうございます」


 と、優男みたいな金髪の騎士は、シュヒリとプラトリーの前に来て、頭を下げた。見た目こそ弱そうだが、些細な身のこなしから、只者ではないことを、サスケは見抜いた。


「いえ、今回はうちの倅の手柄です。感謝なら、うちの倅に言ってやってください」


 騎士は膝を折り、サスケと向き合う。


「ありがとう。勇敢な少年。君のおかげで、エルフを救うことができた」

「どうも。そう言えば、これ」


 サスケは紙を3枚渡した。誘拐犯の似顔絵である。7歳児が描いたとは思えぬほど、上手な絵だった。


「すごいね……。君、絵描きになれるよ」

「ありがとうございます。それ、誘拐犯の似顔絵なんで、使ってください」

「ありがとう。協力、感謝する」


 ラデアーナの父親がやってきて、膝をつき、サスケの手を握る。


「ああ、本当に言葉にできないほど、君に感謝している。ありがとう、少年」

「いえいえ、運が良かっただけですから」


 それからラデアーナの父親は、耳にたこができそうなほど、感謝の言葉を口にする。正直、感謝されることには慣れているから、過剰な感謝はうっとおしい。しかし、そんなことを言うわけにはいかないので、苦笑するにとどめる。


「それじゃあ、そろそろ帰ろうか、ラデア」


 しかし、ラデアーナは中々帰ろうとしなかった。


「ラデア?」

「ちょっと待って」


 ラデアーナは父親の手を放し、サスケの下へやってきた。


「ねぇ、サスケ。また来て、いい?」

「……ああ。いいよ」


 涙目の上目遣いで頼まれたら、断ることができない。


「良かった!」


 へへっ、と頬を染めるラデアーナを見て、サスケは微笑ましく思う。彼女の笑みに、前世の娘の面影が重なった。


「それは良いことです」と騎士が言う。「この小さな交流が、お互いの種族への理解に繋がるのです。我々もできることはしましょう」

 それからラデアーナは、半年に一回、スクアルス家を訪れるようになった。


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