5.忍法 そっぴんさん
ここまでのストーリー:誘拐されているエルフを見つけた。
* グロい表現があります。
「あれれ~? こんなところに、エルフの子供がいるよ~?」
サスケは、7歳の子供らしい無垢さを演じながら、3人の前に現れた。
「何だ、てめぇ」
強面の男に睨まれても、サスケは平気だった。もっと、恐ろしい猛者たちを何人も見てきた。
「もしかして、おじさんたちが誘拐したの? 駄目だよ! エルフなんか誘拐しちゃ!」
強面の男は気だるそうに、しかしサスケへの敵意を明確にして言った。
「あぁ……。だから俺は、ガキが嫌いなんだ。こいつらは何もわかってないくせに、正義感だけは一丁前にある」
このおじさんは何を言っているんだろう? とサスケはわざとらしく、小首を傾げた。
「あぁ、ムカつくわ。おい、お前、こいつだったら、いくらでもやって構わねぇぞ」
小太りの男は犬みたいに舌を出して、サスケに向き直った。この男、自分の性欲を満たすことができれば、相手は何者で良いようだ。
じりっと小太りの男が近づくと、サスケは一歩後退した。
「な、何をするつもり、止めてよ!?」
「はっ、大人を舐めんじゃねーぞ、クソガキィ!」
その言葉が合図であったかのように、丸い体格の男がサスケに跳びかかった。そして、サスケに抱き付いた瞬間、サスケの体が水となってはじけた。
びしょ濡れになって、呆然となる丸い体格の男。他の男達も呆然としていたが、ハッと立ち上がり、辺りを警戒する。
「なっ、やつはただのガキじゃねーぞ」
「どこに行った!?」
丸い体格の男も慌てて辺りを探るが、「あっ、あああああぁぁ!?」と様子が変わる。
「どうした!?」
丸い体格の男を見て、二人は目を見開いた。男の体から白い煙が上がっていたのである。さらに皮膚が爛れ、穴が広がり、血がこぼれだした。あまりにも凄惨な光景に、小太りの男は目を背けた。
そんな小太りの耳元で声がした。
「『忍法 そっぴんさん』。こいつを浴びたものは、ひどく醜い容姿になってしまうんだ」
「ひぃ!?」
小太りの男は驚いて振り返る。しかしそこに、サスケの姿は無かった。
「どっ、どこだ!?」
「どうした!?」
「が、ガキの声がぁぁぁぁぁ!!!」
小太りの男が跪き、腹を抑える。
「お、おい、どう……!?」
顔を上げた小太りの男を見て、強面の男は息を呑む。小太りもまた、皮膚が爛れ、破れていたのである。そしてその傷は、さらに広がり、顔の皮膚がずり落ちる。
「いてぇ、いてぇよ、兄貴ぃ」
救いを求める手を強面の男は無視し、逃げようとした。が――。
「逃げるのか?」
耳元で声。強面の男は動けなくなった。
「仲間が苦しんでいるというのに、お前は見捨てて、逃げるのか?」
冷汗が垂れる。何だ、この妙な圧迫感は。ガキだと思ったあいつはガキじゃなかったのか。
「お前らは、いつもこんなことをしているのか?」
「や、やめる! もう、こんなことはやめるから、ゆ、許してくれ!?」
男は強面を崩しながら、情けなく懇願する。皮膚が溶けていく二人を見て、あんな死に方は勘弁だと思った。
「本当にやめるのか?」
「ああ、やめる!」
「そうか」
ドスッと背中に鈍い痛みが走る。と同時に、何か熱いものが胸に流れてくる。
「お、おいっ、話が違う」
「俺は何も約束などしていない」
「くっ、くそがぁ!?」
「助かりたいか? なら、一つだけ約束しろ。もう、エルフの誘拐をしないと」
「あ、ああ。わかった。する。だから、見逃してくれ!」
「……さっき俺は、お前の心臓に『そっぴんさん』を流し込んだ。つまり、お前の心臓の鼓動が速くなればなるほど、貴様は体内から焼かれて死ぬ」
「なっ!?」
「そして、人は嘘を吐くとき、心拍数が上がると言う。だから、改めて、聞こう。お前は、本当にエルフの誘拐を止めるのか?」
「そ、それはああああああああ!」
男は崩れ落ち、体中を掻きむしりながら、のたうち回る。
「いだい、いだい、いだい、いだい」
暴れ回っているうちに、男の目や耳から液体がこぼれ、やがて――男は動かなくなった。
静かになった廃村に、サスケだけが立っていた。彼の周りには、皮膚が爛れた肉塊が横たわっていた。サスケはそれらの肉塊を一瞥し、「あぁ……」と後悔した顔で、空を見上げた。
前世でも、ついつい陰惨な方法で敵を殺してしまう癖があった。この世界では、その癖を治そうと思っていたが、長い経験で培われた癖は、そう簡単に治せそうにないようだ。
「やれやれ、また、業の深いことをしてしまった……」
サスケの瞳はまた少し濁った。