4.修行
ここまでのストーリー:忍法の修行をしつつ、魔法にも興味をもった。
そしてサスケは7歳になった。
7歳になったサスケは、『魔法使い』になることを諦めていた。というのも、自分には魔法の才能がないことを悟ったからである。魔法を扱うために必要な『魔力』の量や質は、先天的に決まっており、サスケはどちらも人並みだった。だから、魔法使いになれたとしても、人並みの『魔法使い』にしかなれない。
一方『法力』は、幼少期の訓練によるが、後天的に質と量を高めることができる。ゆえにサスケは、忍者……になるかはわからないが、忍者になれる可能性を残しておくため、忍者の修行に励んでいた。
そんなある日のことである。
7歳になって、行動範囲が広がったサスケは、山奥にある廃村まで、枝から枝へとジャンプしながら移動した。廃村は、家があったことを示す、土台とわずかな壁しか残っていないような場所である。サスケはそこで、いつも忍法の修行をしている。
「さて、今日もやりますか」
両手を組んで、大きく伸びをする。体は十分に温まっていた。
「ん?」
そのとき、人の気配を感じ、サスケは木を駆けのぼって、隠れた。
それから5分ほどして3人組が、サスケが潜む木の下を通って行った。3人のうちの2人が、大きな皮の袋を括りつけた棒を、肩で担いでいた。駕籠のようである。
(あの中身は……人か?)
袋がもぞもぞ動いているし、もう一人、気配がする。しかし、人間なのだろうか? サスケは戸惑う。何というか、袋の中から、神秘的なエネルギーを感じる。
(確かめてみるか……)
3人が木の下を過ぎてから、サスケは降り立ち、木や低い壁に身を潜めながら、素早く彼らに接近した。
「なぁ、兄貴。そろそろ休みましょうや。疲れました」
棒を担ぐ、小太りの男が言った。
「ちっ、仕方がねぇな。なら、ここで休もう」
棒を担いでいない、強面の男が煩わしそうに言った。
「やった」
小太りの男が棒を下ろすと、もう一人の小柄で丸い体格の男が、へらへらしながら、棒を下ろした。
サスケは3人の様子がよく見える背の低い壁に身を隠す。
「ふぅ」と強面の男は近くの切株に腰を下ろした。小太りの男も地べたに座る。丸い体格の男は、袋を閉じている縄を解いた。
「何だ、生きてるのか、確認するのか?」
強面の男に聞かれ、体格の丸い男は何度も頷く。袋が開き、中から現れたのは、エルフの子供だった。手足を縛られ、口も布で塞がれている。目は涙で濡れ、怯えていた。
(これは……誘拐だな。しかもあれは、エルフだよな)
エルフを見るのは、それが初めてだった。本の情報によれば、エルフを含む亜人は、モンスターに近いという理由で、人間から迫害を受けている。そのため、亜人たちは人がいないような場所で生活しているらしい。しかし亜人、とくにエルフの中には、人間にはない魅力的な美貌をもつ者が多く、エルフの子供や女性を誘拐しては、奴隷や慰み者にしようとする不埒な輩がいると本に書いてあった。
(お前らみたいな奴がいるから、いつまで経っても、仲良くならないんだろうが……)
サスケは呆れながら、彼らの行動を見ていた。
小太りの男がカチャカチャとズボンのベルトをいじり始めた。
「おいおい、お前、何するつもりだ?」
強面の男が、驚いたように顔を上げる。
「女に飢えてるんですよ、こいつはぁ」
小太りの男が、へらへらしながら言った。
「馬鹿っ! そいつは商品なんだぞ!!」
強面の男が怒号を飛ばすと、丸い体格の男はしょ気た。しかし相変わらず、カチャカチャしている。
「仕方ねぇな。擦り付けるだけにしろよ」
丸い体格の男の顔に笑みが戻る。男は上機嫌でベルトを外した。
(さすがにこのまま、見過ごすわけにはいかねぇよな……)
この世界では、できれば平穏に過ごしたいと思っていたが、それも難しそうだ。
サスケの目が、また少し濁った。