28.家族になろうよ
ここまでのストーリー:ノーサを助けたいと思った。
ノーサは夢を見た。父親と夜の洋館を散歩する夢だった。右手で父親の手を握り、左手には母親を抱いて、洋館の中を歩く。広い洋館は、何度歩いても、新たな発見があって、飽きなかった。
歩いているうちに、ノーサは眠くなってきた。すると父親は、「そろそろ寝ようか」と言った。しかしノーサは首を横に振る。もっと父親と一緒にいたかった。父親は、夜しか起きていないから、一緒にいられる時間が少ないのだ。
「大丈夫。また明日もあるさ」
ノーサが拒むたびに、父親はそう言って、微笑んだ。そしてノーサはその言葉を信じ、眠ることにした。
ベッドに入って、ノーサは眠る。父親はベッドに腰掛け、優しい目つきでノーサを眺めた。
「ねぇ、パパ。一緒に寝よう?」
「そう、だな」
父親がベッドに入って、ベッドの中で父親と向かい合う。二人の間には母親もいる。ふかふか柔らかい。ノーサは目をつむる。しかしまだ、眠れそうにない。眠いのに、眠れない。
「パパ、抱きしめて」
「ああ、もちろんさ」
ぎゅっと抱きしめられる。これでようやく眠れると思った。が、ノーサは奇妙な感覚にとらわれる。母親の柔らかい感触はあるが、父親を感じることができなかった。薄目を開けると、微笑む父親の姿はある。手を伸ばし、頬を撫でる。××だった。××って何だろう? ノーサは自分の感情に疑問を抱いた。しかしその感情に答えを求めず、ノーサは目をつむった。
これでいいと思った。
ふと、自分を包む力が弱くなる。目を開けると、母親の隣に、父親の人形が並んでいた。そっと、その頬を撫でる。柔らかくて温かい。ああ、そうだ。これが父親の温もりだ。ノーサは寂し気に手を放し、そして、父親と母親を抱きしめた。二人とも温かい。でも、どうしてだろう。満たされない。
ノーサの目じりから、涙がこぼれる。頬を伝った涙は、母親に染みた。それだけだった。
ノーサは眠ろうと思い、目をつむった。眠ればまた、明日になる。そしたらきっと、父親も。
そのときノーサは、自分を包む温もりに気づいた。人形とは異なる柔らかさがある。その温もりに身を任せていると、気持ちが楽になった。自分を包む温もりは何なのか。ノーサはそれを確かめるべく、ゆっくりと目を開けた。そこには――。
顔に当たる柔らかな日差しで、ノーサは目が覚めた。目を開けると、見慣れた天井があった。いつものように、ベッドで寝ている。しかしノーサは違和感があった。何か、大事なことを忘れている。
「サスケ!」
ノーサは跳ね起きた。そうだ。昨日、サスケに血を飲ませてもらった。そこからの記憶はあいまいだが、サスケを、殺そうとしていたことだけは覚えている。
「私、サスケを……」
そのとき、部屋の扉が開いた。そこにサスケが立っていた。
「おはよう」
「あ」
「俺の名前を呼んでいたようだけど、悪い夢でも見た?」
「いや、そうじゃなくて。昨日、私、サスケのことを」
「ヴァンパイアの力が制御できていないんだとさ。勝手に書斎に入らせてもらったけど、そこにあった本に、そう書いてあった。だから、べつに、そのことでノーサに何か言うつもりはないよ」
「サスケ……」
そこでノーサは、鼻腔をくすぐるおいしそうな匂いに気づいた。サスケはお盆を持っていて、湯気のあがる白い陶器とパンが見えた。
「台所にあった食材を勝手に使わせてもらった」
「それは別に、構わないけど」
「ご飯、食べられそう?」
ノーサはお腹に手を当てる。少し、お腹が減ったような気がしたから、ノーサは頷く。
「そうか。それは良かった。口に合うかわからんけど……」
サスケが置き場所を探しているように見えた。だからノーサは、自分の掛け布団の上を指さした。
「大丈夫?」
「うん」
ノーサの布団の上に、サスケはお盆をおいた。ミルクを温めたような白いスープだった。野菜も入っている。
「おいしそう。食べてもいい?」
「どうぞ」
ノーサはスプーンでスープをすくい、口に運ぶ。しかし熱そうなので、少し冷ましてから、食べた。魚介のダシをベースにしたスープで、ノーサは、思わず、笑顔になる。
「どう?」
「おいしい」
「そうか。それは良かった」
「久しぶりに料理を食べた気がする。メイドがいなくなってから、ずっとパンだけだったから」
「自分で料理とかしないの?」
ノーサは頷く。今までずっと、メイドに全部任せていた。試しに、野菜とか買ってみたけど、結局使わないまま、腐らせていた。
「そっか。なら、今度は自分で作れるようにならなきゃな」
「うん」
ノーサは夢中でサスケが作ったご飯を食べた。そして、あっという間に、ご飯は無くなった。ノーサがご飯を食べている間、サスケはベッドの脇に椅子を持ってきて、座っていた。
「ありがとう、サスケ」
「どういたしまして」
サスケはお盆を持ち、机の上に置くと、再び椅子に座って、ノーサと向き合った。
「あのさ、ノーサ」
「何?」
サスケは何か言いたそうにしていたが、中々口に出すことができず、目が泳ぐ。
しかし覚悟を決めたような顔つきになると、ノーサを真っ直ぐ見すえた。その真剣な表情に、今度はノーサが、少し戸惑う。
そして、サスケは口を開いた。
「ノーサ。俺と家族にならないか?」
「……えっ?」
ノーサは、頭の中でサスケの言葉を繰り返す。サスケと家族になる? 私が? 状況が理解できず、混乱する。
「ああ、えっと、何て言えばいいんだろう。家族のような、関係にならないかってこと。ほら、昨日、ノーサを襲ってきた二人組がいただろう? 奴らの仲間が、また、ノーサを襲うかもしれないから、ノーサのそばにいて、ノーサを守りたい。だから、ほら、そのためには常に一緒にいることになるじゃん? それって、つまり、家族ってことじゃん?」
「それって、家族なの?」
「……まぁ、うん」
サスケは曖昧に答え、思案顔になる。伝え方を間違ったと悩んでいるように見える。そんな姿がおかしくて、ノーサはふふっと微笑んだ。
「昨日も聞いたような気がするけど、サスケはどうして、そこまで私に優しくしてくれるの?」
「……放っておけないからかな。ノーサのこれまでの話を聞いたら、一人になんかできないよ」
「……優しいのね」
そんなんじゃないと言いたそうに、サスケは目をそらした。
「いいよ、サスケ。家族になろう」
「えっ、いいの?」
「何でサスケが驚くの?」
「いや、だって、ほら、いきなりそんなこと言われても、困るじゃん?」
「それがわかっているくせに、そんなことを言うなんて、サスケも変わっているね」
「……まぁな」
「……パパもママもメイドも、私と関わった人は、皆、人形になった。だから、私と関わった人は、皆不幸になると思った。でも、サスケはそんな風にならない気がした。だからかな」
「そっか。ありがとう」
「それに、サスケがいれば、毎日、おいしいご飯が食べられるじゃん」
「いや、ノーサも作れるようになれよ」
ノーサがいたずらっぽく微笑むと、サスケも、呆れたように微笑んだ。
ここで打ち切りとさせていただきます。




