3.魔法と忍法
ここまでのストーリー:転生に成功した。
サスケが生まれてから5年が経った。
父親であるシュヒリは、書斎で作業しながら、あることを憂いていた。
サスケが全く喋らないのである。サスケは誰よりも早く立ち上がれるようになったが、話すようになることに関しては誰よりも遅かった。四人の子供たちは、3歳ごろになると、簡単な単語を喋れるようになっていたが、サスケは単語すら話さなかった。いつも部屋の隅にいて、ぼぅとしている。
医者に見せた方がいいのだろうか。最近、プラトリーとはそんな話しばかりしている。
「どうしたもんかねぇ」
そのとき、書斎の扉が開くのが聞こえた。足音がしない。不審に思って振り返ると、サスケが立っていた。
「おぉ、サスケ。ビックリした……」
サスケのことを考えていただけに、驚きは大きい。
「どうした?」
「あのさ、親父。魔法に関する本を貸してよ。できれば、子供向けの」
「ああ。それならいいのがある」
シュヒリは本棚から薄い本を抜き出し、サスケに渡した。
「こいつは初心者向けの優しい本だ」
「ふぅん。どうも」
サスケは部屋を出て、扉を閉めた。
魔法の勉強を始めるなんて、サスケも勉強熱心な奴だな。とシュヒリは嬉しくなる。が、そこで大事なことに気づく。
さっき、サスケは普通に喋っていなかったか?
シュヒリは慌てて、部屋を飛び出し、パラパラと本をめくりながら、部屋に戻ろうとするサスケの背中に声を掛けた。
「おい、サスケェ!」
「何?」
サスケは不思議そうに振り返る。
「お、お前、喋れるのか?」
サスケは怪訝な表情で答える。
「喋れるけど」
「シャベッタアアアアアアア!」
シュヒリの驚く声が、家中に響いた。
「どうしたの!? あなた!?」
母親のプラトリーが従者を引き連れ、駆け付けた。尻餅をついて驚いているシュヒリと困り顔のサスケを見比べ、困惑する。
「どうしたの?」
「サ、サスケが喋った」
「本当?」
プラトリーに目を向けられ、サスケは頷く。
「ああ。別に、普通に喋っただけだけど」
「シャベッタアアアアアアア! しかも、めっちゃ流暢!」
プラトリーも腰を抜かす。
「何でそんなに驚いてんの? 俺、もう5歳だぜ」
「だって、今まで私たちが話しかけても、喋らなかったじゃない」
「そうだっけ?」
「そうよ! ああ、でも、良かった! あなた、ちゃんと喋れたのね! なら、こうしちゃいられないわ。サスケが喋れたパーティーをするわ! ほら! あなたも立ち上がって!」
「あ、ああ」
プラトリーに肩を叩かれ、シュヒリは立ち上がる。
「サスケも来て!」
「えっ、でも俺、本を読みたいんだけど」
「そんなの後!」
プラトリーに手を引かれ、サスケは渋い顔になる。
魔法の勉強をしたかったのに……。
サスケの瞳が少し濁った。
✝✝✝
サスケが喋らなかったように見えたのにもわけがある。
普段、二人がサスケだと思っていた人物は、サスケが忍法で生み出した分身だったからである。分身であるサスケは、サスケがそばにいないとき、意思と言葉を持たぬ存在となるため、会話ができなかった。
では、分身に二人の対応を任せている間、サスケは何をしていたのか?
忍者の修行である。
優秀な忍者になれるかどうかは、幼少期から成長期にかけて、どれだけ自分をいじめ抜いたかによって決まる。そのためサスケは、まだハイハイもできない頃から、『法力』、つまり、忍法を使うために必要なパワー生産に努め、自由に移動できるようになってからは、身体能力強化に努めていた。そして、身体能力強化の修行は、外で行うことが多かったから、家を不在にする際、分身を使ったのだった。
サスケは正直、この世界でも忍者になるつもりは無かった。というのも、この世界は、俗にいう異世界で、忍法とは異なる『魔法』が存在する世界だったからである。ゆえにサスケは『魔法使い』になることに憧れた。
しかし、『法力』が生産できることから、この世界でも忍法は使えると考え、前述のように、忍者は早いうちからの特訓がものを言うため、備えあれば患いなしとも言うし、取りあえず、忍者としての能力を鍛えていたのだ。
(はぁ……。魔法の勉強がしたい)
嬉しそうな両親に挟まれながら、サスケは瞳を濁らせるのだった。
普通は法力を『ほうりき』と読みますが、法力の『ほうりょく』読みは、意味の差別化のため、わざとです。