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27.家族になって欲しい

ここまでのストーリー:ノーサの過去について知る

「お主に、ノーサの家族になって欲しい理由は二つある」


 アルガは困惑するサスケに向かって言った。


「一つ目は、バイザードの襲撃からノーサを守ってほしいからじゃ。今日、ノーサを襲った二人組がいたじゃろ?」

「はい」

「やつらはおそらく、バイザードの残党じゃ。王女様を狙うように見せかけることで、注意を王女様に向け、その隙に、ノーサを襲うつもりじゃったのだろう。だから奴らは、これからもノーサを襲う可能性がある」

「どうしてそいつらは、ノーサを狙うんですか? 復讐?」

「それもあるじゃろう。しかし、一番の理由は、ノーサの体に、アンサリスの魂が封印されているからじゃ」

「アンサリス?」サスケはその名に聞き覚えがあった。「魂をもつホムンクルスですか?」

「そうじゃ。やつらは人間の肉体だけではなく、魂の生成まで成功させた。そして、その魂を持ったホムンクルス、つまり、アンサリスは、凶悪な意思を持ったホムンクルスとして人間に敵対し、ホムンクルスによる帝国を築き上げようとしたのじゃ」


 サスケは頷く。今、アルガが語った内容は、本で読んだことがある。


「ゆえに我々は、アンサリスを倒そうとしたのだが、一つ問題があった。アンサリスの魂は不滅だったのじゃ。つまり、いくら、奴の肉体を滅ぼそうとも、魂がある限り、奴は何度も復活し、わしらの前に立ちはだかった。やつとの戦いで、どれほど多くの同胞が散ったことか……」


 アルガは悲痛な面持ちで眉根をよせた。本によれば、アンサリス率いるバイザードとの戦いで、10万人以上の人間が死んだと言われている。


「そして、アンサリスを倒す方法として、奴の魂を分割し、器に封印する方法が開発され、実行されたのじゃ」

「……その器がノーサってことですか?」

「……わかって欲しいのは、ノーサの父親にとっても、それは、苦渋の決断であったということじゃ。実際彼は、死の淵で、ノーサを器にしてしまったことを大きく後悔していた」


 べつに、ノーサの父親を責めるつもりはない。サスケには推し量ることができないほどの葛藤が、そこにはあったのだろう。


「そのことを、ノーサは知っているんですか?」

「いや、知らないと思う」

「……そうですか」


 サスケは自分の腕の中で眠るノーサを眺めた。一番の被害者は、何も知らないノーサに違いない。


「そういうわけで、バイザードは、アンサリスの魂を解放するため、ノーサの命を狙っている。だから奴らは、再びノーサを襲うだろう。しかしお主なら、バイザードの脅威から、ノーサを救うことができるとわしは考える」


 今日戦った相手と同じ実力者ばかりなら、確かに対処は可能だが……。


「それで、もう一つの理由とは?」

「ノーサをヴァンパイアとして鍛えて欲しい。彼女自身がバイザードに対抗できるように。しかし、ノーサの能力はまだまだ未熟で、先ほどのように、暴走してしまう。だから、彼女を抑えることができたお主に、頼みたいのじゃ」

「でも、ヴァンパイアの鍛え方とか知りませんよ?」

「大丈夫。その辺は、彼が残した手紙に書いてある」

「……だいたいの話はわかりました。校長先生が、俺にノーサを任せた理由もわかりました。ただ、どうして、家族なんですか?」

「ノーサのそばにいて、彼女を守る。それは、つまり、家族じゃろ?」

「そうなんですかね……」

「まぁ、とにかくわしが言いたいのは、家族のようにノーサを守って欲しいということじゃ」


 最初からそう言えばいいのに、と思ったが、サスケは余計なことを言わず、ノーサに目を向けた。彼女の今の境遇は、前世の自分の境遇と似ている、とサスケは思った。サスケも小さい頃は、力だけの田舎者と周りに蔑まれ、孤立していた。その日々は辛かった。しかし、そんなサスケにも、手を差し伸べてくれた人がいた。だから、そんな昔の自分とノーサを重ね、彼女を助けたいと思う。あのとき、自分を助けてくれた人のように。


「……でも、ノーサは、俺を受け入れてくれるんでしょうか?」

「それはわからない。しかし、何となくじゃが、ノーサはお主を受け入れてくれるような気がする」

「どうしてですか?」

「そんな気がするからじゃ」


 アルガは目を細めて言った。彼は、メイドを通し、ノーサを見守ってきた。だからこそ、わかることがあるのかもしれない。


「それじゃあ、取りあえず、ノーサに話をしてみます」

「うむ。表だって、支援するのは難しいが、陰ながら、お主らを支えよう」

「ありがとうございます」

「さて、サスケ。お主に聞きたいことがもう一つある」

「何ですか?」

「お主、もしかして、転生していないか?」


 サスケは心臓が跳ね上がるほど驚いた。しかしその驚きをおくびにも出さず、初めて聞いたかのように、眉根をよせた。


「転生?」

「うむ。お主は、天族を知っているか?」

「天族って、あの神の使いですか?」

「そうじゃ。この世界を治める七大種族の一つにして、伝説と言われているような存在で、その存在は未だに謎じゃ。そんな彼らに関し、こんな言い伝えがある。『世界に混沌がもたらされるとき、天族が現れ、世界に秩序をもたらす』と。ゆえに15年前、ホムンクルスが暴れていたとき、誰もが天族の出現を望み、そして我々の前に、一人の天族の男が現れたのじゃ。しかし彼は、『自分は天族ではない。転生者だ』と語った。そして、彼のおかげで、わしらは助かった。魂を分割する方法を開発したのも、その男じゃった。だから、我々が天族だと思っていた存在は、『転族』つまり、『転生種族』が正しかったのではないかと考えらえるようになったのじゃ」

「その話は、初耳なんですけど」

「その転族の男について知る者は少ないからの。この考えを知る者も少ない」


 自分の他にも転生している人物がいる。その事実に、サスケは軽い衝撃を受けると同時に、会ってみたいという思いが湧いた。


「その男の人は、今、どこに?」

「それが、アンサリスの魂を封印すると言って、旅立ってから、消息が掴めなくなったのじゃ」

「へぇ」

「そして、その男は、お主がさっき使っていたような、()()()()()()()()()を使って、魔法めいたことをしていた」

「……わかるもんなんですか? 魔法とは異なるって」

「うむ。熟練の魔法使いなら、魔力の流れで、魔法かどうか判別できる」

「そうなんですか」


 だから、バイザードと思しき女も、魔法ではないことを見抜いたというわけか。


「その様子だと、やはりお主は、魔法ではない何かを使っているのか」

「まぁ、そうですね。でも、エルフのような亜人も、魔力とは異なる方法で、奇跡を起こせるとか」

「その通りじゃ。魔力はあくまでも、人間の体内で生産されているもの。他の亜人の体内では、異なる機序によって、類似したものが生産されていると考えられている」

「……なるほど」

「となると、やはりお主は、転族なのか?」


 サスケは答えなかった。ここまできたら、隠す必要もないとは思うが、何となく、躊躇ってしまう。すると、アルガは言った。


「まぁ、いずれ話してくれればよい。あの男も多くを語らぬ男だったからの」

「……はい」

「となると、もしかしたら、お主なら、あの男、ハンゾウを見つけられるかもしれないな」

「ハンゾウ」


 懐かしい名前の響きに、サスケの心臓が跳ねた。


「うむ。もしもわかるなら、見つけてくれないか? あの男には、色々聞きたいことがあるからの」


 サスケは頷く。サスケもまた、その男に会いたくなった。


「さて」とアルガは立ち上がる。「わしの話は以上じゃ。今日は色々あって、疲れたじゃろ。明日は学校を休みにしたから、ゆっくり休むと良い」

「ありがとうございます」

「サスケ、ノーサを良き方向へと導いてくれ」

「はい」


 サスケが答えると、アルガは満足した様子で杖を振り、その姿が消えた。


 サスケは自分の胸の中で眠るノーサを見て、彼女に何と伝えればいいか、悩む。


「……取りあえず、彼女をベッドに寝かせようか」


 秋の夜風は、身に染みる。

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