26.Birth of Vampire ②
ここまでのストーリー:ノーサがおかしくなった。
ノーサの目が赤く光る。その瞬間。サスケは水の鏡を展開する。ノーサは鏡に映った自分と目が合う。しかし、ノーサ自身には、瞳の効果はないらしく、突進して、大鎌で水の鏡を切り裂き、追撃の大鎌を振る。
サスケはしゃがみ、頭上を大鎌が過る。そして、右足でノーサの腹部を蹴り飛ばす。吹っ飛んだノーサであるが、宙がえりで着地する。そして、ノーサの後ろに伸びていた影が、前方に伸びて、ノーサは影に、大鎌の柄を突き刺した。大鎌は影に沈んだ。さらに影は、洋館の影に混じって、一体となる。
(来る!)
サスケの足元から、棘が突き出す。サスケはその攻撃を後方に下がることで、避ける。さらに棘は、次々と突き出して、サスケの心臓を狙う。サスケは舞うような足さばきでそれらの攻撃をかわす。
(こいつは面倒だっ!)
サスケは洋館の壁に向かって走った。行く手を阻むように、棘が突き出るが、サスケは難なくかわし、壁を駆けあがった。なおもサスケを狙う棘の群れ。サスケの進行方向からも、伸びてきて、ついに、棘の一つが、サスケの体を貫いた。が、その体はポンっと軽い音を鳴らして、煙となった。
と同時に、サスケは屋根に降り立つ。棘は屋根の縁まで生えたが、諦めたように、影の中に沈む。そして、サスケの背後に迫ったノーサが大鎌でサスケの首を狙う。
サスケは前方に跳んだ。ハンドスプリングを繰り返し、宙で体をひねって、ノーサと向き合うように着地する。
ノーサは左膝を曲げ、腰を落とし、大鎌を腰の位置で構えていた。サスケは、その構えに覚えがある。
(居合い!)
ノーサが大鎌を振った瞬間、サスケは跳躍する。黒い斬撃が過る。サスケの後方にあった煙突が切断され、屋根を滑り落ち、落下して、壊れた。
サスケは、着地して、大声を上げる。
「ノーサ! どうして、俺を狙う!」
ノーサは答えなかった。再び、大鎌を腰で構える。
(問答無用というわけか)
ならば、仕方ない。サスケも覚悟を決め、右袖に隠していたナイフを滑らせ、その柄を握る。刃の長さは、中指程度のナイフだ。しかし、ナイフの刃が水で覆われ、長くなる。赤い月光を浴びて、光る刀身。ナイフは刀となった。
二人は睨み合ったまま動かない。互いの隙を伺う、達人の間。
一陣の風が吹いた。
その瞬間、サスケは一瞬で距離を詰め、ノーサは大鎌を振る。
――二人の影が交錯し、サスケは、ノーサの隣を駆けた。
ノーサに背を向けて、着地するサスケ。右腕が少し切れ、血が垂れる。
一方ノーサは動かなかった。が、大鎌が闇にとけ、膝から崩れ落ちた。
「峰打ちだ」
サスケは振り帰り、倒れたノーサを抱きかかえた。ノーサは気を失い、先ほどまでの禍々しい雰囲気は感じなかった。満月も金色に輝いている。
「良かった……」
とりあえず、安心するサスケ。そして手近においたナイフを拾うと、何もない空間に向かって投げた。
ナイフは、火花を散らして、弾かれた。そして、何もないはずの空間に乱れが生じ、男が現れた。オーシャン魔法学校の校長であるアルガだ。
「気づいておったか」
「そりゃあね。できれば、助けて欲しかったんですが」
「なぁに、お前さんが殺されるようなら、助けるつもりじゃったよ」
「そうなんですか? なら、わざと負ければ良かったかもしれません。それで、校長先生はどうしてここに?」
「ノーサのことが心配での」
「先生はノーサとどういう関係にあるんですか?」
「ノーサは、恩人の娘じゃ」
「恩人の娘?」
アルガは頷き、サスケの隣に座る。三人の影が、月を背景に長く伸びる。
「恩人の話をすると、長くなる。だから、簡潔に話すが、ノーサの父親は、バイザードのスパイじゃった」
「バイザードって、あの15年前の?」
「そうじゃ。ノーサの父親は、ヴァンパイアであったから、はぐれ者の集まりであるバイザードに潜入するのが容易じゃった。そして彼は、バイザードに関し、有益な情報を我々に伝えてくれた。しかし、危険な任務であったがゆえに、彼は、スパイであることがばれ、殺されてしまった」
「15年前に殺されたんですか?」
「うむ」
「でも、ノーサの話によると、8年前まで生きていたんじゃ」
「それはまやかし、つまり、彼の魔法だったのじゃ。そして8年前に消えてしまったのは、彼の魔法がそこで完全に終わってしまったからじゃ」
「なるほど。メイドもですか?」
アルガは首を横に振って答える。
「いや、メイドを操っていたのは、わしじゃ。彼に頼まれたのじゃ。ノーサのそばにいて、ノーサを守って欲しい、と」
「どうして、直接助けなかったんですか?」
「ノーサの存在を隠す必要があったから、わしが直接関わるわけにはいかなかった。わしが関われば、否が応でも、その存在が知られてしまうからの」
「メイドを消した理由はなんですか?」
「予言じゃ」
「予言?」
「ノーサの母親は占星術の天才じゃった。そして彼女は、ノーサを産んで、すぐに死んでしまったのだが、その際、予言したんじゃ。『娘が15歳になったとき、彼女を良き方向へと導く、運命の出会いをするであろう』と。だからわしは、ノーサが15歳になったとき、メイドを操るのを止め、さらに、彼女をオーシャン魔法学校へ入学させるため、色々取り計らったのじゃ。彼女の場合、外に出ないと、決して運命と出会うことはないと思ったからの。そして、この選択は、結果的に正しかったとわしは思っている」
「どうしてですか?」
「お主に出会えたからじゃ」
「俺に?」
「そうじゃ。母親が予言した運命の出会いとは、まさにお主との出会いなのではないかと、わしは思う。お主は今日、何度も、ノーサを危機的状況から救った」
サスケは、渋い顔でその言葉を受け止めた。ただの偶然……とは言い難いが、少し大げさな気もする。
「ゆえにサスケ。早速じゃが、特待生であるお主に頼みたいことがある」
「何ですか?」
「――ノーサの家族になってくれんか?」




