25.Birth of Vampire ①
ここまでのストーリー:ノーサは悲しい。
「――血?」
ノーサは弱々しく頷く。
「幻滅、するかもしれないけど、私、実は、ヴァンパイアなんだ」
「ヴァンパイア……」
サスケは頭の中の情報を引っ張り出す。ヴァンパイア。それは、この世界に存在する人間と亜人を含めた七大種族の一種にして、最も罪深き種族と呼ばれている存在だ。基本的に、人間と亜人は対立しているが、亜人同士は友好的であることが多い。しかしヴァンパイアは、他種族の血を吸って生を成すことや、好戦的な性質が原因で、他の亜人からも嫌われている。さらに、200年前、人間に対し大規模な戦争を仕掛けたことも、孤独を増す原因となっている。そして、200年前の戦争で敗れ、その数を大きく減らし、現在はかなり珍しい存在となっている。
そのヴァンパイアが目の前にいる。サスケは驚きと興奮を持って、ノーサを見た。しかしそれは失礼な事のように感じ、慌てて、表情を切り替えた。
「駄目、だよね?」
ノーサは悲しそうに目を伏せる。
「いや、駄目じゃないよ」
「本当?」
「ああ。で、俺はどうすればいい?」
「首筋を、見せて」
サスケは襟元を広げ、首筋をさらけ出し、ノーサへと近づける。
「あの、私、初めてだから、痛くしたら、ごめんね」
「気にするな」
ノーサの湿った吐息が首に当たり、そして、歯が当たる。ゆっくりと犬歯が皮膚を貫く感覚があって、歯が刺さり、血が吸われていく。
サスケは、頭がぼうっとしてきた。酒を飲んだような感覚に危機感を覚えるも、抗うことができない。視線を下げると、ノーサの顔が見える。頬が上気しており、サスケは誘われるように、ノーサを抱きしめた。ノーサの体はビクッと震えたが、静かにサスケを受け入れた。
夢見心地のような時間は、ノーサが頭を離した瞬間に消える。しかし、まだ、高揚感が残っていて、サスケは唇をわざと噛んだ。痛みで、頭が冴える。
「ありがとう、サスケ」
「……どういたしまして」
サスケはノーサの表情を観察した。青白かった顔色は、新雪のような白い肌に変わり、彼女の瞳に活力が見えた。元気になったようだから、取りあえず、良かったと思う。
「でも、驚いたな。ノーサが、ヴァンパイアだったなんて」
「うん。隠してて、ごめ、んんッ!」
ノーサは苦しそうな顔で、胸を押さえた。
「どうした」
ノーサは表情を歪ませながら、膝をつく。「……ぁっ。くっ……」と声にならない声を上げ、口の端から涎が垂れた。
「ちょっ、大丈夫!?」
「サ……スケ。逃げ……てっ」
「逃げる? 何で?」
ノーサは頭を押さえる。心配になって、サスケはノーサの肩を抑え、ノーサの状態を確かめようとする。そのとき、ノーサが顔を上げ、その顔を見て、サスケは思わず、後退した。
眼球は黒く、瞳が深紅色に染まっていた。目が合った瞬間、サスケは理解した。
(こいつは、やべぇ!)
さらにサスケは、ノーサの影が自分の方に伸びていることに気づいた。不自然な、影の動き。サスケはとっさに横に跳んだ。その判断は正しく、サスケが跳ぶと同時に、影から、槍のような黒い物体が、サスケの胸があった場所に、放たれた。
(危なっ!)
机を転がり、反対側に着地する。
「ノーサ!」
ノーサに呼びかける。するとノーサは、獲物を見つけた狩人のような目でサスケを見た。
「ぅぅぅぅぅぅぅうううううう」
ノーサが唸る。と同時に、黒い風が、ノーサを中心に巻き起こる。唸り声が大きくなるにつれ、風はその威力を増し、風速が増す。
「あぁぁぁぁああああ!」
瞬間、黒い爆発が起きた。サスケは後ろの窓を破って、外に飛び出る。0.1秒後、他の窓を黒い衝撃波が突き破り、ガラスの割れる音が、辺りに響いた。サスケは体を伏せ、衝撃波をやり過ごす。
「一体、どうなっているんだ?」
サスケは立ち上がって、振り返る。先ほどまでいた部屋に、ノーサの姿は無かった。
「どこに行った?」
屋根の方から気配を感じ、サスケは後ろ歩きで、屋根全体が見える位置まで下がった。
金色の満月を背景に、ノーサが屋根の上に立っていた。その手には、昼間見た大鎌があって、闇の瘴気を放っていた。
「ノーサ!」
ノーサが括目する。深紅の瞳が、赤い光を放ち、瞬間、満月が赤く染まった。
「なっ」
変化はそれだけではない。サスケは金縛りにでもあったかのように、体が動かなくなった。
(やべっ)
サスケは忍法を使って、難を逃れようとする。しかしそこで、体の異変に気づく。法力が生産できないのだ。焦るサスケ。そのサスケの前に、ノーサが降り立った。
動けない体で、ノーサと対峙する。ノーサは大鎌を振り回しながら、ゆっくりとサスケに歩み寄る。ノーサに呼びかけようとしたが、声を出すこともできなかった。
そしてノーサは、サスケの目の前に来ると、不敵な笑みを浮かべ、大鎌を振り下ろした。
サスケの体が、肩からわき腹にかけ、大きく裂けた。上半身がズレ、地面に落ちる。
ノーサは満足そうに微笑むが、すぐに眉をひそめた。血が噴き出さなかったのだ。ノーサは大鎌で膝下を切り裂く。が、サスケの体は水となってはじけた。
「――『忍法 鏡花水月』。ノーサに見せるのは、これが二回目か」
サスケは、ノーサの後方に立った。備えあれば患いなし。貯蔵している法力を利用することで、忍法は発動できた。しかし、安心はできない。法力に制限がある状態で、能力が未知数の相手にどこまでやれるか……。
ノーサが振り返る。怒りのような、禍々しいオーラを放つ彼女と、サスケは対峙した。




