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24.秘密

ここまでのストーリー:ノーサの家に来た。

 サスケは改めて、ノーサが抱く人形を見た。


(これが、家族?)


「……変、だよね」


 ノーサの物悲しい声で、サスケは顔を上げる。ノーサは、今にも泣き出しそうな、落ち込んだ表情で言った。


「これは、人形だもんね」


 サスケは人形に視線を戻す。ノーサの人形を抱く腕が震えていた。確かに普通ではない。しかしそれを指摘するのは、酷なことのように感じた。だからサスケは、膝をつき、人形に目線を合わせ、父親と思しき人形の手を握った。


「はじめまして。サスケと言います」


 握手しているみたいに、腕を動かす。しかし、父親からの反応は無い。サスケが顔を上げると、驚いた表情のノーサと目が合った。


「どうして」

「だって、こちらの紳士が、ノーサさんのお父さんなんでしょ? なら、挨拶しなきゃ」

「でも、これは」

「お父さんは、何か言ってる? 悪く思われてないかな?」


 サスケがおどけた調子で言うと、ノーサは、呆れたように、しかしどこか嬉しそうに、微笑んだ。


「あなたって、やっぱり馬鹿ね」

「えっ、そんな風に思われてるの?」


 ノーサは首を横に振った。それから、咳払いし、低い声で言った。


「遠いところ、よくぞ、来てくれた。娘のためにありがとう」

「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。お母さんやメイドにも挨拶していい?」

「うん」


 サスケがノーサの母親やメイドに挨拶すると、ノーサは喜んで反応した。楽しそうに会話する彼女の姿を見るのは、それが初めてだったかもしれない。サスケは孫と遊んでいるような気分になって、心がほっこりした。


 一通り、挨拶を終え、ノーサはサスケと膝をつき合わせて、椅子に座った。彼女の腕の中には、人形がいた。


「それで、その、家族について聞いても良い?」

「うん」


 ノーサは頷き、ゆっくりと家族について話し始めた。




 ――ノーサが物心ついたとき、すでに母親は人形だった。しかし、父親もメイドも、人形を一人の人間として扱った。だからノーサも、その人形を母親だと思って接した。


 そして、ノーサが7歳になった頃、父親も人形になった。『ノーサ、ごめん』という一文とともに、手紙が人形のそばに置いてあった。


 ノーサは、どんな風に、父親と接すればいいか、わからなかった。しかしそんなノーサに対し、メイドは言った。


「いつも通り、接すればいいと思いますよ。今までみたいに」

「今までみたいに……」


 その言葉が何だか、とても重く感じたが、それでもノーサは、メイドの言葉に従い、いつも通り父親と接した。


 この頃から、ノーサはメイドと一緒に外出するようになった。そして、色んな人を見ていくうちに、自分たちの家族の形に疑問を抱くようになった。しかし、ノーサには両親とメイドしかいないため、結局、関係を変えることはできなかった。


 そして、今年の春。メイドも人形になってしまった。メイドが起きてこないので、起こしに行ったら、人形になったメイドが、ベッドの中で眠っていたのだ。


『ずっと、このままで』


 と書かれた紙が、人形のそばに置いてあった。


 だからノーサは、両親と同じように、メイドを抱きしめた。





「――これが、私と私の家族の物語」


 サスケは、ノーサに掛けるべき言葉が見つからなかった。大変、だったのだと思う。しかしサスケは、その大変さをちゃんと理解していないから、中途半端な言葉は、彼女を傷つけるだけだと思った。


「突然こんな話をされても、困っちゃうよね」

「いや、俺から聞いたんだ。だから、困ってはいない。ただ、ノーサさんの境遇を受け止める覚悟が、少し足りなかった。そのことを恥じている」

「優しいんだね」

「これは優しさなのかな」

「さあ? どうだろう?」


 ノーサの表情を見る。ノーサは昔を懐かしむように、人形たちを眺めた。悲しみの色も少しあるが、それだけが全てではないように見える。つまり、彼女が今、どんな気持ちで人形と接しているかについて、サスケはよくわからなかった。


「ごめん、ノーサさん。一つ、教えて欲しいことがある」

「何?」

「ノーサさんは、今、どんな思いで、家族と接しているの?」

「……わかんない」ノーサは俯きながら言った。「自分のやっていることが、もしかしたらおかしいかもしれないと思うことはある。でも、私には、これしかなくて、私にはパパとママ、そしてメイドしかいない」

「なるほどな」

「孤独、なのかな。私」

「……そうかも」

「……否定しないんだ」

「すまん。ただ、今は、ノーサさんとちゃんと向き合うべきかなって思って」

「でも、その反応は嬉しいな。今の私に、そんな風に接してくれる人はいないから」


 そのとき、ふらっとノーサの体が倒れそうになる。サスケはすぐさま、ノーサを抱いた。体はさっきよりも冷たくて、息遣いも弱くなっている。


「病院に行った方がいいんじゃ」


 ノーサは弱々しく首を振った。


「これは、病院に行ったって、治せない。何が原因か、私にはわかってる」

「何なの?」

「……サスケはさ、どうして私に優しくしてくれるの?」


 一人で可哀想だと思ったから。それが、最初に優しく接した理由。今は、もっと色々な理由はあるかもしれないが、どれもしっくりこなかった。だからサスケは、キザっぽく思いながらも、「優しくするのに、理由なんていらないだろ」と言ってみる。


「なら、その優しさに甘えて、一つ頼みごとをしてもいい?」

「何?」

「―――血を飲ませて」

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