23.ノーサ
ここまでのストーリー:二人目も倒した。
サスケは窓の外の景色を眺めていた。西山の向こうに日が沈み、空を紅色に焦がしていた。
ノーサが動く気配があって、サスケがベッドに目を向けると、ノーサが目を開いた。
「おはよう」
サスケが声を掛けると、ノーサはサスケに目を向けた。
「ここは?」
「学校の医務室。先生が、今日は安静にしてなさいって言ってた」
「そう、なんだ」
サスケは数時間前の出来事を思い出す。信号弾で駆けつけた、白魔法使いによって、ノーサの傷はすぐに治癒できた。ノーサの顔は青白いままだったが、安静にしていれば、そのうち治ると言っていた。そして学校に運び、サスケはノーサが起きるのを待っていた。
「気分はどう?」
「普通」
「ふぅん」
しかし顔は青白いままで、元気そうには見えない。もう少し、様子を見た方が良いかもしれないと思った。
ノーサはベッドから下りた。
「どこに行くの?」
「帰るんだけど」ノーサは窓の外に目を向けた。「そろそろ、暗くなるし」
「確かにな。なら、家まで送るよ」
「いらない」
とノーサは言うが、靴を履こうとして、よろけた。サスケはすかさず、支える。
「途中で倒れるかもしれないじゃん」
「でも、私と関わったら」
「不幸にならない。そのことは証明済みだろ?」
サスケが自信に満ちた笑みを向けると、ノーサは「馬鹿ね」と言った。
それから、職員室によって、サイラ先生に報告した。サイラ先生は疲弊しきった顔であったが、微笑んで言った。
「ノーサさん。今日は、無理しないで休んでください」
「はい」
「サスケ君。ノーサさんのこと、頼みました」
「はい。そう言えば、ラトプはどうなりました?」
「彼なら、無事、一命をとりとめましたよ」
「そうですか」
サスケは安堵の息をもらす。ラトプは発見されてすぐ、病院へと搬送され、高度な白魔法による治療を受けたらしい。治療が成功し、良かったと思う。
サイラ先生に挨拶し、二人は学校を後にした。
「家ってここから、遠いの?」
「うん。結構、歩く」
「そうなんだ。じゃあ、毎日大変だね」
「うん」
壁のようなレンガ造りの高い建物に挟まれた通りを二人は歩く。その建物は住宅らしく、仕事帰りの大人や学生とすれ違うことが多かった。
「ねぇ、サスケ。サスケには、家族がいるの?」
「いるよ」
「誰?」
「誰? えっと、父親と母親、あとは兄と姉かな。遠くに住んでいる婆ちゃんとかもいるけど」
「そうなんだ。いいね」
サスケはノーサの表情を盗み見る。ノーサは羨ましそうな顔で、窓に映る家族の影を眺めていた。サスケは少し考えてから、口を開いた。
「ノーサは、どうなの?」
「私? 私には……」と言いかけて、ノーサは口をつぐみ、俯く。しばしの沈黙があってから、「……パパとママ。それに、メイドがいる」と呟くように言った。
「そうなんだ。メイドがいるなんて、金持ちなんだな」
「うん。お金はいっぱいある」
それからノーサが口を閉ざしたので、サスケは静かに、彼女の隣に並んだ。そして周囲の建物が少なくなっていき、森になった。
(こんな所に住んでいるのか?)
不審に思いながらも、ノーサについて行くと、目の前に洋館が現れた。鉄格子に囲まれた、くすんだ白い外壁と所々剥げている赤い屋根の洋館。外壁は蔦で覆われ、廃墟のように見える。実際、洋館の中に、人の気配は無かった。
(どういうことだ?)
ノーサの話では、両親と従者がいるはずだが……。
「ありがとう。ここまでで、大丈夫」
ノーサは鉄格子の門扉を開け、中に入ろうとした。サスケはとっさに、ノーサの手を取った。ひんやりと冷たい左手だった。
「ちょっと、待って」
「何?」
「ノーサさんの父親に挨拶させてよ。ほら、これも、何かの縁だしさ」
サスケは努めて明るい調子で言った。
ノーサの瞳に動揺の色が浮かび、考えるように顔を背けた。サスケにとって、それは賭けだった。うまくいくだろうか。不安で、ノーサの手を握る。
「……いいよ」とノーサは言った。しかし彼女は、目を合わせないようにして言った。「でも、後悔するかもよ」
「そんなに怖いお父さんの?」
サスケは冗談っぽく言ったが、ノーサは笑うことなく、中に進んだ。サスケはその後に続く。
洋館の扉を開け、中に入る。薄闇に支配された空間だった。しかしノーサは、慣れた足どりで、進んだ。
「ここで待ってて」
と案内されたのは、赤いテーブルカバーを掛けた、長机のある部屋だった。ノーサは燭台のロウソクに火を灯し、部屋に明かりをもたらした。
ノーサが部屋を出て行ってから、サスケは適当な椅子に座る。しかし手持ち無沙汰なので、立ち上がって、その部屋を散策する。長机の他には、暖炉があった。その暖炉の上に積もった埃を、サスケは人差し指で拭く。
(最近、掃除はしていないみたいだな)
これだけ広い屋敷を、一人で掃除するとなったら、それも仕方がないことなのだろうと思った。いや、まだ、一人と決めつけるのは、早いか。ノーサがこれから、家族を連れてくるのだから。
ノーサが近づいて来る気配があって、サスケは急いで椅子に座る。
部屋の扉を開けたノーサを見て、サスケは眉をひそめた。
ノーサは三体の人形を抱えていた。何となく、どれが父親で、どれが母親かはわかった。しかし、それが家族なのだろうか?
ノーサは躊躇いながら、サスケの前に立ち、俯きながら言った。
「これが……私の家族」




