18.研修①
ここまでのストーリー:ノーサと同じ班になった。
*グロ注意です。
実地研修を行う『血と涙の森』は、街の北東部にある。
騎士団が訓練をするために使用する森であり、騎士たちの血と涙が地面に染み込んでいることから、
『血と涙の森』と呼ばれている。
実地研修当日。サスケが現地に到着したとき、すでに多くのクラスメイトの姿があった。サスケはノーサを探す。当日来ない、なんてことも考えられたが、彼女は集団から少し離れた場所に立っていた。黒の日傘を差しているから、ちょっと目立つ。
(ちゃんと来てくれたみたいだな)
サスケは、クラスメイトに挨拶しながら、ノーサの下に向かい、ノーサに話しかける。
「おはよう」
「……おはよう」
班に誘ってから、彼女は挨拶を返してくれるようになった。
サイラ先生の号令で、二人は集団の最後尾に合流する。そして、出席の確認を行った後、騎士から指導を受ける。森の中には、様々な仕掛けがあるから油断しないようにとか、そんな感じのこと。あとは、森の中心にある札を持ち帰るという、この研修の目的や、森を進むコツについて話してくれた。
一通り話し終え、騎士は下がった。
「それじゃあ、始めましょうか」
サイラ先生の指示で、クラスメイト達は森の入口まで移動する。
「サスケ君。おはよう」
「おはよう」
コエルがサスケの隣に並ぶ。
「ノーサさんもおはよう」
「……おはよう」
サスケは辺りを確認する。そこには、サスケのクラスの人間しかいなかった。
「他のクラスの人はいないの?」
「うん。クラスによって、入口が違うみたいよ」
「へぇ」
森の入口まで来た。じめじめと陰鬱な印象を受ける森ではなかった。赤く、燃えるように、森全体が色づいていた。
「それじゃあ、最初の班から行きましょうか」
「はい」
サスケたちが進み出る。特待生だからという理由で最初の班に決まった。
「気を付けて、いってらっしゃい」
「いってきます!」とコエルが元気に挨拶し、三人は森の中へと進んだ。
「何か、思っていたよりも、普通の場所だね」
「そうだな。名前で損しているよな」
そんな会話をしながら、少し進んだところで、コエルは足を止める。
「それじゃあ、僕はここで他の班を待っているから、楽しんできてね、お二人さん」
コエルに見送られながら、二人は先へと進む。ノーサは不思議そうに振り返った。
「……彼は、いいの?」
「ああ。他の班に合流するんだとさ」
「どうして?」
ノーサは小首を傾げた。コエルの去る理由について、見当がつかないようだ。
「……何でだろうな?」
理由はわかるが、それをノーサに話すのは、野暮なことのように感じた。
「彼と、友達じゃないの?」
「友達だけど、まぁ、何でもかんでも話すというわけではないさ」
「ふぅん……」
一応は、納得してくれたようだ。
二人の前に分かれ道が現れる。
「どっちに行く?」
「任せる」
「んじゃ、左に行こうか」
「何で?」
「何となく」
サスケが左へ進むと、ノーサは静かについてきた。忍法を使えば、あっという間に、研修は終わる。だから敢えて、使わないことにした。
折角だから、ノーサのことを知ろうと思い、サスケはノーサに話しかけた。
「ノーサさんって、オーシャンの人?」
「うん。あなたは?」
「俺は、クルハって村の出身なんだけど、知ってる?」
「うん」
「へぇ、知ってるんだ。田舎の漁村だから、知らない人も多いんだけど」
「本で読んだ」
「そうなんだ。それじゃあ、来たことは無いんだよね?」
「うん」
「なら、今度、来なよ。意外と家族旅行に良い場所だよ」
「家族旅行……」
ノーサは暗い顔で俯き、くるくると日傘を回す。
ノーサの横顔を一瞥し、サスケは考える。
(何か、複雑な事情でもあるのか?)
家族の話は、彼女にとって好ましい話ではないのかもしれない。サスケは話題を変えるため、空を仰ぎ見た。青空に、薄い雲が広がっていた。
「今日は、良い天気だな。晴れているし、そんなに暑くないし」
「うん。でも私、晴れの日って、苦手なんだよね」
「…………」
サスケは、早く研修を終わらせたが良いかもしれないと思った。
✝✝✝
サスケたちが森の中を進んでいる頃、ラトプもまた、そばかすのある赤毛の少女チャルコと、黒髪の少年アルスと一緒に、森の中を進んでいた。
「ちゃんと、目的地に到着できるかな?」とチャルコ。
「安心して。僕は、何回か、この森を歩いているから」
「そうなの?」
「うん。騎士団の仕事を体験する機会があって、それでね」
「すごーい」
「流石だな、ラトプは」とアルス。
「だから、僕たちが最初に、森の中央に到着して、帰ろう!」
「うん!」
「ラトプがいれば、余裕だろう」
ラトプは自信に満ちた表情で森の中を進んだ。森を知っている自負から、絶対に一番になりたいという思いが強かった。
そのとき、ラトプはゾッとするような寒気を覚え、剣の柄に手を掛けた。
「どうしたの?」
「何か、いる」
「えっ」
そのとき、がさがさと茂みをかき分ける音がした。三人は緊張した面持ちで、音がした方に目を向ける。茂みをかき分け、現れたのは、黒髪をツンツンに立て、黒いドレスを着た女だった。顔は化粧をしているのか、真っ白で、口紅の赤が際立って見えた。女の放つ、異様な雰囲気に、黒髪の少年と赤毛の少女は後退し、ラトプは女を睨んだまま、剣の柄を握った。
「誰だ、お前! ここで何をしている!」
とラトプは威圧する。
「ああ、丁度いいところに、丁度いい連中がいたねぇ」
にやり、と女は不敵に微笑んだ。柄を握るラトプの手が汗ばんだ。
「あたい、人を探しているところでねぇ。あんたらに教えて欲しいことがあるんだけど」
「ここで何をしている! ここは一般人が入っていいような場所じゃないぞ!」
ラトプは吠えた。一方女は、にやにやしながら答える。
「ずいぶんと、勇ましいねぇ。あたい、そういうのは嫌いじゃないよ」
ラトプは剣を抜き、構えた。心臓がバクバク鳴っている。しかし、恐怖を押し殺し、女と対峙する。
「答えろ!」
「あたい、人を探しているところでねぇ。だから、この森に入ったんだよ。それで、あんたらに教えて欲しいことがあるんだけど、第二王女様っていうのは、どこにいるんだい?」
「王女様に一体、何の用だ!?」
「用って言うか……」女はもったいぶるように言った。「――殺しに来たんだよねぇ」
「なっ、そんなことさせないぞ!」
ぷっと女は噴きだす。
「あんたに何ができるって言うんだい?」
ラトプは奥歯を噛んだ。本音を言えば、この女をここで倒したい。しかし、この女には勝てない、と本能が告げている。それほどまでに、圧倒的な不気味さを、目の前の女から感じた。
「チャルコ! アルス! 先生に、報告するんだ! 行け!」
「でも、ラトプ君は!」
「僕は、ここでこいつを足止めする!」
「でも」
「いいから早く!」
「そいつは良い判断だねぇ」と女はにやつく。「なら、手土産を持って行くといい」
ひゅん、と耳元で音がした。ラトプはその瞬間に起きたことを理解できなかった。
そして、「きゃあああああ!」とチャルコの悲鳴が上がった。
ラトプは、自分が今見た光景が信じられなかった。柄を握っていた左手が視界から消えていったのである。
(そんな馬鹿な。左腕が。何で?)
ラトプの頭の中がごちゃごちゃになる。
(見ちゃだめだ)
心の声が強く聞こえる。
(見ちゃだめだ。見ちゃだめだ。見ちゃだめだ)
ラトプは自分に言い聞かせるように、心の中で唱えた。見てはいけないとわかっているはずなのに、視線は自分の左肩へと移る。
左腕が、地面に落ちていた。




