2.転生
ここまでのストーリー:転生忍法を完成させた。
北にある海の見える丘の上に、準男爵の称号を有するスクアルスの豪邸があって、その日、豪邸内がにわかに騒がしくなっていた。
三人目の子供が生まれたのである。
従者たちは慌ただしく、パーティーの準備をしていて、二人の子供たちは、母親の部屋の前で、三人目の兄弟に会うのを、今か今かと楽しみにしていた。父親のシュヒリは、妻であるプラトリーを労いながら、生まれたばかりの子供を抱いた。
「良くやったぞ、プラトリー。とても、可愛らしい赤ちゃんだ」
「これもあなたのおかげよ、シュヒリ。あなたが、私を支えてくれからよ。私にも抱かせてくれないかしら?」
「ああ、もちろんだ」
シュヒリはベッドの端に座り、優しい手つきで、プラトリーに赤ちゃんを渡す。プラトリーは、微笑んで、赤ちゃんの頬を突っついた。
「ずいぶんとふてぶてしい顔をしてますこと。あなたに似たんだわ」
「えぇ、そうかな? そこは似なくていいんだけど」
「ねぇ、あなた。この子の名前はどうする?」
「そうだな……」
そのとき、プラトリーは声が聞こえた。
『サ……ノスケ』
「ん?」
プラトリーは驚いて顔を上げ、辺りを見回す。
「どうしたんだ?」
「今、声がしたの」
「声? 誰も喋っていないような気がするが」
シュヒリが助産師や従者に目を向けると、助産師たちは頷いた。
『サメ…………ケ』
「やっぱり何か聞こえる」
困惑するプラトリーの前に、助産師を務めた老婆が進み出た。
「失礼ですが、奥様。それはもしかしたら、天の声かもしれません。何か名前を告げているのではないでしょうか?」
「確かに、名前のようだわ」
「おそらくですが、神様がその子に名前を与えたのかと」
「神様が!? そんなことってあるの?」
「まれに」
「まぁ、どうしましょう、あなた!」
プラトリーは目を輝かせて、シュヒリを見た。シュヒリは戸惑いながらも、大きく頷いて言う。
「神様に命名してもらえることなんて、こんなにも光栄なことはない。ぜひ、その名前にしよう。それで、神様は何と言っているんだ?」
「待ってね」
プラトリーは頭の中に響く声に耳を傾ける。
『サメ……ケ』
「『サ』と言ってるわ」
「サ?」
『サ……ノス……』
「ノス?」
「ノス?」
『サ……スケ』
「サスケ。そう、サスケよ!」
「サスケ! なんと、珍しい名前だろう! だが、それがいい! この子の名前はサスケだ!」
「良かったわねぇ。あなたの名前は、サスケよ!」
プラトリーは嬉しそうにサスケの鼻を掻く。しかしサスケは煩わしそうに手で払った。
聡明な読者はお気づきだろう。この今生まれたばかりの赤ん坊こそ、転生した鮫之介なのである。
鮫之介改めサスケは、「おぎゃあ」と生まれた瞬間から、この世界を認識していた。そして、意外と気に入っている『サメノスケ』という名前にしてもらおうと思念を送っていたのだが、結果はこの通りである。
この世界も、思い通りにはならなさそうだ。
サスケの瞳がかすかに濁った。