16.入学式当日のこと②
ここまでのストーリー:入学式で気になる少女と出会った。
銀色の髪をツインテールにした、病的なほど肌の白い、愛らしい顔つきの少女だった。
彼女は不安そうな顔で教室を一瞥し、空いている前の席に座った。
サスケは、一目見た瞬間から、彼女のことが気になった。なぜなら彼女から、厄介事の雰囲気がするからである。長年培われてきた危機感が、サスケに告げる。彼女と関わると、大変なことになるぞって。
しかし、だからこそ、気になる。彼女は一体、何者なのだろう?
「……なぁ、コエルって、このクラスの人たちと顔見知りなの?」
「全員ってわけじゃないけど」
「なら、あの子って知ってる?」
サスケは、彼女の背中に目を向けた。
コエルは後姿を眺め、首をひねる。
「いや、知らないな。誰か知ってる?」
周りにいたクラスメイトは全員首をひねった。男子だけではなく、女子も知らないようである。
「おいお前、声を掛けて来いよ」
と、コエルはそばにいた男子生徒に、茶化すように声を掛けた。
「えっ、嫌だよ」
「何だよ、恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいとか、そういうのじゃねぇから」
ふためく男子生徒を見て、周囲の男子生徒はにやつく。
(ガキかよ……。そうか子供だったな)
声を掛けてみようかとも思ったが、取りあえず、様子を見ることにした。
✝✝✝
その日の夜。寮のレストランにて、アロピとプラトリーの三人で夕食を食べた。プラトリーは、サスケの入学式に参加するため、オーシャンに来たのだ。
レストランには、宿泊客の姿もあって、落ち着いた雰囲気が流れている。壇上にピアノがあって、穏やかなメロディが奏でられていた。
「どうだったの? 学校?」
と、アロピはステーキを切り分けながら言った。
「まぁ、楽しかったけど」
「ふぅん。貧乏貴族が来て良い場所じゃないとか言われなかった?」
「言われてないけど。姉貴はそんなこと言われてんの?」
「いや、うちは結構、色んな階級の子がいるから。でも、あんたのところは、上の人ばっかじゃん?」
「まぁね。ただ、俺、特待生だから」
「ふぅん。すごいんだ」
「ああ。皆、媚び売りまくり」
「マジ? あんたに媚び売るとか、見る目ないわぁ」
「むしろ、あるから媚びるんだが?」
アロピは肩をすくめ、切り分けたステーキを口に運んだ。
「うまっ。いいな。こんなのが毎日食えんのか。これから、毎日あんたのところに来るわ」
「なら、俺に媚びを売りなよ」
アロピは鼻で笑った。
(……やれやれ、姉貴らしいな)
サスケはプラトリーを一瞥する。プラトリーは暗い顔で俯き、手が全く進んでいなかった。彼女の悩み事は聞くまでもなく、わかった。兄のディトロのことだ。それは、アロピも一緒のようだ。
「ママさぁ。あいつのこと、心配し過ぎだって」
「うぅ。でも、この前も会えなかったし……」
この前、つまり、サスケが試験を受けているとき、プラトリーはディトロの家に行った。しかし結局会うことはできず、今日も会おうとしたのだが、会うことができなかったらしい。
「大丈夫だって。あいつ馬鹿だから」
「その考えはどうかと思うが、まぁ、でも、大丈夫なんじゃない? 本当にやばかったら、さすがに連絡が来るでしょ」
「そうかなぁ」
「そうだよ。多分、兄貴も、家族と会うのが、恥ずかしいって年頃なんじゃないのかな? 男には、そういう時期があるんだよ」
「うわぁ、男って面倒くさ。ママ、私はそんなことしないから、大事にしてね」
「うわぁ、女ってあざとすぎ」
机の下で、アロピに脛を蹴られた。
✝✝✝
「ああああああああ」
ノーサは枕に顔を押し当て、足をばたつかせた。後悔の多い一日だった。本当は、皆と友達になるつもりだったのに、誰とも仲良くなることができなかった。
「メイドッ!」
ノーサはメイドを呼ぶ。しかし、メイドからの返事はない。
「あっ、そっか……」
ノーサは思い出したように、喉の調子を整え、声を出した。
「メイドッッ!」
「お呼びですか? お嬢様」
「聞いて! 今日、誰ともお喋りできなかった!」
「まぁ、それは可哀想なお嬢様。どうして、誰も、お嬢様に声を掛けないのかしら? お嬢様ほど、可愛らしいお方はいらっしゃらないのに」
「だよね」
ノーサはため息を吐き、仰向けになった。ぼんやりと天井を眺め、今日の教室のことを考える。
ノーサは誰からも相手にされなかった。一方、皆から慕われている男の子がいた。特待生と言われていた気がする。ノーサは面白くなかった。本当は自分がそういう立場になるはずだった、少なくとも、ノーサはそう考えていたからだ。
ノーサは枕の隣にあった人形を手に取り、決意を固めた顔で、人形に言う。
「明日はちゃんと話す!」




