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14.入学前日

ここまでのストーリー:騎士から逃げ切った。

 ノーサは興奮した面持ちで、鏡の前に立った。


 初めて着た制服。ワンピース型の黒を基調とした落ち着きのあるデザインだ。手を伸ばしたり、スカートをひらめかせたりして、制服を着た自分の姿を、色んな角度から眺める。明日から、この制服を着て、魔法学校なる場所に通えることが嬉しかった。


「似合ってるわ、ノーサ」

「ありがとう。ママ」


 ノーサは鏡に向かって、微笑む。


「良かったなぁ、ノーサ」

「大げさだよ、パパ」


 ノーサは苦笑し、背中の後ろで手を組んだ。その顔は少し暗い。


「でも、大丈夫かな?」

「何か、心配なことでもあるの?」

「学校に行くのが、初めてだから、ちゃんと友達できるかなって……」

「大丈夫よ。ノーサは明るいもの」

「そうだぞ。ノーサは賢いから、きっと友達もできるさ」

「……うん」


 ノーサは気を取り直し、鏡と向き合う。


「大丈夫。私ならできる」


 そう言い聞かせて、ノーサは笑みを作った。



✝✝✝



 失敗したなぁ。


 サスケはオーシャン魔法学校の門をくぐりながら思った。試験後、ラトプの話を聞いて、自分の過ちに気づいた。

 仮に、サスケが特待生試験に合格したら、10年ぶりの合格らしい。それくらい、特待生試験は難しく、狭き門のようだ。つまり、合格した場合、目立つことは必至である。


(普通、毎年いるもんじゃないの?)


 姉のアロピも、別の学校ではあるが、特待生で合格している。そしてアロピは、他にも特待生はいると言っていたから、特待生で入学する者は毎年数人いるもんだと思っていた。


(情報収集能力が落ちてるな……)

 田舎に引きこもっていたせいで、適切な情報を収集する能力と労力が鈍っている。これを機会に、これからは面倒くさがらずに調べようと思った。


 それから、合格したくないなぁと思っていたが、合格通知が届き、サスケは特待生としてオーシャン魔法学校に入学することになった。


 そして入学式前日。特待生は、個人的に校長先生に挨拶をしなければいけないとかで、サスケはオーシャン魔法学校を訪れた。レンガ造りの広い廊下を歩き、まずは職員室へ。そこでサスケの担任を務めるサイラ先生に挨拶する。ひょろりと細長い、中年男性だ。


「まずは、合格、おめでとうございます。あなたのような生徒の担任になることができて、光栄ですよ」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」


 それからサイラ先生と少し談笑した。サイラ先生の話によれば、例年、入学式の際に、試験の成績優秀者が新入生を代表して挨拶するらしく、サスケがそれを務める予定だったという。しかし今年は、王女様が入学するということで、王女様が代表を務めることになったらしい。


「残念でしたね。オーシャン魔法学校の新入生代表の挨拶なんて、普通はできるものじゃないのに」

「……そうですね」


 と言うが、実のところ、喜んでいた。特待生というだけで目立つのに、新入生の代表とかいうさらに目立つようなことはしたくない。

 サイラ先生に案内され、校長室の前へ。サイラ先生に促され、ノックする。「どうぞ」の声があり、中に入って、サスケは驚いた。


 図書館で、サスケに問題の解き方を教えてくれたあの老人が座っていたのである。


 むろん、その動揺は顔に出さず、サスケは瞳を濁らせて、前に進み出た。


「サスケ=スクアルスです。この度は、特待生として認可していただき、誠にありがとうございます」

「校長のアルガじゃ。そんなに畏まる必要はない。お主は、その資格に相応しいほどの実力を見せてくれたのだから。むしろ、我が校を選んでくれたことに、深い感謝の意を述べたい」


 アルガはサイラに合図する。サイラは頷き、部屋を後にした。


 その間、サスケは、アルガを観察する。案内に描かれていたアルガは、50代前半のように見えた。しかし、目の前のアルガは、どう見ても、70歳は優に超えている。


「何か気になることでもあるのか?」

「想像より、お年を召していらっしゃるのだな、と思いまして。案内に描かれた先生は、もう少し若かったような気がしましたので」

「ああ。あれは、20年以上も前に描いてもらったものじゃ。わしも、若く見られたいのでな」

「……なるほど」

「気になることといえば、わしにも一つ、気になることがある。実は、この学校の試験があった日、図書館で本を探しておったのだが、そこにな、この学校の試験問題を持った少年がいたんじゃ。だから、彼に、解き方を教えてあげたのじゃが、なんと、その解き方と同じ方法で、問題を解いた生徒が、一人だけおったのじゃ」


 アルガはじっくりとサスケの顔を観察する。サスケは、その質問で、自分に揺さぶりをかけるつもりなのだと思った。しかし揺さぶられるつもりはないから、恍けた表情で、驚きをもらした。


「へぇ。そんな偶然があるんですね」

「……まぁ、お主ではなかったのだがな」


 でしょうね、とサスケは思う。確かにアルガの答えは見た。しかし問題を解くときは、その解答を参考にしつつ、他の受験者の答えも混ぜることで、アルガの答えを薄めたのだった。しかも途中で、わざと間違えている。


「お主の戦いぶりに関しては、水晶を通して、見させてもらったよ。ずいぶんと()()()()()を使うようじゃな。ぜひ、そのやり方をわしに教えてくれないか?」

「いえいえ、六花仙である先生ほどの人物に、教えることなんてありませんよ」


 六花仙とは、王都を代表する魔法使いに与えられる称号で、アルガはその一人だった。

 サスケがアルガを見返すと、アルガは微笑んだ。


(やはり、場数が違うな)


 アルガの考えは、表情を見ただけではわからなかった。


「やれやれ、わしに心を開いてくれるようになるまで、まだまだ時間が必要なようじゃの」


 サスケは笑って誤魔化す。


「さて、お主はこの学校で、何を学び、将来的には、どんな人間になりたい?」

「そうですね……。その質問に対する、明確な答えは、今はまだ、ないのが実情ですけど、ただ、一つだけはっきりしているのは、政治家にだけはならないということです」

「ふっ。賢明な判断じゃ」アルガは時計を一瞥し、言った。「そろそろ時間じゃ。今日はわざわざ、すまなかったな」

「いえ、先生とお話しすることができて、良かったです」

「そうか。なら、困ったことがあったら、いつでも来ると良い。わしも、困ったことがあったら、お主にお願いするからの。お主にはそれだけの実力がある」

「……恐縮です」


 サスケは一礼し、校長室を後にした。


 帰りながら、アルガとのやり取りを思い返す。あのアルガの感じだと、忍法について、気づかれている可能性がある。実際、セラータ戦でも少しだけ使用したし。それが原因で面倒事に巻き込まれなければいいが……と思う。


(でも、まぁ)


 とサスケは、正門の前に立って、明日から通う校舎と向き合った。


 将来は平穏な人生を歩みたいと思っている。しかし、波風の全くない人生はつまらない。だから、多少の刺激は欲しいが、その刺激が過剰にならないことを願った。

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