12.試験②
ここまでのストーリー:筆記試験はちゃんとできた。
ラトプの話によると、彼は剣に自信があるようだ。王都で開かれた15歳以下の少年を対象にした剣技大会で優秀した経験を持ち、騎士団に入団するのが夢らしい。
「王都を守るのが僕の使命だと思ってる」
そう語るラトプの顔には、子供らしい純粋な輝きがあって、サスケは微笑ましく思う。
「サスケは、どうして特待生に?」
「ここに入りたいんだけど、普通に入ったら、家計が苦しくなるみたいなんでね」
「そうか。僕も、その気持ちわかるよ。だから、ここで絶対に合格しなくちゃ。頑張ろうね」
「ああ」
闘技スペースに試験官が現れ、説明を始める。この試験では、闘技スペースに設置された、成人男性と同じくらいの高さがある、大きな砂時計の砂が、上から下へ落ちきるまで、足裏以外の体の一部が、床につかなかったら合格らしい。しかし、例え床についたとしても、戦いぶりによっては、合格とすることもあるらしいので、精一杯頑張って欲しいとのことだった。
「それじゃあ、行ってくる」
「頑張れよ」
ラトプは勇ましい顔つきで立ち上がり、闘技スペースへ降りて行った。ラトプは二人目なので、下で待機する必要があった。
一人目の受験生が闘技スペースの中央に立って、騎士団の団員と対峙した。騎士は厳めしい顔つきの40代前半に見える男だ。二人は一礼し、互いに武器を構える。どちらも、木刀が武器だった。
「はじめぇぇえ!」
審判の野太い声で、砂時計がひっくり返され、試合が始まる。
先に動いたのは、騎士だった。受験生に突っ込み、木刀を振り下ろす。受験生は意外だったのか、反応が遅れ、慌てて剣で受け止める。が、防御するのに必死で、周りが見えていない。騎士が足を払えば、簡単に転んでしまいそうだ。しかし騎士は、実力を見極めたいのか、追撃はせず、後退した。
「遠慮せず、掛かって来い」
指先を上に向け、手招く。
「うりゃあああ!」
受験生は大声を出して、突撃する。
(駄目だよ、そんな立ち回りじゃ)
案の定、軽くあしらわれ、見限られたのか、腹に木刀を打ち込まれ、腹を抑えながら膝をついた。
(やっぱりな)
サスケは砂時計を確認する。砂が落ちる速度と砂の残量から計算するに、砂が落ちきる時間はおよそ5分。そして今の試合は1分で終わった。
(ま、早く終わるなら、それに越したことはないけど)
そしてラトプが、騎士と対峙した。顔には緊張の色がある。話しかけられた縁もあるので、応援することにした。
「はじめぇぇえ!」
騎士は突っ込まなかった。木刀を構え、ラトプの隙を伺う。さすが、剣技大会で優勝しただけあって、ラトプの構えには隙が無かった。しかし結局は、大人と子供。いざ打ち合いが始まると、実力差が如実に表れる。
それでも、ラトプの剣筋には才能の片鱗が感じられた。だから、最後の部分で踏ん張ることができて、「終わりぃぃぃいい!」の合図があるまで、立っていることができた。
会場から、どよめきと拍手が起きる。ラトプは騎士と握手を交わし、闘技スペースを後にした。
(これは合格だろう)
サスケ以外の人間もそんな表情をする。しかしラトプは、納得がいかない表情で戻ってきた。
「すごいな」
「いや、すごくないよ。手加減されていた。もっと、努力しないと」
サスケは感心する。ラトプは、将来、絶対に良い騎士になれると思った。
それから30人ほど、試験を行って、結局騎士団支援制度の支援者で、最後まで立っていられたのは、ラトプと気の強そうな少女の二人だけだった。
気の強そうな少女に関して、「あの子知ってる?」とラトプに聞くと、母親が有名な女騎士だと説明してくれた。それも納得の剣捌きだった。
そして、特待生の番になった。騎士が代わり、セラータが現れた。セラータは観覧席のサスケを認めると、微笑んだ。
(気づかれていたか)
あとで挨拶をしようと思った。
「セラータさんと知り合いなのか?」
「まぁ、色々あってね」
「へぇ、すごいなぁ」
「そう言えば、さっきの人は番号持ち?」
「デハニさんだね。彼は、ナンバー7だ」
「ふぅん。どうして、特待生の方が、強い人が出てくるんだ?」
サスケは観覧席に座る特待生の受験者の顔を眺める。騎士団支援の志望者に比べると、戦闘向きの体格をしていない受験生が多い。
「それは、特待生になると、魔法を使う人が多くなるからだ。そして、セラータさんは魔法使いとの戦いを得意としている。彼は、魔法使いとしても優秀だから、魔法を受け流すのが上手なんだ。だから、『流しの魔法剣士』とも呼ばれていて、彼を使うことで、魔法使いとしての実力を見極めようという意図があるんだと思う」
「なるほどね」
セラータの魔法の実力に関しては、すでに、この目で見ている。だから、ラトプの話も納得できた。
セラータと受験生が向き合う。眼鏡をかけた線の細い少年で、セラータは木刀を持っているが、少年は持っていなかった。
「はじめぇぇえ!」
という合図とともに、少年はセラータに向けて右手を広げた。
「〈火球〉!」
ぼうっと空気が爆ぜ、火球がセラータに迫る。しかしセラータは、優雅に微笑むと、木刀を振った。木刀に火球がぶつかる。すると、火球は木刀を滑り、セラータの後方で、壁にぶつかって爆ぜる。
「おおっ」とラトプは唸り、目を輝かせる。「普通は、当たった瞬間に爆発するんだけど、セラータさんはああやって流すことができるんだ。すごいなぁ」
セラータは受験生に歩み寄る。受験生はじりじりと後退しながら、魔法を放つが、セラータは無慈悲に流す。受験生は壁に追い詰められ、そんな受験生の首元に、セラータは木刀を突き付ける。
「続けますか?」
「……参りました」
(えげつねぇな)
受験生の自信を打ち砕くようなやり方に、サスケは苦々しい表情になる。しかし、これを突破できないようじゃ、合格に値しないのだな、と思った。
それからも、セラータの独壇場は続き、次々と自信を折られながら、受験生が去って行く。中には、剣で戦う者もいたが、剣士としての実力も一流であるセラータに、全く歯が立たなかった。
――そして、最後の受験生の名が呼ばれた。
「サスケ=スクアルス!」
サスケは、強く瞳を濁らせて、セラータの前に立った。




