9.約束
ここまでのストーリー:色々あった。
ラデアーナは半年に一回やってきて、一週間くらい滞在する。
来るたびに、ラデアーナは言う。
「本当は毎日、来たいんだけど」
「ふぅん」
そいつはごめんだね、と内心思う。修行する時間が無くなってしまう。
ラデアーナが来るときは、父親か母親、そして、王都の騎士が護衛のためについて来る。
滞在している間、父親たちは父親たちで楽しんでいるため、ラデアーナの相手はほとんどサスケがする。というか、ラデアーナはサスケから離れたがらないので、必然的に、サスケが相手をすることになるのだ。
ラデアーナが来るとき、サスケは修行を中止する。分身を使ってもばれるからだ。一度、ラデアーナに分身がばれた。なぜ、わかったのか聞くと、「精霊さんが教えてくれた」と言う。どうやらこの世界では、精霊を欺く術を習得する必要があるようだ。
ということで、サスケは、ラデアーナが来ている間は、大人しくしていた。しかし、精霊を欺く術を習得するため、色々なことを試した。その結果、精霊すら欺けるようになったのだが、それはまた、別のお話。
まぁ、そんな感じで、ラデアーナが来るときは、修行できない苛立ちはあるものの、息抜きだと気持ちを切り替え、ラデアーナとの時間を楽しんでいた。
しかし、二人が出会って5年、つまりサスケが12歳になったとき、異変が起きる。
いつもにこにこしているラデアーナの元気が無かったのだ。
話しかけても、いつものような明るい返事が無いので、ラデアーナの父親に話を聞くと、「ラデアが話し始めるのを待って欲しい」と言われた。
だからサスケは、ラデアーナが話し始めるのを待った。
そして滞在三日目。ついに、ラデアーナが口を開いた。
「ねぇ、サスケ。私たちが初めて会った場所に行きたい」
「わかった」
「おんぶして」
「えっ、歩けよ。自分で」
「お願い」
ラデアーナに上目遣いでお願いされる。前世の娘の顔が過り、断れない。
「……仕方ないなぁ」
サスケはラデアーナをおんぶする。ラデアーナはおんぶされるのが気に入っているらしく、毎回来るたびにおんぶしていた。だから、慣れているといえば、慣れている。
廃村への道中で、ラデアーナは言う。
「懐かしいなぁ、この道」
「……そうだな」
違う道なんだけど……とは言えないな。
「あれから、私たち、変わったね」
「ああ」
ぎゅっとラデアーナはサスケに密着する。
「何?」
「私、最近膨らんできたんだ」
「へぇ」
「えぇ、それだけかよ~。もっと、何かないの?」
「ないよ、べつに」
ませてるな、とは思うけど、言わないでおく。
「もぅ。サスケはつまんないなぁ」
「さいですか」
「今でもあそこで修行? してるの」
「……ああ」
お喋りな精霊のせいで、サスケの普段の生活はラデアーナにばれている。だから、忍法を理解しているわけではないが、魔法とは異なる能力を、サスケが使えることも、何となく、理解しているらしい。
そんなやり取りをしつつ、廃村に到着する。ラデアーナはサスケの背中から降り、懐かしむように廃村を見回した。
「ここで、私たち、出会ったんだよね」
「ああ」
「あのときは本当に怖かった。今でも、あの暗い袋の中にいる夢を見る。でも、いつも、サスケが現れて、私を助けてくれる」
「大活躍だな、俺」
ラデアーナはサスケと向き合った。頬を染め、何か言いたそうにしている。だから、サスケは、ラデアーナの言葉を待った。しかし、ラデアーナは気恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「どうしたの?」
「……サスケは、私と一緒にいて楽しい?」
「楽しいけど」
「本当?」
「本当だよ」
「でもたまに、嫌そうな顔をしているじゃん」
「……たまにな。でも、基本的にはラデアと一緒にいて、楽しいよ」
「ふぅん、そっか。なら、言わなきゃだね」ラデアーナは、生真面目な顔で向き直った。「実はね。私、来月から試練の旅に出かけるの。これはエルフの伝統で、拒むことはできない。だから、今みたいにサスケと出会うことはできなくなるし、今度、いつ会えるかわからない」
「……それは、寂しいな。でも、ずっと会えないわけじゃないんだろ?」
「うん。少なくとも、3年くらいは会えないかな」
「そっか。なら、次に会えるのを楽しみにしているよ」
「ちゃんと会ってくれる?」
「もちろん。俺がラデアと会わない理由なんて無いよ」
ラデアーナはほっとしたように胸を撫で下ろす。
「良かった。もう、会ってくれないかと思った」
「そんなわけないじゃん」
「じゃあさ。指切りしてよ。人間は、約束する時、そうするんでしょ?」
「らしいね」
サスケとラデアーナは互いの小指を絡める。そして、また会うことを誓い合った。
小指を放すと、ラデアーナは満足したように言う。
「よし。それじゃあ、帰ろう!」
「もういいの?」
「うん。おんぶして!」
「はいよ」
サスケはラデアーナをおんぶして、家に帰る。今度はちゃんと、二人が最初に通った道だ。
「ねぇ、サスケ」
「何?」
「……何でもない」
首筋にラデアーナの額が当たる。この感覚も懐かしくなる、と思うと、寂しくなった。
――ラデアーナが帰ってから、サスケの机の上に、『音声記録水晶』が置いてあった。小指程度の長さの細い紫色の水晶である。この水晶に魔力を注入することで、音を保存することができる。『怒れる熊』を倒して、上機嫌だったディトロにもらったものだった。
「あれ? でも違うな」
引き出しの中に、ディトロからもらった水晶があった。よくわからないけど、取りあえず、記録を聞いてみようと思い、魔力を流した。
『サスケ! ラデアだよ! へへっ、サスケが、私のことを忘れないように、これを残しておくことにしたんだ。ちょっと恥ずかしいけど、頑張ったんだから、消しちゃ嫌だよ。色々な音声を記録しておくから、説明するね。まずは、サスケが、落ち込んでいるときに聞いて欲しい音声なんだけど――』
思わぬ贈り物に、サスケは微笑む。子供らしい愛を感じる。サスケはベッドに寝て、ラデアーナの声を聞きながら、二人の時間を懐かしんだ。
――そして時は流れ、サスケは15歳となった。




