8-2.ホムンクルス(19/2/9 追加ストーリー)
ここまでのストーリー:腐乱死体と遭遇した。
「ラデア!」
ラデアの父親、オコテニスが、向こう側から走ってくる。
「パパ!」
サスケはオコテニスの下まで走り、ラデアーナを下ろした。
「パパ!」
「ああ、良かった無事で」
オコテニスはラデアーナを抱きしめる。
「どうしてここに?」
「精霊が異変を教えてくれたんだ」
サスケはセラータの方へ目を向けた。セラータは、腐乱死体と対峙したまま動かなかった。正確に言えば、両者とも、互いの隙を探っている。
(あの腐乱死体、ただのモンスターじゃないな……)
「パパ、あれは一体何?」
「やつは、おそらくだが……ホムンクルスだ」
「ホムンクルス?」サスケは眉をひそめ、オコテニスを見た。「ホムンクルスって、9年前の?」
「ああ、そうだ。よく知ってるね」
「本で読んだだけですけど」
「ホムンクルスって何?」とラデア。
「ホムンクルスとは、人造人間のことだ。9年前、正確に言うと、もう少し前の話らしいんだが、王都の錬金術師が、ホムンクルス法によって、ホムンクルスを生み出した。つまり、やつは人工的に作られたモンスターだ」
「人間なのに、モンスターなの?」
「……最初、ホムンクルスは意思を持たぬ肉体だと思われていた」とサスケ。本の情報をラデアに伝える。「でも、そうじゃなかった。奴らには、人間を殺すという本能が備わっていたんだ。だから、人間に敵対する存在、モンスターなのさ」
「そして、人間だけを襲うならまだしも、やつは亜人にも攻撃した。だから、エルフの村にも現れ、そのときの感覚をやつから感じる」
「魂がない」
「そうだ」オコテニスは不安そうな目でセラータを見た。「しかし、セラータさんは一人で大丈夫なのだろうか? 王都の騎士とは言え、ホムンクルスは強いぞ」
「大丈夫じゃないんですかね」とサスケ。
「どうして?」とラデア。
「聞いた話によると、王都の騎士団の中でも、実力の高い上位10人には、称号が与えられ、番号持ちと呼ばれているらしい。そしてセラータさんは、『ナンバー6』の称号、つまり、王都の騎士の中でも6番目に強い男なんだ」
「いや、そうだが、私の知るホムンクルスは、エルフの男達が、20人集まって、ようやく一体倒すことができたほど、強力な存在。そんな奴を一人で……」
(多分、大丈夫だと思うけど……)
とサスケは内心思った。先ほど、簡単に骨を折ることができたから、それほど強いようには感じなかった。それに、もしもセラータが勝てなかったら、自分が戦えばいいしとも思っている。
「私も手伝った方が」
進み出ようとした、オコテニスをサスケは手で制止する。
「おそらく、下手に手助けされる方が、やり辛いと思いますよ。ここは、セラータさんを信じましょう」
そのとき、動きがあった。しびれを切らしたホムンクルスが、右の拳でセラータに殴りかかった。セラータはその拳を避け、剣を切り上げた。血が飛び散り、ホムンクルスのわき腹が大きく裂けた。が、傷口が緑色に発光し、くっついて、再生した。
セラータの顔に、微かな驚きの色が浮かぶ。そしてホムンクルスは、振り向きながら、その拳を振り下ろした。セラータはバックステップでその攻撃を避ける。拳が砂にめり込み、砂が舞い上がった。さらにホムンクルスは、攻撃の手を止めず、ひたすらセラータを殴ろうとした。
「あれがあるんだ」とオコテニス。「やつは、無尽蔵に回復魔法、いや、再生魔法を使える。あれは本当に厄介だよ」
(超再生能力か……。俺なら、どうやって対処する?)
サスケはじっと戦況を見つめた。
セラータは、思案顔でホムンクルスの攻撃をかわす。そして、思いついたように、剣を砂浜に突き刺した。その瞬間、ホムンクルスの下半身が砂浜に飲み込まれた。ホムンクルスはもがいて、出ようとする。そのホムンクルスの首を、セラータは切り落とした。
「それじゃあ、駄目だ」
オコテニスは難しい表情で語る。事実、ホムンクルスは頭部が無くなったが、両手を砂の中に突っ込み、爆発を引き起こした。爆音とともに、砂が舞い上がる。セラータは一瞬で10メートルほど距離を取った。
黒い影が砂塵の中から跳びあがり、着地する。ホムンクルスである。ホムンクルスは鷲づかみにした頭部を、首にくっつけた。緑色の光が、ホムンクルスの首をつなぎ、ホムンクルスは、笑っているかのように口角を上げた。
セラータは左手で剣をなぞった。すると剣は、灼熱の炎に包まれた。セラータは、殴りかかってきたホムンクルスの拳をかわし、横一文字に胴体を斬った。ホムンクルスは胴体が落ちないように傷口を抑える。が、その傷口が炎に包まれる。さらにセラータは縦一文字にホムンクルスを斬る。ホムンクルスの体が、十字の炎に包まれ、やがて炎は、全身を包んだ。
体を包む炎を消そうと、ホムンクルスは暴れ、海に飛び込もうとする。しかしセラータがその前に立ちはだかり、剣先から〈火球〉を放ち、ホムンクルスの体を浜の方に押し返した。吹き飛ばされ、転がるホムンクルス。炎を消そうと砂を掛けるが、やがてその動きは鈍くなり、炎が消えると、炭と化した物体が、そこに横たわっていた。
「やったかっ!?」とディトロ。
しかし、炭の切れ目から、緑色の光が漏れだし、内側から光が弾けた。と同時に、ホムンクルスが立ち上がる。火傷した黒い皮膚は剥がれ落ち、遭遇したときと同じ肉体がそこにあった。
「やべぇ、こいつは勝てねぇ!」
ディトロは頭を抱える。
「どうして、奴は、再生してもあの体なんですか?」
サスケはオコテニスに疑問を投げかける。
「多分だけど、やつは、中途半端な肉体のまま、完成したホムンクルスなのかもしれない」
「なるほど」
「どうしよう、サスケ!」
ラデアーナが泣きそうな顔で袖を握った。何度斬っても蘇る。そんな相手に不安になるのはわかる。しかし、サスケはまだ大丈夫だと思った。セラータに余裕があるからだ。
セラータは悩ましい顔つきで、ホムンクルスを見ていた。しかし、諦めたようにため息を吐くと、ホムンクルスに背を向け、サスケたちがいる方へ歩き出した。ホムンクルスはセラータに突進する。が、セラータが指を鳴らした瞬間、噴火したかの如き、太く、熱のある火柱が、セラータの後方で生じ、ホムンクルスの体は火柱の中に消えた。
――ホムンクルスの断末魔が聞こえたような気がした。
火柱が消えたとき、そこに、ホムンクルスの姿は無かった。欠片も残さず、燃やし尽くしたのだ。
「これが、人間の力か」
オコテニスは驚愕した面持ちで語る。
不服そうな顔で戻ってきたセラータに、ラデアーナは駆け寄った。
「すごいね、セラータ!」
「いえいえ、これくらいどうってことないですよ」
「何か狙っていたんですか?」とサスケ。
「はい。あいつは多分、ホムンクルスですから、生け捕りにしようと思ったんですが、でも、下手にあいつを捕まえたら、奴らの手に渡るかもしれないと思って、殺すか生かすか悩んでいたんです」
「奴ら?」
「『バイザード』。ホムンクルスを生み出した連中です」
「そいつらは壊滅したんじゃ」
「残党はまだ生き残っていますからね」
「へぇ」
「しかし、あのホムンクルスは一体、何だったのでしょう。9年前の生き残りか。はたまた、連中が活動を再開したか……。忙しくなりますねぇ」
その言葉通り、王都から調査団が派遣され、村はにわかに騒がしくなった。
そして、アロピはめちゃくちゃ怒られた。
――その後の調査によって、このとき見つかったホムンクルスは、9年前の生き残りが海蝕洞に漂着したという結論に至った。しかしこのとき騎士団は、バイザードに対する捜査も始めた。




