表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ人間更生黙示録  作者: 大天使 翔
クズ人間の一日
7/9

生まれてきた意味

 俺は仰向けでベッドに寝ころぶと、黒い斑点が無数にある白い天井を見上げた。


 目が痛い。


 瞬きを何度もし、手でこすっみるが、痛みは全くとれない。むしろ痛くなってくる。


 うつ伏せになり、眼を閉じてみると少し目が圧迫されて痛みが和らいだ。どうやら、画面を見過ぎて眼の神経に負担がかかってしまっているようだ。


「う・・・・・・・・」


 俺は寄声を放った。それにしてもかなり痛い。血が巡る度に目を圧迫しているようだ。


 しばらくうつ伏せの状態で治るのを待つが、流石にこの姿勢では飽きてしまう。仰向けに戻り、手を上にかざして目をつぶった。


 三分ほど経って俺は治ったかを確かめるべく、ベッドの上に腰掛てゆっくりと目を開いた。


 そこには、食べ終わった牛丼のガラと汗だくのシャツやパンツ、タオルなどが散らばっていた。俺はあまり片付けが好きではないのだが、一度ゴキブリが出てきてからはきちんと片づけるようにしている。


 部屋のドアを開け、散らばっていたガラや衣類を両腕で抱えこみ、洗面所へ持って行く。風呂場の横に洗濯機とゴミ箱があるため、そこに放り込んだ。


 部屋に戻り、少し力を入れて扉を閉めるとガタンと大きな音が部屋中に響いた。


 その瞬間、扉の振動で何かが落ちた。見るとそれは、棚の上に置かれてある縫いぐるみ類の一つ、「しまじろう」だった。このしまじろうは、腹話術用に作られていて、後ろに手を入れるためのポケットがある。


 俺はそれを拾い上げた。戻そうとしたが、不意に手が止まる。そして、そのまましまじろうの背後にあるポケットに右手を突っ込んだ。


 しばらく、しまじろうの瞳を見つめる。こうやって改めて見ると、黒と白が塗りつぶされる方が逆ということに気づかされる。どうも人間の脳は全体を捉えてそのものを判断しているらしい。


「やあ、裕二君!今日はどうだった?」


 右手を適当に動かし、しまじろうにそれっぽい動きをさせて自分自身に話しかけた。


「うん?うーん・・・とね、大学に糞みたいなババアがいてね、そいつが授業中に俺を当てたんだ・・・。それで、俺、いきなり当てられたもんだから詰まっちゃって・・・・。そしたら、前に座ってるリア充達が、なんだあいつって顔で見てきたんだ。ろくに講義受けてねえ癖に、ああいう時だけ調子に乗りやがって・・・・それで・・・・大変だったんだ」


「本当に!・・・それは大変だったね!よしよし・・・」


 俺はそういうと、しまじろうをはめた手で自分の頭を撫でた。


「・・・」


 カーテンをぼーっと見つめながら、俺は無言で自分の頭を撫で続ける。


 10秒ほど経ってしまじろうを外し、棚に戻した。



 その瞬間


 

 心にぽっかりと穴が開くのを感じた。




 すぐさま衝動に駆られ、俺はしまじろうの隣に置いてある、大きなアンパンマンの縫いぐるみを手に取った。何故だかわからないが電気を消し、アンパンマンを強く抱きしめながらベッドに飛び込んだ。


 アンパンマンの顔が潰れるほど、さらに抱きしめながら体を丸めていく。まるでもっともっと小さな殻に閉じこもっていくように。


 うつ伏せになった。しかし、このぽっかり開いた穴は塞がらない。どんどん心を飲み込んでいく。


 いっそこの縫いぐるみになって、ただそこにいるだけの存在になれたら。


 俺は抱きしめても無駄だと悟ると、うつ伏せの状態からゆっくりと体を起こした。


 ベランダのカーテンの隙間から、夜空が見える。ここは東京なので星は見えないため、外が全て真っ黒になってしまったように見える。時計の針が、過ぎゆく一秒一秒を無機質に奏でていた。



 今日も何もしない一日が終わる。何かをしようと思ったことはあった。だが、今日何もしなかった俺は、明日もそうやって何もしない。



 時計の針が12時を指した。



 そうやって淡々と世界から逃げて生きてきた。世界から逃げれば逃げるほど、自分が消えていく。



 ベッドに倒れ、天井を見上げた。


        





     









     俺、何のために生まれてきたんだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ