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世界を終わらせた男のはなし。

作者: 羽鳥 たつき

東京には人がたくさんいて、歩いていたら人にぶつかる。ぶつかったとしても、ぶつけた方もぶつかった方も何食わぬ顔をして通り過ぎる。それは夜になっても変わらない。夜になっても星は見えないし、月も目立たない。夜なのかもわからない。


そんな東京のスクランブル交差点と言われていた場所でひとりの男が倒れたのは随分前の話。


でも、それがいま終わろうとしている世界の始まりの出来事。


ひとりの男が倒れた。そこからまた人が倒れた。瞬く間にたくさんの人が倒れた。

先ほどまで人がたくさん歩いていたスクランブル交差点と言われていた場所で歩く人がいなくなった。みんな倒れた。そして、二度と起き上がらなかった。


かつて人々に死を与えていた結核や癌といった病は医学の劇的な進歩により簡単に治せる病になっていたこの時代。

かつて人々は宗教の違い、価値観の違い、人種の違い、土地、資源での争いを繰り返し、繰り返し、繰り返した。そして、繰り返し続けた人々は争いの無意味さをようやく悟り、戦うことをやめ、平和に暮らすことの大切さを知ったこの時代。

人は死を遠い自分とは関係のないものとして捉えていたこの時代。


そんな時代に死はやってきた。


その死はウイルス性の感染症であり、潜伏期間は不明。感染経路も不明。症状は何もなく、ウイルスに感染している状態でも人は健康に生活している。正確にはウイルスを撒き散らしながら健康な生活している。

進歩した医学でも、症状がなければ人は病院には行こうとしない。

進歩した医学でも、症状がないものはわからない。

この症状を出さないウイルスはある日、突然進化する。進化したウイルスは血液と反応し、血液を凝固させる。血液の凝固は瞬く間に全身に広がり、人は死に至る。

このウイルスは自然に発生したものではなく人工的に作られた。戦争のための大量殺戮兵器として作られたウイルスと言われていて、実際には使われることはなかったが、そのウイルスの開発者のひとりが感染し、そして、広がったと言われているが、定かではない。


そもそも、この話にはおかしな点がある。


スクランブル交差点と言われた場所での出来事とウイルスの特性が合致しないという点だ。


スクランブル交差点では、男がひとり倒れたその瞬間にたくさんの人が倒れた。しかし、ウイルスは体内に侵入し、健康に生活できる潜伏期間の後に進化し、血液を凝固させ死に至らしめる。


感染から死までの期間に矛盾が生じる。


ただ、この世には突然変異という言葉がある。


ウイルスも生きている。生きるためには人に感染し続けなければならないが、その人が死んでしまったらウイルスは感染し続けることができなくなる。そこでウイルスは人が健康な状態で生活できる潜伏期間という特性を持ったウイルスに進化した。


そう、それがこの世界を終わらせようとしているウイルスの正体だ。


スクランブル交差点と言われていた場所での感染の連鎖は瞬く間に東京都内全域に広がり、その日東京にいた人の殆どが死んだと言われているが、その感染の連鎖は東京都内に止まった。その出来事が全世界に知らされ、知らされ、知らされ尽くし、そして、それから数年が経ったある日、世界の各地で人が再び倒れだした。


1日で世界大戦以上の人が死に、2日で世界の半分の人が死に、3日で人は絶滅危惧種になった。


いまも私のそばで人が死んでいる。


歩いても歩いてる人とはぶつからない。

夜に上を見れば星が見える。月は明るい。


人がいない世界が本来の世界なのかもしれない。


しかし、私はこの世界を望んでいない。


私はこの世界を変える。そのために過去にいくマシンを開発した。未来には戻れないが。


過去に行き、ウイルスの開発をとめる。


それが世界を変える方法。


私が世界を変えてくる。


さよなら、世界の終わり。


人のいない世界に向けて


青野祐介より









と、手紙を書いた。


この世界を変えよう。そう決心して、私が育ったこの世界を後にした。


タイムマシンは時空を超え、未来にも過去にもいける夢のようなマシンだが、決して万能ではない。ワープする際は時間と場所を設定するのだが、必ずその時間のその場所にいけるとは限らない。誤差が生じる。その誤差が大きいことが殆どである。

また、ワープの際に身体に様々な支障をきたす。風邪のような症状になる軽いものから、全身麻痺、呼吸困難など重いもの、また若返ったり、年老いたりなどの症状も発生する。


実際に、私は過去へのワープの結果、10歳若返った。肌のツヤは戻り、身体も動かしやすくなった。良い変化だ。

ワープ場所は悪いようで良い場所だ。臭いトイレの中だがワープした瞬間を誰にも見られていない。ここが何年の何月なのかはわからないが、場所は悪くない。


トイレから外を出ると、人がたくさんいる。10年前もこのような世界が広がっていたのかと思うと、涙が出る。


ちょうどトイレを出た先には交差点があり、そのさらに先には渋谷駅がある。


そうか、ここは、この交差点はスクランブル交差点か。


歩けば人にぶつかる。ぶつかってもどちらも何食わぬ顔で通り過ぎる。


人の多さに感動しながら、スクランブル交差点を渡る。


ちょうどスクランブル交差点の真ん中に差し掛かった時、目眩がしたと思った瞬間、目の前が暗くなり、そこから何も見えなくなった。


目の前が暗くなる前にみた電光掲示板の日付はちょうど世界の終わりが始まるその日だった。


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