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3.恋愛相談なんてめんどくさい

 翌日、今日もいつもと変わらぬ学校生活が始まると思っていた。何もなく平凡でそれでいてかけがえのない毎日が···。


 トゥルルルルン♪トゥルルルルン♪

 

 良くわからない目覚まし音と共に目覚める。

 スマホに内臓されたデフォルトのアラーム音は俺にいつもと変わらない朝を知らせてくれるのだ。

 

 朝起きて常々思うのだが、なぜ人は起きなければならないのかと。

 寝たい時に寝て、起きたい時に起きる。

 それが動物というものであり、人間もまた動物なのだからなんら的外れな事を言っているわけでもないだろう。


 だが親は、世間は、学校は、それを許さない。

 そしてもう一人それを許さない者がこの家にいる。


 「おにーちゃん! 起きて起きて! 朝だよー!」


 「おにーちゃんは夢の中に忘れ物をしたので取りに行くよ、それじゃ」


 二度寝しようと倒れ込むと、それを待っていたかのように俺の腹にジャンピングニーが落ちてきた。

 それはもうブルーザ·ブロディ並の鮮やかなジャンピングニー。


 「ぐはっ···!」


 妹は俺の腹に正座をしながら、満足そうに微笑んでいる。

 

 「今日も朝だよ! おにーちゃん!」


 『今日も朝だよ』ってなんだよ。

 そりゃ生きてる者にとったら太陽がなくならない限り、朝は毎日やってくるだろうよ。

 

 「わかった、わかったよ!」


 妹に腕を引かれながらリビングへと降りていく。

 この朝から騒がしい少女は俺の妹のマリア。

 聖母とは程遠い、騒がしい妹だ。


 兄弟仲は特に悪くはなく、むしろ良すぎるまでもある。

 まりあは昔から俺にべったりで、特に中学時代の活躍を誇らしく思っており、『自慢のおにーちゃん』っとよく言っている。


 俺の影響からか中学2年になるマリアも今年生徒会選挙に立候補するらしい。

 

 今の兄を見てどう思っているのかわからないが、マリアなりに気をつかっているのだろうか、高校生活については何も聞いてこない。


 朝食を済ませると、マリアはリビングで着替え始める。

 制服に着替えている姿を見ていると、昨日の美浜さんの事を思い出す。

 いや、ホントに大きかった!

 マリアと母さんを見ていると、うちは貧乳家系なんだなーと付くづく思う。


 「おにーちゃんなにじろじろ見てるの!? 変態!」


 「はぁ? お前の綿棒みたいな体に興味ねーよ」


 マリアは闘牛の牛が赤布を見つけたかのような形相で俺に近づき、地獄突きを放ってきた。

 的確に喉元を捉える鮮やかな手つきはまさにブッチャー並の地獄突きだった。

 いや、マジで···。


 マリアは着替え終わると、咳き込む俺を無視して家を出た。

 それを追うように俺も家を出るのだが、玄関で靴を履く時に毎日感じていることがある。


 「めんどくせ〜」


 靴を履くのすらめんどくさいのだから、やはり俺は学校での役割などこなせるわけがない。

 そう思いながら自転車に乗り、学校を目指す。


 俺の通学路には堤防がある。

 堤防のある学校はそこで起こる様々な出来事を青春の1ページに括り付け、思い出を残す。

 部活で走り込んだとか河川に向って叫んだだとか。

 

 まあ俺にはただの通学路でしかないのだが···。

  

 毎朝渋滞している昨日美浜さんと落ちた橋を通り過ぎ、通学ラッシュでごった返す校門を抜け、自転車置き場へと進む。


 普段と変わらない日常だ。

 これでいい

 いや、これがいい。


 昼休みになり、弁当を食べていると俺は美浜さんに教室の外に呼び出された。

 

 「桜形くん、昨日はいろいろごめんね! クリーニングした制服さっき親に届けてもらったから」


 美浜さんは深々と頭を下げて、俺に制服を渡した。


 「それでね! 昨日の夜気づいたんだけど桜形くんって新崎中学の生徒会長だったでしょ!?」


 こんなに早くバレるとは思ってなかったが、まあ仕方ないか。


 「そうだけど、それが何か?」


 「昨日話した事覚えてる? 確か桜形くんが中学の時に言った言葉だったよね?」


 これもバレてしまったか。まあ今の俺には関係のない無縁の言葉だ。


 「私ね桜形くんと一緒にこの学校を盛り上げていきたいの!」


 「それは無理な相談だな、俺はもうそういう面倒くさいことはやらないって決めたんだ」


 美浜さんは残念そうに俯き、下を見つめた。

 そして頭を上げ俺にこう言い放った。


 「桜形くんはきっと心のどこかでまだやりたいって思ってる! 私は諦めないから!」


 美浜さんが言った死にたがってる目をしたやつにそんな可能性がないことくらいわかるだろうに。

 なぜ彼女が確信を持って言ったのかはわからないが、俺の心は変わりようがない。


 「何を諦めないのか知らないけど、面倒くさいことはやめてくれよ」


 そう言い残し俺は教室へと戻った。


***


 放課後再び俺のもとに美浜さんが現れた。


 「桜形くん! ちょっと来てもらいたんだけど」


 「どうしたの?」


 「あの···相談に乗ってほしいんだ!」


 「相談? 昼も言ったように学校を盛り上げるとかそういうのはしないんだけど」


 「それとは別の事でね···お願い!」


 美少女になにかをお願いされるのも悪い気持ちではない。

 まあやる気はないといえど、相談くらいなら聞いてあげてもいいだろう。


 「それで相談とは?」


 「私の友達の恋愛相談なんだけど···」


 「なんでまた俺に恋愛相談を!?」


 「多分だけど桜形くんって恋愛経験とか豊富でしょ?」


 ふっ···俺を甘く見るでない美浜美春よ!

 中学時代は恋多き男として有名だったのだ。

 告白すること20回。

 内成功は2回と『告白のマシンガン』とも言われた男だ。


 俺がなぜこんなに告白したかというと単に彼女がほしかっただけである。

 『リア充には彼女がいる』そんな定義のもとちょっと気になればすぐに告白していた。


 それ故に中身のない恋愛しかしたことがないのだ!

 

 「まあ、そんなに豊富でもないけどな。美浜さんのが豊富なんじゃないの?」


 「私はまだ人を好きになったことがなくて···。だからあんまりそういうの分からないの」


 真面目すぎるぞ美浜さん。

 学生の恋愛など所詮青春に起こるひと振りのスパイスでしかないのだから深く考える必要もなかろうに。

 

 「そうなんだ、でも美浜さんってモテそうだし、たくさん告白されてるでしょ?」


 「まあそれなりには告白されてるけど···。好きな人じゃないからさ」


 純粋すぎるぞ美浜さん!

 美浜さんを見ていると俺が不純にしか見えない。

 


 「まあそりゃ、好きな人とじゃなきゃ付き合わないわな。あはははっ···。それで恋愛相談の内容って?」

 

 「1組の教室に来てくれる?」


 教室に行くと一人の女子生徒が待っていた。

 

 「6組の桜形って言います」


 「あっ、こんにちは! 安達咲と言います」


 「よろしく、それで恋愛相談なんだけど」


 安達さんはモジモジしながらなかなか言葉を発しなかった。

 見ず知らずの男子にいきなり恋愛事を話せる女子もそうそういないだろう。

 

 見兼ねた美浜さんが安達さんに声をかける。 


 「咲ちゃん、桜形くんなら大丈夫だよ! 誰かに言ったりしないと思うから」

 

 知り合ったばかりの俺をこうも無条件に信用するとは。

 美浜さんの中で俺はどんだけいいやつなんだよ。


 「まあ、誰かに言う事はないかな···。この学校では友達あんまり多くないし」


 「うん···。じゃあここだと話しにくいから近くの喫茶店で話していいかな」


 俺達は安達さんの提案を受け入れ、学校の近くにある喫茶店へと移動する。


  美浜さんは席につくなり、喫茶店の名物であるデニッシュパンの上にアイスを乗せたデザートを頼む。


 しかもミニサイズではなく、通常サイズだ。

 通常サイズなんて男の俺からしても、ややでか過ぎる。

 ましてや学校帰りの間食にしてはどっしりと胃にくる量である。


 「美浜さん、こんなに食べるの?」


 俺はちょっと引き気味に彼女に尋ねた。


 「もちろん! やっぱりここに来たらこれ食べなきゃね!」


 細いのによく入るなと関心して美浜さんの体を見ていると、胸に栄養が行っているのかな? とセクハラ発言をしたくなる。


 「胸···いや、それで安達さんの恋愛相談ってどんなことなの?」


 「私の友達に2組の武田君のことが好きな子がいてね。でも私も武田君のことが好きなの! それでこの前武田君に告白されてどう返事をしようか迷ってるんだ···」


 安達さんの恋愛相談とはいわゆる三角関係の相談ということだった。

  

 

 

  

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