29.予想外の展開なんてめんどくさい
新年あけましておめでとうございます!
皆さまにとってよい年になりますように(・v・)V
本年もよろしくお願いいたします!
結果発表当日の空模様は生憎の雨だった。
灰色の天から舞い降る五月雨の滴が無機質な音色を奏で、結果発表を今かと待ちわびる俺たちの緊張を溶かしていった。
本日の昼休みには校内放送で選挙結果が発表される。
一昨日行われた立候補者演説は美浜さんと黒神は両者ともに全校生徒を引き付ける素晴らしい演説をした。選挙活動においては藍葉先輩の手助けもあり、満足のいくPRをできたと思う。
やれることはすべてやった。その達成感と満足感が選挙が終わってから俺たちを包んでいた。
そして昨日は藍葉先輩が独自に調べてくれた予想投票結果を教えてくれたのだが、結果としては美浜さんが1位で黒神が2位という結果だった。
予備投票日の結果は含んでいないので確定という訳ではないが、ほぼ確実に当選できるという知らせを聞いて俺たちは声を出して喜んだ。
昼休みを迎え、生徒会室に集まると耳を澄ませながら放送が入るのを待った。
どことなくみんな緊張してるのを感じたのか、周二はお気楽そうに両手を頭の後ろで組み、仰け反りながら言う。
「みんなそんなに緊張しなくても大丈夫だろ? 事前予想では美浜さんが勝ってるわけだし」
「まあ確かにそうだけどやっぱり結果が出るまでは緊張するよな」
周二以外のみんなが首肯して同意する。
しかし予備投票日に投函される投票数を考えてもそこまで大きく動くことはないだろうし、美浜さんが当選することは確実だと思われる。
そうこうしているうちに生徒会室の黒板上に取り付けられたBOX型のスピーカーから軽やかなメロディー音が流れた。
『選挙管理委員会より生徒会長選挙の結果をお知らせいたします』
男性の低い声で告げられた結果発表に息を飲んで聞き耳をたてる。
『総投票数は702票、内有効投票691票、無効投票11票という投票数になりました。続きまして各立候補者の得票数を演説順に発表していきます。吉村良太くん、24票』
この学校では順位だけでなく獲得票数が公開されるので、票数の少ない者にとってはかなりの拷問に近いシステムだと思う。きっと今頃吉村は弁当を食べながら心に大きな傷を負っているに違いない。
そして演説2番目の美浜さんの得票数がいよいよ発表される。
『美浜美晴さん、———314票』
「「おおー!」」
票数の多さに俺たちは驚きの声を上げた。
ここで次の永田の獲得票数が39票を上回った瞬間に美浜さんの当選が確定する。
「永田聡くん、———64票」
「「よっしゃー!!」」
歓喜の声を一斉に上げ、手を叩き合って俺たちは喜びを分かち合った。
美浜さんは嬉しさに瞳を輝かせており、泪が頬を伝っている。
「黒神進一くん、289票。以上の結果、生徒会長は美浜美晴さんとなりました」
周二は「イオーーーーン!!」と喜びの雄たけびをあげ、美浜さんと千夏は再び祝杯のハイタッチを交わし、秋穂と俺も笑顔で手を叩いて拍手を送った。
そんな俺たちを藍葉先輩も腕を組んで微笑みながら見守っている。
「———ですが今回の投票にて不正投票が行われた可能性がありますので選挙管理委員会の調査後に再び選挙結果を発表させていただきます。以上で選挙管理委員会からのお知らせは終わります」
突如聞こえた耳を疑う言葉。その瞬間に室内から明るい声は消え、雨音が聞こえる程の沈黙が生まれる。頭の中はクエスチョンマークが支配しており、俺を含めて誰も言葉を発しない。
不正投票とはどういうことだろうか? もしかして黒神がなにかしたのか? でも美浜さんに関しては不正投票など関係ない事のはずだ。
———コンコン。
引き戸をノックする音が聞こえてそちらに目線を配ると、「失礼します」と戸が開かれ二人の男女が入室してきた。
棘のようにツンツンに逆立った髪型にがっしりとした広い肩幅に細長い目が印象的な男と線を描くように切り揃えられたおかっぱヘアーの女がそこにいた。
「坂本藍葉さん。今回の生徒会長選挙の不正投票についてお聞きしたいことがありますのでよろしいでしょうか?」
男はそう言うと藍葉先輩の元に近寄っていく。
先輩も何が起こっているのかわかっていないみたいで、動揺を隠しきれず目を泳がせている。
「ど、どうゆうことかしら? 不正投票なんて私全然知らないのだけれど」
「知ってるか知らないかはお話しをお聞きしてからこちらで判断しますので今はこちらの指示に従って協力いただければそれでいいです」
強引とも言える男の言動に藍葉先輩は少しイラッとした様子で、
「理由も知らないのに協力なんてできるわけないでしょ?」
「では完結に説明いたしましょう。今回の生徒会長選挙での美浜美晴さんの獲得票数を不正を行って水増しさせたものがいることが判明しました。その指示者として坂本藍葉さんの名が挙がっているのです」
な、なんだと。今回の不正のやり玉に挙がっているのが美浜さんの票数だということと同時に藍葉先輩が不正の指示者だと。
そんなことをするはずはないと思うし何かの間違いに違いない。
「そんなこと藍葉先輩がするわけないだろ?」
「そうだ! 藍葉ちゃんがそんな小さいことするわがない!」
俺と周二が先輩を庇おうと席から勢いよくたった。
「君たちには関係のないことだ。事情は藍葉さんに確認するので事実確認が終わるまで待っていただきたい。では藍葉さんよろしいですかね?」
状況的におとなしく指示に従ったほうがいいと判断したのか藍葉先輩は無言で席を立つと、その状況に見かねたのか美浜さんが机を叩いて腰を上げた。
「藍葉先輩は絶対にそんなことをしません! 何かの間違いじゃありませんか? それに話を聞くなら、わ———」
「早く行きましょう! 火のない所からは煙が立たないものだしね」
藍葉先輩は美浜さんがそれ以上言わないように割り込んで、自ら戸に向かって歩き出す。
途中、俺を一瞥すると口を小さく動かした。
読唇術を使える訳ではないが、「頼んだ」と言っているように見えた気がする。
先輩が生徒会室を去った後、のしかかる様に暗く重い空気が室内に充満する。
誰も先輩を疑っているとは思えないが、詳しい事情も分からないしこれからどうすればいいのか・・・。
「とりあえず藍葉先輩が戻ってきて連絡くれるのを待つしかないな」
俺がそう言うとみんなが俯きながら首肯した。
美浜さんは顔を上げると無理矢理口角を上げて少し引きつったような笑顔を俺たちに見せる。
「きっと大丈夫だよ。藍葉先輩がそんなことするわけないし、誤認だってすぐわかると思う」
もちろんそうだ。今日の放課後にはすべて解決して、改めてみんなと喜びを分かち合うことになる。
そう信じて疑わなかった。
そしてきっとこんな状況になって不安と悲しみが一番大きいのは美浜さんに違いない。
だから俺もみんなも作りなれない笑顔で同意するように頷いた。
そしてその日藍葉先輩は学校から姿を消し、連絡が来ることはなかった。




