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28.演説なんてめんどくさい4

今年最後の投稿になります。

みなさま、よいお年を!!

また来年もよろしくお願いいたします(・v・)V

 選挙演説も大トリの黒神を残すのみとなった。

 美浜さんと千夏が温めた雰囲気は、次に控えていた永田を経由して黒神へと流れていく。

 黒神の支持者達も遠目から見ていてわかるくらいにそわそわと動いたりしていて落ち着きがない。

 恐らく美浜さんの演説の予想以上の反応に少し慌てているのだろう。それくらいこれ以上にない演説内容だったと思う。


これまでの黒神を見ていると演説は恐らく得意分野だろうし、この立候補者の中では一番うまくこなしていくだろう。だが上手なだけでは人に気持ちは伝わらない。無論伝わりやすくはなるのだが、やはり気持ちというのはどこか態度に霞んで現れるものだ。

 彼の()()()()()()()()()()()()()という気持ちが他の生徒に伝わってしまえば一巻の終わりだろう。


「それでは続きまして3年4組、黒神進一くんの演説になります。よろしくお願いします」


 司会者の紹介と共に黒神は堂々とゆっくり上手から現れた。

 澄ました顔で特に緊張している様子はなく、まるでベテランの議員のようだ。


「それでは推薦者の山本俊介くん。推薦者演説をよろしくお願いします」


黒神の推薦者である山本俊介が司会者の紹介で演台へと歩み寄る。


「黒神進一くんを推薦者として演説させていただく、3年5組の山本俊介です。よろしくお願いいたします。僕は黒神進一くんを強く推薦します。彼は常にみんなのリーダー的存在としてクラスを引っ張ってきました。そして進一くんには心に強い思いがあります。それはこの学校を今以上に良くしていきていということです」


 山本は推薦者演説を淡々としたテンポで進めていく、特に語りが上手いというわけでもなさそうで、少しだけ拍子抜けした。

 その後も熱弁を揮うこともなく、印象に残ることのなかった山本の推薦者演説は終わりを迎えた。

 黒神はその様子を眼鏡のブリッジを人差し指で持ち上げ、ポーカーフェイスで見つめていた。


「山本俊介くん、ありがとうございました。では立候補者の黒神進一くん演説をお願いいたします」


「はいっ!」


 男子特有の低音の返事が体育館内に響いた。

 黒神はマイクスタンドに近づくと、マイクを握りしめてスタンドから取り外した。

 演台から離れて舞台の前際に立つと、深々と一礼する。


「みなさん! こんにちは! 3年4組黒神進一です。よろしくお願いいたします。みなさんはこの学校をどう思いますか? 私は今この学校のことが大っ嫌いです!」


 演説では通常使われることはないだろう、「大っ嫌い」という言葉に生徒が少しざわめき立つ。

 変化球の玉がいきなり投げられた感覚でみんなが黒神を一点に見つめる。


「特に一番と誇れるものもなく、全国に数多(あまた)あるただの学校にすぎません。昔この学校の姿は違ったそうです。生徒はみんなこの矢作高校の生徒であることを誇りに思い、活気に溢れていました。今では見る影もなく平凡で退屈な高校です」


 手にマイクを握りしめ、舞台を悠々を歩き回りながら、生徒に目を配り語り掛けるように黒神は心の奥底にある気持ちを吐き出していく。

 一見すると企業のプレゼンテーションを見ているようである。iPhoneの名前出さないのが不思議なくらいだ。

 だが効果は抜群のようで生徒は舞台を動き回る黒神を目で追っている。


「そんな学校でいいのでしょうか? 私は正直もう耐えられません。ですから約束しましょう。この学校を活気のある、誇りを持てる学校にしていくことを! この私、黒神進一が!」


 決まったと言わんばかりに鷹揚に手を広げ、黒神は首肯する。

 そんなナルシスト全開の恥ずかしいポーズも黒神だとなぜか様になる。


「この学校の新たな歴史を作っていくのは私とみなさんです! だから力を貸してください! この学校に光が差し込むのはもうすぐです! みなさんの清き一票よろしくお願いします」


 マイクをスタンドに取り付けると黒神はゆっくりと一礼した。

 そして美浜さんの時と同様かそれ以上の大きさの拍手が体育館に鳴り響いた。

 黒神は具体的な公約についてはやはり口にしなかったがそれを気にする生徒もあの演説を聞いたら気にすることはないだろう。

 やはり見事な演説という他ない。


「黒神進一くんありがとうございました。これで立候補者演説を終了いたします。続いて投票に移ります。これから選挙管理委員会が投票用紙をクラス委員に配ります。クラス委員が立候補者の場合は代理の生徒にお渡しいたしますので、よろしくお願いします。投票用紙に記載してある手順に従って会長にふさわしいと思う方に丸の記入をお願いします」


 司会者の通達が終わると一斉に選挙管理委員会が投票用紙をクラス委員に渡していく。

 流れるように後ろのものに手渡され、俺の元にも投票用紙が届いた。

 もちろん美浜さんの名前の下にある四角い欄に丸を付ける。

 体育館の出口付近にある長机の上に置かれた9個の真っ白な四角い投票BOXに用紙を投函して、選挙の日程がすべて終了を迎えた。


 投票結果は本日投票できなかった生徒のための予備日があるため二日後となる。

 とりあえず無事に終了を迎えたことに安堵するが結果はどうなるかはわからない。

 美浜さんと黒神は共にいい演説をしていたし、生徒の反応はどちらも好感触だろう。

 

「美浜さん勝てるかな?」


「まあどうだろうな。黒神先輩もなかなかいい演説だったからな」


 周二の問いに曖昧な返事で口を噤んだ。

 結果ももちろん気になるのだが、俺は祭りの後のように少し寂しい気持ちになった。

 高校生になってこんな気持ちは初めてだ。

 まあ自分が久しぶりに頑張ったという証拠だろう。


*****


 その後藍葉先輩からの連絡で帰りに生徒会室にみんなで集まることとなった。

 生徒会室に着くと昼にあった張り紙は外されており、いままで引き戸を覆っていた黒幕も取り外され少し雰囲気が明るくなっている気がする。

 中に入ると執行部の面々が部屋の片付けを行なっていた。

 それを藍葉先輩は腕を組みながら立って見ている。


「どうしんたですか?」


「明後日以降からは新生徒会に引き継がれるからそのための片付けよ」


「あーそれで。そういえば生徒会室の引き戸にあった黒幕って何のためにあったんですか?」


「あれはまあ演出ってとこもあるんだけど、一番はここを訪れた人に興味を持ってもらうためね」


 意外な返答だった。だがそれもそのはずだと、黒板に消されずに記されたチョークの文字を見て納得する。藍葉先輩も生徒会としてこの学校をよくしていこうと奮闘していたのだし、多くの時間を捧げてきたに違いない。

 

「まあでも美浜さんが勝ったらまた先輩執行部入りじゃないですか?」


「あら? そんな約束した覚えないわよ。私の代の生徒会はこれで終わりで、小娘が生徒会になったら自分で勝手に作っていけばいいのよ」


 藍葉先輩は微笑すると、室内をゆっくりと見渡した。

 その表情は俺が先ほどしていた祭りの後のような物寂しそうな顔だった。

 俺以上に長い祭りを楽しんだ藍葉先輩の心にはきっとぽっかりと穴が開いているのかもしれない。

 

 そんなことを思っていると遅れて周二と美浜さんと千夏、秋穂がやってきた。

 周二は開口一番にイオンに行きたいと口にして、藍葉先輩といつものような主従関係を演じる。

 そして驚いたのは藍葉先輩が美浜さんと千夏を絶賛して褒めたたえたことだ。

 

 一巡に話を終えると、美浜さんは一人一人に握手をして三度目になるお礼を言った。


 そして二日後の選挙結果をいよいよ迎える。










 

 


 

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