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24.選挙活動の後半戦なんてめんどくさい3

 選挙活動もいよいよ残り2日間となった。

 俺たちは昨日藍葉先輩が提案した3グループに分かれての呼びかけを行っていた。俺のグループは秋穂と生徒会執行部の3年生の宮下先輩と赤城先輩の4名で構成された。

 まあグループ分けに不満はまったくないのだが俺を一番悩ませたのは、俺たちグループが受け持つ場所が校門というポジションだったことだ。そこには黒神もいる。

 

 昨日の黒神との一件があり、彼と直接対峙するのはやや気が引ける。この構成を考えたのは藍葉先輩で彼女に昨日のあった出来事も伝えたのだが、「ホソクビゴミムシとミイデラゴミムシの対決みたいで面白じゃない! あんたは校門で決まりね」と訳の分からない理由で有無も言わさず決定されてしまった。

 

 呼びかけの応酬が繰り広げられる中、黒神は一瞬こちらに目を向けるもすぐに視線を登校中の生徒へと移した。不思議なことに気が引けていた俺だったが、この場に立ってみると負けたくないという思いが勝り自然と声も大きくなる。


 執行部の先輩達もいい活躍をしており、一年生~三年生問わず積極的にビラを配ったり、話しかけたりしている。

 一番驚いたのは秋穂で、一年生の面々が逆に彼女に話しかけてきていた。中学の地味な姿からは想像もできない明るく、楽しそうな秋穂がそこにはいた。


「先輩なにニヤニヤしてるんですか?」


 秋穂はのぞき込むようにこちらを見ると、不思議そうに小首を傾げた。


「いや別になんもないけど、秋穂って人気なんだなと」


「そんなことないですよ! でもみんながこうやって話かけてくれるって嬉しいですね」


「そうだな。秋穂は生徒会会長向いてるんじゃないか?」


「そ、そんなことはないですよ。リーダーとかなれる器じゃないですし。でも執行部は興味あるかもです。先輩は執行部やらないんですか?」


「んー今のとこやる気はないかな」


 この学校の執行部の選定は少し変わっている。生徒会長には執行部部長としての権限が与えられ、自分が向いていると思う生徒を勧誘して執行部に加えられる。もちろん自ら進んで執行部入りをする者もいるのだが、比率を考えると生徒会長が勧誘した者の割合が多い。

 生徒会を円滑に運営していくための組織作りは、生徒会長の最初の大きな仕事といっても過言ではない。

 美浜さんには生徒会長になってもらって活躍してもらいたいのだが、俺は自分が直接生徒会の運営に関わる気はない。

 

「そうですか。でも気が変わるかもしれませんよね!?」


「さあ、どうだろうなー」


 流し返事で言う俺の制服の裾を秋穂は摘むとそっと優しい言葉で言う。


「きっと変わりますよ」


「お、おう」


 いかん。あまりの可愛らしい行動に変わることを肯定してしまった。秋穂って時々男をドキドキさせるようなことを平然としてくるよな。おしとやかなイメージしかなかったが小悪魔的なのかもしれない。


 その後の呼びかけも順調そのもので、以前とは比べ物にならないほどの感触を得た。他のグループも確かな手応えを感じたらしく、俺たちは意気揚々と昼休みに生徒会室に集合した。

 生徒会室は相変わらず開かずの間のようなほの暗い様相をしていて、引き戸を開けるといつものように藍葉先輩が肉厚な背もたれが特徴的な社長椅子に鷹揚に足を組みながら腰かけていた。


「さて、いよいよ今日が終わると明日1日となったわね。円周率さんは準備のほう完璧なの?」


 一瞬みな誰だそれと顔を見合わせたが、そのあだ名が美浜さんにつけられたものということは美浜さん以外はすぐに気づいた。

 遅れて気付いた美浜さんは顔を真っ赤にして、胸を隠すように両手で自分を抱きしめた、


「藍葉先輩! そのあだ名はちょっと・・・」


「ちょっともシットもないわよ。そんな重くて立派なものつけてるんだから堂々してなさい」


 藍葉先輩は美浜さんの胸を指さしながら、つっかかるように口をへの字にして不機嫌な表情で言う。

 そんな嫉妬心満載の空気が漂う中、それをものともしないのが周二だった。


「藍葉ちゃん! いくらそんなに自分に胸がないからって美浜さんに当たるのはよくないぞ」


「しゅ、周二あんた、私が自分の胸を気にしてると言いたいの・・・?」


「そうそう! 小さくても大切なのは形ーーーぶはぁ!」


 どこから取り出したのか藍葉先輩は固くかぴかぴに乾いた大きめの丸餅を周二の顔面に向かって全力投球で投げつけた。


「とりあえず今はこのくらいで勘弁しといてあげるわ。後でもっときついのぶち込んであげるんだから覚悟してなさい」


 丸餅もくらって虫の息の周二を横目に俺たちは本題へと話を戻した。


「選挙活動は恐らくこれ以上にないくらい有意義なものになってると思う。確かにあとは美浜さんの演説で勝負が決まってくるな。推薦者演説する人は誰なんだっけ?」


 生徒会選挙の投票前には全校集会にて各立候補者と推薦人による演説が舞台で発表される。それを聞いた後に各学年ごとに投票用紙が渡され、投票という流れになる。


「一応咲ちゃんにお願いしてるよ。あんまり人前で話すのは得意ではないみたいだけど、私の事一番知ってくれてるから」


「安達さんにお願いするのか。まあ彼女ならしっかりやってくれそうだしな」


 推薦者演説はその立候補者がどれだけ素晴らしい人物かをみんなに知ってもらうそのためだけに演説をする人物だ。もとよりその立候補者のことをよく知っていなければいい演説はできない。

 だからその点で言えば美浜さんの親友ともいえる安達さんは適任だろう。


「演説をするに当たって、ここで黒神を抑え込むために一つ作戦を実行するわよ」


 そばで聞いていた藍葉先輩が両肘を机に乗せ手を組むと、先ほどの雰囲気とは違う真剣な眼差しをこちらに向けた。


「あんたたち美浜陣営には演説中にサクラをやってもらうわ」


「サクラですか・・・」


「なに? あまり乗り気じゃなさそうねミイデラゴミムシくんは」


 正直俺はあまり気が進まない作戦である。演説中に拍手を誘引するように、率先して拍手したり、声を出して素晴らしいと褒めたたえたりするサクラをやれということである。

 確かに反応の薄くなりがちな演説には効果絶大の作戦ではあるが、なにかみんなを騙しているように思ってしまい卑怯に感じてしまうのだ。


「とりあえずこれは決定事項よ。黒神もこの作戦は使ってくるだろうし、彼に負けたくないのだったら気を抜かないことね」


 黒神に負けるのは嫌だけど、願わくばこの作戦を使わずに美浜さんの演説を聞いた人たちが自然と賛同して拍手をくれたり、声を上げてくれること俺は期待している。

 


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