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22.選挙活動の後半戦はめんどくさい

 先ほどまで黒神陣営にいた生徒会執行部の面々が次々にこちらへと向かってきて、美浜さんの呼びかけに加わる。暗い絶望の檻にいた俺の心は、扉を開け放ち、光が差し込むのを感じた。


 藍葉先輩のとった行動に驚きを隠せない黒神は、眉をぴくぴくと動かし、苛立った面持ちで藍葉先輩に詰め寄る。


「これはどうゆうことなんだね? 坂本くん!」


「あら? 私言ってなかったかしら? 私はあなたを手伝うと言ったけど、生徒会があなたを手伝うとは一言も言ってないわよ?」


 黒神は一瞬考え、そのことに気づきながらも納得をすることはない。


「そんな揚げ足取りみたいな、不問な問答はどうでもいいのだよ! 君一人いたところでなんの活躍もできないだろ! すぐに呼び戻したまえ!」


「いやよ。あんたは人の言葉をちゃんと聞かないで、納得したんだから自業自得よ。あと今私を侮辱したこと覚えていなさいよ。さらに後悔させてあげるんだから」


 藍葉先輩は黒神にそう告げると、すっきりした表情で俺たちの元へと向かってきた。まさか先輩がこちらの味方になってくれたとは百人力の勢いだ。


「先輩どうしてこっちに協力してくれたんですか?」


「あんたが真剣に悩んでたからよ。それに今黒神についたところで面白くないでしょ? だから持ち上げて落とすことにしたの」


 面白いとか面白くないとかの問題なのだろうか? それに持ち上げて落とすとかやはりこの人は侮れない。この出来事に俺以上に喜んでいたのは隣にいた周二だ。彼は藍葉先輩の言葉に相槌を打つと、今にも泣きだしそうな表情をしている。


「藍葉ちゃんならやってくれると思ってたよ! ずっと信じてた!」


 絶対に嘘だ。藍葉先輩が黒神に協力すると言った時、見損なったとまで言っていた男だぞ。俺は白々しい目を周二に向けると彼はなぜか満面の笑みで親指をグッと立てた。


「あら、周二。誰が誰をずっと信じてたですって? 妄言にもほどがあるわね? 後でたっぷりお仕置きしてあげるから」


 どうやら藍葉先輩のドSスイッチがONされてしまったようだ。まあこの場でお仕置きをしないのは彼女なりの優しさなのかもしれない。美浜さん達は突如として加わった生徒会執行部を見て戸惑っている。


「美浜さんには伝えてなかったけど、生徒会に協力のお願いをしてたんだ。最初は選挙活動のアドバイスだけもらう予定だったけど、本格的に協力してくれるみたいで・・・。それでも大丈夫かな?」


「もちろんだよ! 桜形くんがこんなに協力してくれるなんて、感極まっちゃうよ。本当にありがとう」


 美浜さんは俺の手を握ると潤んだ瞳を向け、お礼を言った。その姿を見ていた千夏と秋穂が慌てながら俺と美浜さんの間に割って入ってくる。


「ちょ、ちょっと! 涼の手は汗ばんでて汚いから触らないほがいいわよ」


「そうです! 先輩の手はヌメヌメしてるので美浜先輩は触れないほうがいいですよ」


 二人して俺のマイハンド批判はやめていただきたいのですが。確かに汗ばんでるし、多少ヌメヌメしているかもしれませんが、ちゃんとトイレ後はハンドソープで洗っているし、汚いはずはない! 多分・・・きっと・・・。


「いやでも桜形くんの手大きいし、握ると安心するんだよね。 えへへ」


「えへへじゃないわよ美晴! こんな野獣に手なんか握らせたらだめなんだからね」


「そう言えば、秋穂は昼に俺の手握ってくれたよな?」


「あ、あれはその先輩が元気なかったので、そのなんといいますか。ちょちょっとお花を摘みに行ってきます!」


 秋穂は駆け足で校舎へと戻っていった。今時お花を摘みに行くとか本当に言う人いるんだな。


「ちょっと涼! 今の秋穂ちゃんの言ったことはどうゆうことなのよ!」


「いや別に変なことじゃなくて、励ましてくれたんだよ」


 やたら不機嫌な千夏は俺の手を握ると肘を固めてアームロックを仕掛けてきた。なんでこいつはこんなにプロレス技がスラスラとできるんだよ。


「痛いって! ギブギブ!」


「ま、まあ私もこれでお相子ってことで・・・」


「はぁ? 何言ってんのお前は」


「さて、お戯れのとこ悪いのだけど、サムノスチルムくん。ここから投票日までの作戦を伝えるわよ」


 俺と千夏がいつものように揉めていると、藍葉先輩が腕を組みながら、仁王立ちして目の前に立っていた。ササムノスチルムってなんだよとこの時は思ったが、後々調べているとねずみの糞にいるカビのことらしい。毒の次はカビかよ。


「そういえば1つ聞きたかったことがあるんですけど、藍葉先輩が最初に言ってた、目立つ方法の意味なんだったんですか?」


「ああ、あなたが心とかしょうもない答えを出した時のやつね。まだわからなの?」


「はい・・・」


 俺の疑問に藍葉先輩は再びつつましやかな胸に手を当てて、顎をあげるとあの時と同じポーズをした。


「わ・た・しよ!」


 ふむ。確かにこの選挙戦で藍葉先輩を味方につけたほうが、生徒会も味方について目立ち度も断然アップするだろう。そんな簡単な答えもわからなかったとは・・・ってなるか!


「いや、まあ確かに今考えるとそうかもしれないっすね! あはは」


「絵に描いたようなマヌケな愛想笑いだこと」


 完全に見破られている。まあ確かにこんだけの自信家だと信者も付きそうだよな。少しばかり下僕に人の気持ちがわかった気がする。


「で、今後は3チームに分かれて、呼びかけをしていこうと思うのだけどいかが?」


「確かに固まってやってても効率悪いですからね」


「まあそれもあるのだけど、主役の美浜さんがいないって状況を作るのに意味があるのよ」


「ああ、そうゆうことですね。確かに効果的かもですね」


 選挙立候補者のいない呼びかけは一見すると効果がないように思えるが、実は逆だ。これだけの支持者がいるということを見せつけれる機会にもなるし、何より他人からの支持があることが明確にわかりやすい。

 例えば自分の店の料理をその店が、美味しいとアピールしたところでそれは当然のことだと思われる。だが店に関係のない者が美味しいとアピールするとそれは評価に変わる。

 その状況を意図的に作り出すために、あえて美浜さんと離れて呼びかけを行うことは、この選挙活動にて逆転の切り札となりえる。しかも現生徒会のお墨付きならなおさらだ。


「じゃ決まりということで。私は生徒会室に戻るわ」


「あれ? 先輩は手伝ってくれるんじゃないんですか?」


「私は後ろで手を引いてるってのが好きなのよ。自分から表に立つことなんてないわよ」


 そう言うと先輩は後ろを向き、「じゃ」と手を振りながら去っていった。さすがフィクサーだと俺が関心して見ていると、後ろ肩を叩かれた。


「君がいろいろとやってくれたみたいだね」


 振り返ると憤怒し、眉間にしわを寄せた黒神が立っていた。



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