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20.理由を探すのなんてめんどくさい

 秋穂が帰ったその夜。

 俺は苦悶するように居間のソファの上を転がっていた。

 藍葉先輩に言われた、美浜さんを何故当選させたいのかという自分の心中にある答えを未だ見つけられずいた。


 ここ数日の自分の変化には気づいている。燃え尽き症候群になった俺が生徒会選挙という自分になんのメリットもない行事を率先して手伝いっている現実がある。

 高校に入学してからの俺では考えられない出来事だ。

 

「おにーちゃん。そこ邪魔! どっこいしょ」


「ふぐっ・・・」


 風呂上がりのマリアはピンクチェックのパジャマ姿で、湯気立つ火照った体を、ソファにうつ伏せに寝転がっている俺の腰に座り込んだ。

 細身の華奢な見た目に反して、ずっしりとした重みと生暖かい温もりを腰に感じる。


「お前痩せてると思ってたけど結構重いんだな」


 マリアはムッとすると脇腹をチクリと抓る。


「まったく失礼なおにーちゃんなんだから。ところで今日久しぶりに秋穂先輩見てどうだった?」


「びっくりしたってのが一番の感想かな。てかマリアは秋穂とちょくちょく会ってたのか?」


「秋穂先輩吹奏楽部のOBだからたまに練習教えに来たりしてるから、ちょくちょくは会ってるかな」


 そういえば秋穂はマリアが1年の時の3年の吹奏楽部の先輩だったけか。それにしてもあの変化は先生も吹奏楽の後輩もびっくりしまくっただろうな。黒髪おしとやか系少女が金髪美少女に変化したとなれば逆に荒れてしまったのかと心配されそうだ。


「おにーちゃんは秋穂先輩とは学校で会ってなかったんだね」


「一応今日の昼に廊下で偶然ぶつかったんだけど、気づかなかったな。俺もポスター抱えてたから向こうも気づいてない様子だったし」


「ほほーそれは運命的出会いですな! まあこれからは学校でたくさん会えるね」


 秋穂との出会いは予想だにしない出来事だったが、この選挙活動のタイミングで1年生の知り合いができたというのはこちらとしては嬉しい限りだ。秋穂なら同じ中学のよしみで協力をお願いできるかもしれない。


「早速明日学校で会ってみるかな」


「おおっ! おにーちゃんは秋穂先輩のおぱーいに惹かれたのか?」


「いや秋穂のおぱーいについては何もわからんし、選挙活動の協力をお願いしようと思っててな」


「なーんだつまんないな〜。とりあえず言えることは秋穂先輩は美浜先輩以上の戦闘力を持ってるってこと」


 マリアは人差し指を立て、強調するように言い放つ。

 何っ! 美浜さん以上の戦闘力とかもうスカウターで測れるレベルではないだろう。まあ秋穂に聞くなと釘を刺されてるし、紳士な俺はこれ以上の詮索はしないことにした。


「そういえばお前の方の生徒会選挙はどうなんだ?」


「とりあえず今のところは順調かな?」


 美浜さん同様苦戦を強いられていると思っていたが、順調とは意外な反応だった。


「ライバルで凄そうな奴とかいないのか?」


「んー。みんなそんなに一生懸命じゃないというかなんというか」


 マリアは頬に手を添えると小首を傾げた。


「まあ学校の選挙って結構運要素強いからなー。やる気のあるやつがたくさん出るときもあれば、ノリで出ましたとか、推薦で仕方なくでるやつもいそうだしな」


「そうそう、なんかいまいち選挙は盛り上がってないんだよね」


 そんな選挙状況のマリアを俺は羨ましく思う。こちらは早々に黒神の対策をうたなければ負けるのは必至だ。とりあえず今日中に藍葉先輩に出された課題を解決して明日協力をお願いしなければ。


「おにーちゃんの方はなんか大変そうだけど頑張ってね! 美晴さんのことも応援しているし」


「おう。美浜さんも揃って生徒会長にできるように頑張るわ」


*****


 自室に戻ると俺は深く深呼吸をしてベッドの上に横になった。真っ白な天井のクロスを見て思いを巡らせる。

 思い返すと美浜さんと出会ってからまだ1カ月しか経ってないのに色々なことがあった。今まで無に近い高校生活を送ってきた俺には望まない形に近い変化だったのに、今となっては心地いい生活へと変わりつつある。非常に不思議な感覚だ。


 きっと美浜さんが生徒会長になってくれれば凄く素敵な学校になるだろう。俺はそう信じているし、美浜さんにはそれを証明してもらいたい。


 ふと俺は証明という言葉に疑問をいだいた。

 なぜ証明してもらいたいのだろう。彼女の素晴らしさを知ってほしいから? そんな戯言のような

理由ではない。きっとそれは俺の自己満足なのだ。


 彼女と昔の俺は似ている。自分自身の偏った偏見かもしれないが、そう思っている。

 俺は昔の自分と彼女を重ね合わせているのだろう。そして過去の自分のやってきたことが間違いではなかったという事を彼女に証明してもらいたいのかもしれない。もっと残酷に言えば、自分の過去を肯定するために彼女を応援しているということだ。


 その答えに辿り着いた時、ひどく悪寒がした。燃え尽き症候群となっても過去の栄光にすがるように生きている自分を陋劣ろうれつに感じたからだ。


 こんな気持ちのまま美浜さんを応援していていいのだろうか? 俺は自己嫌悪に駆られた俺はそれ以上深く考えまいと部屋の明かりを消して、いつもより早く床についた。


*****


 翌朝、自分の心を表すかのように太陽はどんよりと澱んだ雲に覆われって光を失っていた。

 一応お願いいた建前、藍葉先輩には昨日出した答えを伝えておこうと思い、昼休みに生徒会室で会う約束を周二に取り付けてもらった。


 校門前では選挙活動の熱戦が今日もまた繰り広げられていた。美浜さんとは挨拶を交わしただけで、そのまま教室へと向かった。


 教室に入ると周二は俺の気持ちを知ってか、知らずかいつも以上に絡んでくる。


「昨日なんで助けてくれなかったんだよ! 藍葉先輩にいじられまくって、危うく逝きかけたぞ!」


 昨日のふたりの関係からして卑猥な言葉に聞こえるのは俺だけでしょうか。


「いや、楽しそうだったし。それに別に俺が助け向かったところであの人には歯がたたねーよ」


「とりあえず今日の昼はあんなことになる前にお前が止めてくれよな」


「あ、ああ・・・」


 いつになく歯切れの悪い返事に周二も「おお」とだけ返事をした。


*****


 昼休みとなり、周二と再びの生徒会室を訪れる。今日の天気のせいもあってか、昨日訪れた時より底気味悪い印象を受ける。やはり学校の七不思議にでてきそうな部屋だ。


 引き戸にてをかけ、扉を開けると中央の社長椅子に腰かける藍葉先輩の他に3名が室内にいた。


「よう! 周二と、えーっと銭形くんだっけ?」


 誰だよ銭形くん。俺は投げ銭もしなければ、悪人も退治しねーぞ。逆に投げ銭してもらいたいくらいお小遣いが少ない。


「桜形ですよ。それよりこの方たちは生徒会の人たちですか?」


 藍葉先輩は人差し指を立ててちっちっと指と顔を振って、ツインテールを揺らした。


「これは私の下僕たちよ。これから出て行ってもらうから気にしないで」


 よくその3名を見ると、眼鏡をかけた気弱そうな男がいる。今の生徒会長だと気づいた時には戸を開け室内から出て行った。


「先輩あれ生徒会長じゃないですか?」


「いいえ、下僕よ! テトロドトキシンくんもいつでも下僕になっても構わないわよ。歓迎するわ」


 やはり昨日周二の言って生徒会長を裏で操っているのは本当らしい。そして俺のあだ名は食中毒からただの毒にランクアップしたらしい。


「やはり遠慮しときます。周二がいるので」


「おい! 男の約束を忘れるなよ」


「ふふ、まあそれは置いておいて昨日の答えは見つかったの?」


 その問いに俺はビクッと体を揺らしたが、正直に胸の内を明かすことにした。


「美浜さんの事を当選させたいと思っていた理由は自分のためでした。中学の時生徒会長をやっていたのですが、その自分と美浜さんを重ねて、自分のやってきたことを肯定してほしいために美浜さんを応援しているんだと気づきました。つまり自分のためです」


 藍葉先輩は腕を組んで、首肯すると、日光のない窓の外を見つめた。


「すごく立派な理由ね」


 自分が考えていた反応とは違う言葉が返ってきて俺は困惑した。

 

 


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