2.彼女との出会いはめんどくさい2
風呂から上がると、ジャージが1着置かれていた。
これを着ろってことか?
ノーパンだけどいいのだろうか?
まあ裸で出ていく訳にもいかないし、着ていくしかないか。
ジャージを着てみるとかなりサイズが小さい。
弟のジャージかな?
俺はバレー部だったこともあり、身長は平均より高い。
ジャージを着て脱衣室から出ると美浜さんがジャージを持って現れた。
「桜形くん!? それ私のジャージ」
な·ん·だ·と···!
ノーパンで既にズボンには"あれ"が触れてしまっている。
俺は何を思ったのか、慌ててズボンを脱ごうとしてしまった。
屈んだ瞬間に
―――ビリッ!!
大きな音を立ててお尻から股間にかけての縫い目が見事に破れていった。
「あぁぁぁ! ごめん!」
「いやその、早くこっちを着て!」
美浜さんは顔を反らしながらジャージを俺に向かって投げた。
すぐに脱衣所に戻ってジャージを着直す。
これはきっと夢なのだ···
そうまず第一に女子の家にいるというのがおかしい。
「桜形くん! 大丈夫だった!?」
ドアの外から美浜さんの声が聞こえる。
うん、やっぱり現実だ···あかん···。
「だ、大丈夫! それよりもジャージ破ってしまってごめんなさい!」
「いえ! こちらこそ紛らわしく置いてしまってごめんなさい!」
脱衣所から出ると居間へと案内された。
「私もお風呂に入ってくるので、ここで待ってて」
部屋を見渡すとたくさんの賞状が飾られている。
これは彼女が懸命に生きてきた証であり、多くの事を成し遂げてきた証拠だ。
ふと賞状と一緒になっている1枚の写真を見る。
これは···。
この写真は県の中学意見交流会の写真だ。
県内の中学校の生徒会が問題や未来について語る会である。
この写真の左端を見るとやはり俺が写っていた。
生徒が結構多く参加してて、覚えてはないが美浜さんもいたのか。
明るく、希望に満ちた顔で写っている俺を見ていると、どこか自分でないような気がした。
まあこの頃の俺はもういないのだから当然か。
「待たせちゃってごめんね! 服はもうすぐ乾燥終わると思うから」
湯上がりのしっとりした柔肌から湯気が立つその姿に俺は一瞬だが目を奪われてしまった。
いかん。しずまれ煩悩よ。
「あ、ありがとう、それとさっきはジャージすまなかったな」
「気にしなくていいよ、私も悪かったんだから。今日は本当にごめんなさい」
「もういいって、とりあえずお互い無事だったんだしさ」
「桜形くんって2年の何組なの?」
「6組だけど」
「そっかー! 私は1組なんだ! また学校で会ったらよろしくね」
「おう」
こういうときの『よろしく』とは何を意味するのか全くわからないが適当に返事をする。
中身のない会話をしている間に服が乾き、俺は再び脱衣室で着替えを始めた。
着替えてる最中にドア越しから美浜さんが喋りかけてくる。
「桜形くんは学校楽しい?」
「んー可もなく不可もなくってとこかな?」
「そっか···私ねこの学校でやり遂げてみたい夢があるんだ!」
「はあ」
「みんなが楽しいと思える学校にしたい。そして最高の青春を送れる学校にする」
なんてことない言葉だ。
理想を押し固めたただの戯言。
だが俺はその言葉を聞いた時、驚きと自責の念にも似た気持ちがこみ上げてきた。
その言葉は俺が中学の時に言っていた言葉だ。
「それはすごいな!頑張れよ」
既に自分が失ってしまった事を彼女は実行しようと頑張っている。
そんな事を思うと自分の胸の中を何かが締め付ける感じがした。
「これはね、中学の時の意見交流会で男の子が言ってた言葉なの」
それは多分俺だ。
今の自分とは遠くかけ離れた、当時の俺が言っていたのだろう。
「その男の子が話す姿、とても輝いて見えて私もあんな風になりたい! もっと頑張りたい! そう思ったんだ」
今は全く輝いてないんですがね。
電球なら2ワットくらいしか明るくないです。
というかこの話をしているといろいろバレてしまいそうだ。
早々に着替えを済ませて、美浜さんの家を出る。
「じゃあまたクリーニング終わったらすぐに返すね」
「おう、じゃあ」
すっかり日も暮れて、街灯が灯る道を俺はゆっくりと帰って行った。