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19.金髪美少女はめんどくさい

ブクマと評価ありがとうございます!

拙い文章ですが、楽しみながら、また楽しんでもらえるように頑張りますのでよろしくお願いします。

 人との出会いは一期一会。まあ現実的に考えて、さすらいの旅人のような人でなければ、一生に一度しか会わないということはほとんどありえないし、この文明社会では会おうと思えばいつでも会えるだろう。

 故に昔とは違うこの現代において一期一会とはあまり現実味のない言葉だ。

 だから『出会い』という偶然の折り重なった出来事でも曖昧な記憶の断片でしか覚えていないし、目の前の金髪美少女の事を忘れていたとしても致し方のない事なのだ。


 マリアに裏拳をくらって仰向けに倒れこむ俺を屈み腰で心配そうに覗き込む美少女。近くで見ると長い睫毛の下にある瞳は瑠璃色のビー玉のようで吸い込まれそうなほど綺麗だ。視線を瞳から徐々に登らせるとスカートからピンク色の下着が、発見されるのを待っていたかのように鎮座している。

 普段からエロ動画でもっと過激なものを見ている俺からすると、こんな布切れのパンツなどで興奮することは微塵の可能性もない。


「涼先輩、鼻から血が!」


 美少女はそう言うとカバンからポケットティシュを取り出して、俺の鼻に優しくティシュを当てた。

 鼻と口からは鉄臭く苦い血の味と臭いがするのだが、その網目を潜るように彼女のティシュからは甘いバニラの香りがほのかに香ってくる。

 現実世界のパンチラの威力がここまで強力だったとは・・・。

 

「今のはおにーちゃんが悪いんだからね! 先輩もそこまで気を使わなくて大丈夫ですよ」


 仁王立ちしながら腕を組んだマリアがプイッとそっぽを向く。

 今確かマリアは先輩って言ったよな。ってことは同じ中学出身なのか。

 

「ティッシュありがとうね。大丈夫だから」


 上体を起こし、胡坐をかくと部屋に置かれた小机を挟んで彼女と対面した。


「あの・・・・。忘れてる俺が聞くのも気が引けるけど・・・。君の名前は?」


三好みよし・ランチェスター・秋穂あきほです。覚えていますか?」


「ええー!」


 どうやら俺は驚くとテンプレのような反応をしてしまうらしい。そんな自分の無駄な行動パターンを一つ知ってしまった。


 もちろん彼女の名前は知っている。イギリス人の父と日本人の母をもつハーフだ。だが俺の知っている秋穂はこんな金髪でもなければ、瑠璃色の瞳もしていなかったはずだ。中学時代は黒髪でメガネをかけていて、もっとこう地味な女の子だった。おしとやかな性格は変わっていなさそうだが。


「おにーちゃん驚きすぎ! しかも驚き方マスオさんみたい」


「そりゃーどーも。ってかお前もこの見た目の変化を知った時、驚かなかったのかよ?」


「まあ秋穂先輩がもともと金髪なのは知ってたけど、正直驚いたよ」


 もともと金髪だったってことは中学時代は髪を染めてわざわざ黒髪にしていたのか。なんで彼女はそんなめんどくさそうなことをしていたのだろう。


「中学時代はなんで髪の色とか目の色とか隠してたんだ?」


「コンプレックスだったんです。この髪の色も、瞳も、日本人ぽくないこの顔も。小学校ではこの見た目のせいもあってからかわれたり、いじめに近いこともされていました」


 成長していくにつれて様々なことを人間は学んでいく。人を理解する心もその一つだろう。

 面白いやつもいれば、暗いやつもいたり、変わったやつもいる。それを理解して相手との接し方を考える。だが小さい頃はその心が未熟なため、偏見を多く持つ。どう接すればいいのか分からず見た目の違う彼女をからかったり、いじめたりしたのだろう。まあ一部の大人でも偏見をもったり、いじめがあったりするのだから難儀な問題だ。

 

 秋穂は姿勢を正すと話を続けた。


「中学では目立たないように髪を染めて、黒のカラーコンタクトを付け、メガネをかけて自分自身の見た目を隠して、学校生活を送ってきました。そんな時、私を変えてくれるきっかけをくれたのが、涼先輩だったんです」


「そ、そんなことあったかな?」


 記憶を辿っても彼女に変わるきっかけを、与えられることをしたという出来事は思い当たらない。それ以前に交流という交流もあまりなく、秋穂と話したのも俺が三年の文化祭以降に数回だ。


「ええ、先輩は体育館で初めて出会った時のこと覚えていますか?」


「確か文化祭の合唱コンクールの伴奏練習してた時だっけか?」


「そうです。先輩が舞台リハで来ていて、網タイツにサスペンダーをつけて、上半身裸でいきなり声をかけてきた時です」


 ふむ。世の中とんだ変態もいたものだと思いたくなるが、確かにそれは俺だ。文化祭の有志による催し物の司会をしていた時に着ていた衣装だ。残念ながらリハにて過激すぎると却下され、今となれば思い出すだけで顔を覆いたくなるほど恥ずかしい思い出だ。


「そ、そんな格好してたっけな?」


「私もまさか生徒会長があんな卑猥な格好で歩き回ってるなんて思いもしませんでしたよ。思わず悲鳴を上げたのを覚えています」


「そういえば体育館シューズ投げつけられたっけな。あれ裸だったから痛かったんだぞ」


「そんなことは知りません!」


 秋穂はそう言うと、頬を膨らましてプイッと顔を逸らした。しばしの沈黙の後、俺と秋穂はこのやり取りをおかしく感じたのか顔を見合わせて笑った。そんな俺たちを見てマリアもどこか嬉しそうな表情をしている。


「それで先輩が『こんな格好してるけど生徒会長だぞ。断じて変態ではない! 見た目で判断するな』と言ってましたよね」


「あーそんなこと言ってたかもな。かなり苦し紛れで出た言葉だけどな」


「まあそうだと思いますけど。私が『なんでそんなキモくて恥ずかしい格好出来るんですか?』って聞いたら先輩が『格好とか見た目ごときに気を使って、楽しめないなんてもったいないじゃん。自分らしくやりたいことをやる。それが青春ってもんだろ』って言ってました」


 イタい、イタすぎるぞ俺。今すぐ窓の外から飛び降りたい。特に最後の『青春ってもんだろ』とか凄まじい破壊力だ。

 羞恥心が限界に達した俺は、床に転がっているネコ型ロボットの顔を模したクッションを取り、口に押し当てて叫んだ。


「ドォラエモーン!! モーン!!」


「おにーちゃんが壊れた!」


「涼先輩いきなりどうしたんですか?」


 マリアと秋穂の心配する声が聞こえるものの、俺はクッションを離すことができない。だって恥ずかしいんだもん!

 

「いい加減マリアのクッションから離れなさい! シャイニング・ウィザード!」


 目の前がクッションで覆われた暗闇の中で、突如後頭部に衝撃が走り俺は前に倒れ込んだ。脳を的確に揺らす鮮やかな蹴りは、きっと武藤敬司並みの閃光煌めく見事なシャイニング・ウィザードだっただろう。

 くらくらと空間が回るような感覚がして、しばし起き上がることができなかったが、意識も晴れ、ゆっくりと体を起こす。


「だ、大丈夫でしたか? マリアったらいつも涼先輩にこんな感じなの?」


「そうですねー。ダニーちゃんは体で教えないとわからないので!」


 兄をダニ呼ばわりとはひどすぎる。まったく妹というやつは。


「ま、まあおかげて丈夫に育ったからな。あはは・・・。それでさっきの話の続きなだけど」


「そ、そうですね。あの時は何を言ってるんだろうこの人は? って思ったんですけど、その後生徒会で活躍する先輩の姿を見てたら私も自分らしく生きてみようって思えまして、高校入学を機に黒髪もやめて、カラコンとメガネも外しました」


「そうだったのか。でもまたなんで隣町の矢作高校にしたんだ? うちの中学からだとあまり行くやついないだろ?」


 俺がそう言うとマリアはやれやれと言った感じでため息をつく。


「はぁ・・・。これだからおにーちゃんは・・・。まあそこは仕方ないとして。これより取り調べを行います!」


 マリアは右手を上げると声高らかに宣言した。ってかやっと取り調べなのかよ。


「えーおにーちゃんは今彼女はいますか?」


 手で輪っかを作り、エアマイクをこちらに向けるマリアはいつもより数倍楽しそうな表情をしている。その様子をじっと見つめる秋穂の視線が妙に真剣で、少したじろぐ。


「い、いないですが」


「じゃあ今好きな人はいますか?」


「い、いないですが」


「ほほおー、そうですか。美浜さんのことはどう思っているのですか?」


「た、ただの友達だと思っていますが何か?」


 そう答えた俺の顔を見るマリアは目を細めて、疑いの眼差しをこちらに向けてくる。最近美浜さんの名がよく出てくるけど、俺が恋してるように見えるのか?


「でもおかしいな〜、おかしいな〜」


「なんだ? 淳二でも降臨したか?」


「おにーちゃんにはアリバイがないのだよ! 巨乳を好きにならないと言うアリバイが!」


 こいつアリバイの意味まったくわかってねーじゃねーか。まあ確かに俺は巨乳好きだが、現実的な恋愛はまた別の話だ。見た目、性格、スタイルそれを総合的に判断し、自身のフィーリングに合致したものを好きになる。と思ってる。


「巨乳とか巨乳じゃないとかそんなことは些細なことなのだよ妹よ!」


「ははーん。そんな綺麗事を言っていられるのも今のうちだぞ、きょにーちゃん! 秋穂先輩のバストサイズはなんと―――」


「マリアそれはダメー!」


 秋穂は机の前に乗り出しマリアの口に必死に手を当てて、言いかけた言葉を遮った。

 めちゃくちゃ気になるじゃねーよ。もうその話の続きが聞けるなら、きょにーちゃんでもいいや。

 だが何故だろう、マリアが秋穂のバストサイズを強調したと言うことは確実に大きいはずだ。だがチラ見をしてみると美浜さんのように制服の上からでもわかるような、双丘の豊かさは感じられない。


「涼先輩! 私が帰ってもマリアからは聞いちゃダメですよ!」


「わ、わかってるよ! でもまあその大きいことはいいことだと思うぞ」


「ほ、本当ですか! 先ほどの美浜先輩って方のことを好きじゃないと言うことも」


「両方本当だ」


 秋穂は少し考え込んで、小さく首肯する。


「よっし! チャンスはある」


「なんか言ったか?」


「な、なんでもないですよ! では先輩また明日学校で! マリアもまたね!」


 秋穂は急ぐようにして我が家を後にしたのだった。



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