15.選挙活動はめんどくさい2
完成させたポスターを手に学校に向かった。寝不足のせいだろうか、少しばかり頭がフラフラとする。こんな感覚はテスト期間中以来だな。
なんで人間には睡眠が必要なのだろうか? 神様というやつは本当に無駄な機能をつけてくれたものだ。まあ寝不足の時だけこんな事をいつも考えていて、本当は睡眠ラブなんだが。
校門前に着くと、選挙の立候補者が熱戦を繰り広げていた。今日から本格的な選挙活動戦が開始される。
流れる人混みの中、一際存在感をはなっていたのは熱弁する黒神だった。
「皆さん! おはようございます! 私黒神がこの学校を清く、正しく盛り上げていきます! この矢作高校を県内一、いや全国一の高校にできるのは私のみです! みなさんの清き一票をよろしくお願いします」
黒神の熱弁は他の候補者のそれを圧倒的に凌駕していた。まず態度からして違う。堂々とした態度から表される自信と決して外すことのない生徒に向けられた視線は模範のような呼びかけである。そして周りに立つ支援者の数がより彼を引き立たせている。
「美浜美春です! 私はみんなが楽しいと思える学校にしたい! 最高の青春を送れる学校にしていきます! どうか清き一よろしくお願いします」
美浜さんも頑張ってはいるのだが、黒神の前では霞んで見えるようにその存在は稀薄に感じてしまう。
「おはよ。美浜さん。ポスターできたよ!」
「おはよ。桜形くん! 本当にありがとう」
「黒神先輩のほうすごいね! なんか白い巨塔みたいになってんぞ」
いやブラックゴッドだから黒い巨塔か。なんか下衆な下ネタみたいだな。
「うん。なかなかこっち見てもらえなくて。えへへ···」
美浜さんは髪を擦りながら笑っていたが、圧倒されて自信を無くしたのかいつもより元気がない。
「ここで戦う必要はないと思うよ! 昇降口に移動しよう」
「えっ?」
俺は美浜さんの腕を握り昇降口へと移動した。
「さ、桜形くん。あのそのちょっと恥ずかしいかも···」
美浜さんが元気がないのを見たら勢い余って腕を掴んでしまった。だが手ではない分まだ紳士的だろう。手だと俺、手汗かいてるからな。
ふと淡い過去の記憶が蘇る。昔付き合ってた彼女に『手汗かきすぎ』と手を繋いでもらえなかったけ。ましてや部活で得点を決めた時のハイタッチすらためらったものだ。
外国人はよく握手するが、多汗症の人はどうしているのだろうか。きっと彼らも悩み苦しんでいるはずだ。『ナイストゥミートゥー』と笑顔で握手している中、脳裏では『ボクノ、テアセデヌルヌルシテゴメンナサイ』と思っているはずだ。
世の中の多汗症の人が良くなりますように。俺は切に願った。
「あっ、いやそのごめんね! でも黒神先輩とはひとまず場所を被らせないほうがいい。あと昇降口で一年生の下駄箱付近でやれば一年生も顔を覚えてくれると思うよ」
「確かに今黒神先輩と一緒のところで張り合っても勝ち目はないよね。今日は昇降口メインでやってみる!」
「じゃあ俺もビラ配り手伝うよ」
「桜形ありがとう! 甘えさせてもらうね」
昇降口にて2人で再びビラ配りと呼びかけを再開した数分後、千夏がティンカーベルのコスプレをして現れた。背中には針金とフィルムで作られたハリボテのような羽が生えていた。
「涼と美浜さん? ここで呼びかけしてるの?」
「お前やっぱり本当にそれやる気だったのか」
「千夏ちゃんその格好はなに!?」
美浜さんは驚きを隠せないようで、ビラを手から落とした。
「ふふふっ。もちろん! 美浜さん、これは選挙用の衣装よ! これで目立ち度バツグン!」
「いや、ご丁寧に羽まで付けちゃって。お前こーゆうの恥ずかしくないの?」
「はぁ? 中学の時やってたあんたに言われたくないんだけど。それに割りとこーゆうの好きなの」
まあ確かにやってた俺が言うのも難だな。それにしてもレイヤーの素質があったとは。コミケに行けば結構人気になれそうだな。
「桜形くんも仮装して選挙活動してたの?」
「まあそのあの時は若かったというか、なんというか···」
黒歴史を掘り返される気持ちってこんなだったのか。今更ながら過去の自分をぶん殴ってやりたい。
「そうなんだ! なんか楽しそうでいいよね。私もやってみたいかも」
んー美浜さんのコスプレ姿か。ナースとか婦警さんとか似合いそうだな。って俺はなにを考えているだ。
「ねぇ涼? 似合ってるかな···?」
千夏は視線を斜め下に向けて、少し上目遣いで聞いてきた。
「ま、まあそりゃ似合ってんじゃねーの」
スタイルの良さも相まって、ティンカーベルのコスプレというよりはドレスを着て見える。その姿はプリンスっぽくも見えた。ただ羽がショボすぎる。
「えへっ。なら良し! じゃあ早速校門まで行っていくる!」
千夏が歩き出そうとした時だった。
「なんちゅー格好しとるんだ刈谷!」
背後から驚きと怒りに満ちたモリセンがこちらに向かって歩いてきた。
「せ、先生これは生徒会選挙のための衣装でして」
「ふん。そうか。なら構わん! ってなるか! 肩を出して、そんな短いスカートでなにが生徒会選挙か!」
「でも選挙のルールには仮装しちゃだめなんて書いてないですよ?」
千夏も必死に考えて応戦しているが、そんな言い訳はモリセンには通用しない。
「そうかもしれんが、普通に考えたらダメってわかるだろ? 転校してきたばっかでいろいろ前の学校と違うのはわかるが、これは認めれん」
モリセンの言うことは普通に考えて正しい。これが認められるのなら選挙が俺の嫌いなハロウィンみたいになってしまうだろう。
中学でも同じだった。だが俺がこれをできたのは学校の敷地内でやっていなかったのと、選挙2日前のみやっていたからだ。まあ最終的に噂でバレて呼び出されたのだが。
「そ、そんな〜···。先生そこをなんとかお願いします!」
「まあ頑張ってるのは認めるし、担任としてはお前に会長になってもらいたいとも思っているが、学校はお前の為だけにあるわけじゃないからな。そこは刈谷も理解しなさい」
「わ、わかりました···」
「それじゃ早く着替えてこい」
千夏は肩を落として、重い足取りで教室へと戻っていった。
「なんか嵐が過ぎ去った後みたいだな」
「あはは。やっぱり千夏ちゃんはすごいね。私も黒神先輩に負けないように頑張らなくちゃ」
美浜さんのやる気は十分だが、このままでは正直かなりまずい。完全に黒神の独壇場となっている状況を覆さなければならない。そういえば黒神の選挙公約はなんなのだろうか?
「美浜さんは黒神先輩の選挙公約って知ってるの?」
「んーごめん。自分の事で精一杯で···」
「そうか···。ちょっと校門まで行ってビラ貰ってくるよ」
***
先程退散した校門で黒神の支持者からビラを受け取り内容を見てみると、そこには驚くべきことが書かれていた。
「文化祭及び体育祭等の学校行事の縮小だと···」
なぜ黒神はこんな公約を掲げているのだろうか。疑問に考えながらその他の公約を見てみると、まるで学習塾のチラシのような謳い文句が羅列されていた。
この学校の進学先の大学名とその大学に合格するための必要な1日の勉強時間等々。
黒神は一体なにを考えているのだろうか。彼の狙いとは一体。




