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14.選挙活動はめんどくさい

 いよいよ選挙活動がスタートした。俺は昨晩いつもエロ動画しか見ていないPCを起動して、美浜さんの選挙ポスター制作のためにグーグルさんで一通り写真のトリミングやら合成方法などをマスターした。我ながらすでにポスター制作は神の域に達していると感じている。調べただけなのだが。


 学校に着くとさっそく校門前に美浜さんが懸命に挨拶をして、名前と公約の入ったビラを配っている。


「おはよ美浜さん。初日から頑張ってるね! 今日学校終わったらポスター用の写真撮りたいから6組に来てもらってもいいかな?」


「桜形くんおはよ! ありがとう! じゃあ6限終わったら教室に向かうね」


 俺と美浜さんが会話していると、校門から少し中に入った中庭でなにやら騒がしい音が聞こえる。

 1人の男が呼びかけをしており、その周りにはたくさんの人だかりができていた。


「ご通行中の生徒諸君! この学校を変えるのはこの私しかいない! どーぞ3年の黒神進一くろかみしんいちをよろしく!」


 爽やかなサラサラした髪に細身の長身と整った美形の顔立ち、フレームのないメガネがしっくりと似合っていて、知的なイメージを与える。

 この黒神という男も立候補者なのだろう。それにしても女子の多さが尋常じゃない。ぐるぐると取り囲む様は巨大なミステリーサークルのようだ。


「きゃー! 黒神先輩! 私絶対先輩に投票します!」


 わらわらと群がる女子達は口々に黒神に声をかける。離れた位置から見ていても彼の人気の高さが伺える。


「美浜さんはあの人知ってる?」


「あー、黒神先輩はこの学校だとかなり有名人だよ。桜形くんは知らないの?」


「全然知らないな。そんな有名な人がこの学校にいたのか」


 普段から学校生活で役割もなく、部活動もしていないと結構情報に疎くなるものだ。それにしても黒神って名字かっこいいな! 英語でブラックゴッドだぞ。

 しかしあんな伏兵がいたとはこの選挙も一筋縄ではいかなくなってきた。


「かなりの強敵だな。あの先輩は」


「そうだねー。でも私は私にできることするだけだから! それに桜形くんもいるし」


 美浜さんは相も変わらずプラス思考だった。それにしてもこれだけ信頼されると俺も頑張らなくてはと思う。


「まあ俺にできることは少ないかもしれないけど頑張るよ」


 俺はこの時自分の中の違和感に少しだけ気付いていた。少し前の自分であれば誰かの為に頑張るなんて思えなかっただろう。だが今は違う。美浜さんのことを本気で応援し始めている自分の姿がそこにはあった。


 そういえば千夏は選挙活動してなかったが大丈夫なのだろうか。ただでさえ転校してきたばっかりだと言うのに。

 教室に入ると千夏がなにやら裁縫をしていた。


「おはよ! お前選挙活動してなかったけど大丈夫なのか? てかなに作ってんの?」


「ふふーん! あんたの中学の時のアイディアをパクろうと思ってね!」


 中学の時のアイディア? 選挙活動の時俺なんかやってたっけ? ···やってたわ。


「思い出したみたいね! 衣装を着て呼びかけでPRするのよ」


 なんと無駄な行為と思うかもしれないが、俺は中学の時選挙活動でいろんな衣装を着て呼びかけを行っていた。ある時は王子様風、またそのある時は全身タイツなど。

 痛いし恥ずかしいし、こんなことで票が集まるのかと思われるだろう。しかしみんなが生徒会に望むのは楽しい学校を運営できるかどうかであり、この一見ふざけた行為も投票へと繋がるのだ。


「お前マジでやるの? 高校生だぞ? てか中学は許されたけどこの学校だとダメなんじゃね」


「そんなの知ったことないわよ! 無理にでも私はやらせてもらうわよ」


 千夏の目はマジだった。まあダメならダメですぐに先生達に止められるだろうし、どうでもいいか。


「お前のノリがこの高校に合うことを祈ってやるよ」


「とりあえず明日からやるからあんたも見に来なさいよね。命令だから」


 千夏は俺を指差して言った。つか命令ってなんだよ! 見たところで知り合いがそんなことしてるなんておいら恥ずかしいぞ。


「遠巻きからなら見てやるよ」


「なにそれ! ちゃんと近くで見なさいよ! そして感想を聞いてあげるわ」


「感想とかいるのかよ。とりあえずまあ楽しみにしといてやるよ」


「桜形と千夏ちゃんおはよ!」


 俺と千夏が話していると周ニが教室に入ってきた。


「千夏ちゃんなに作ってるの? ピーマン?」


「どこがピーマンに見えるのよ! ティンカーベルの衣装よ」


 確かに緑が結構濃くてピーマンに見える。むしろピーマンのほうがインパクト的にいいんじゃねえの。


「お前野菜シリーズの仮装とかしたら面白いんじゃね? ほら千夏の足とかセロリみた···グハッ」


 細い腕から解き放たれた棍棒のようなラリアットが俺の喉元に直撃した。俺は天井を仰ぎ見ながら全盛期のスタン・ハンセンを思い出していた。


「野菜とか面白くないし、私の足はセロリじゃないわよ」


「お前プロレスラーの仮装したほうがやっぱりいいぞ」 


***


―――キーンコーンカーンコーン♪


 チャイムが鳴り、朝のホームルームが始まる。

 

「えー今日から選挙活動期間になる。うちのクラスでは刈谷が選挙に立候補することになった。みんなも気合を入れて応援するように! うっす!」


 モリセンの最後のうっす! はよく分からないがクラスメイト達も千夏に拍手を送っている。それにしてもみんな転校してきたやつがすぐに立候補することに驚かないのだろうか? それとも選挙にはあまり関心がないのだろうか。


 俺もまあ美浜さんや千夏が出なかったら選挙なんて全く関心がないわけなんだが。

 みんながどんな基準で誰に投票するのかは少し気になるな。


*****


 放課後になり、美浜さんが写真を撮るために教室にやってきた。家から持ち出したデジカメを手に早速撮影を始めた。


「なんか1人で撮られるのって緊張しちゃうね」


「確かに普通に1人で撮られることってあまりないよな。モデルとかやったことあるなら別なんだろうけど」


 いかんいかん。普通に撮影しているはずが何故かファインダーを覗くと胸ばかりにピントが行ってしまう。

 これでは変態カメラマンではないか。


「えーっとなんかこうしたいとかあーしたいとかリクエストある?」


「んー明るい感じのポスターにはしたいかな!」


 ざっくりすぎるぞ美浜さん。明るいだけならエフェクトかけまくって、後光が差してるようにするか? いやなんかそれだと宗教っぽい。


「明るい感じねー。あとはなんかある?」


「んー青春って感じるポスターにしたいかも」


 青春と感じるポスターか。青春ってなんだ? 青い春···。イメージを膨らませて、俺の頭の中で導き出されたのは堤防の風景だった。


「堤防に行って写真撮ってみない?」


「堤防かー。 いいかも!」


 早速堤防に場所を移して撮影することにした。普段カメラとか使わないからピントがちゃんと合っているのか、あまりわからないがオートフォーカスを信じるしかない。

 ファインダーを覗いてシャッターを切る。


「こんな感じでいいかな?」


「うん! なんか爽やかな感じがして、青春って感じがする!」


「じゃあこれでポスター作ってみるから明日持ってくるね」


「桜形くん本当にありがとう!」


*****

 家に帰ると早速ポスター制作に取り掛かった。先程撮った写真をPCで加工していく。


 「我ながらいい写真が撮れたな。全身も撮っておけばよかったかもな」


 「おにーちゃん何してるの?」


 マリアがノックもしないで俺の部屋に入ってきた。


 「ん? マリアか。美浜さんの選挙ポスター作ってるんだ」


 「そんなに胸のとこ拡大して?」


 いかん。無意識のうちに拡大という便利な機能をフル活用してしまった。マリアの冷たい視線が痛い。


 「これはあれだ。ちゃんとピントが合っているか細かくチェックしていたんだ」


 「ふーん。まあ美春さんかわいいし、お胸のほうもかなり大きいみたいだし、ちゃんとピントが合ってるか気になるよね」


 「マリアさん? 胸の大きさとかこの地球のことを考えたらどうでもいいことじゃまいか?」


 「次見つけたら美春さんにメールしといてやる」


 いつの間にアドレス交換したんだよ。


 「はい。もうしません。ちゃんとポスター作ります」


 その晩俺は5時間かけてやっとポスターを完成させたのだった。

 


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