13.選挙の作戦なんてめんどくさい
マリアとの挨拶を終えて、居間に美浜さんを案内する。
俺が飲み物を入れている間に美浜さんとマリアはソファに座り談笑している。
「美浜さんはお料理とか家事は得意なの?」
何を聞いてるんだこの妹は。
すっかり小姑になりきっているマリア。
「おい、マリアなにを聞いているんだ? 美浜さんは家事も料理も多分得意だと思うぞ」
「あはは。それなりにはできるかな? でも料理よりお菓子作りの方が得意かも」
お菓子という言葉にマリアはすぐ様反応し美浜さんに詰め寄っている。
「お菓子得意なんですか!? 美浜さんのお菓子食べたいです!」
美浜さんのお菓子ってなんかいやらしいぞ!ちょっとおにーちゃん変な想像しちゃうからヤメてくれないかな。
注いでいる手元のジュースパックが震える。
「私のお菓子で良ければ今度持ってくるよ!」
「美浜さんありがとう!」
最初はどうなることかと思ったが、美浜さんとマリアは打ち解けてきたようだ。
「美浜さんは中学の時は生徒会だったの?」
「美春で大丈夫だよ。中学では生徒会長だったんだ」
「じゃあ美春さんで! 生徒会長だったんだ! じゃあマリアにもいろいろアドバイスお願いします!」
マリアは目を輝かせながら美浜さんにお願いをしている。
コップに注いだオレンジジュースを持ち俺もソファに向かった。
「いやー、私も実はちゃんとした選挙は初めてで···」
ちゃんとした選挙とはどうゆうことだろう。
選挙にちゃんとしたとかあるのか?
「ん? ちゃんとした選挙が初めてってどゆこと?」
美浜さんは少し言いづらそうに口を開いた。
「私の中学では選挙の立候補者がいなくてね。それで私がみんなに推薦される形で生徒会長になったの」
特段珍しい話でもないかもしれないが、美浜さんが立候補してないのは意外だった。
美浜さんの話を聞いて、マリアは羨ましそうな顔をしている。
「そうなんだ。学校によってはそんなこともあるんだねー。私も選挙なしで当選できないかなー」
「マリアの今回の選挙での立候補者は何人なんだ?」
「5人だよー! おにーちゃんの時と同じ仕組みだから1人だけ執行部に入れないんだよね」
俺の通っていた中学では票数の多い順に会長、副会長、会計、書記に割り当てられる。つまり票数により与えられる役割が変わるので、一目瞭然で票数の多少が分かってしまう。それにしても1人だけとかめちゃくちゃ残酷だろ。それこそもう残酷な天使のテーゼ並だ。
「そのシステムやめたほうがいいのにな。書記や会計になりたいやつだっているだろうに」
「確かにそうだよねー。おにーちゃんの時は何人立候補者いたの?」
「確か前期が9人で後期が6人、3年の前期は7人だったかな?」
俺の中学校では5月から11月の前期と12月から翌年の5月までの後期で任期が分かれていた。
ちなみに俺は2年の前期、後期と3年の前期の3期連続の当選を果たした。
「ふえー激戦だったんだねー」
「まあそれなりにはな」
「やっぱり桜形くんはすごいねー!」
しまった。美浜さんを期待させてしまったようだ。手を口元に当ててわぁとしている美浜さんを見ていると不安な気持ちになってくる。本当に俺で力になれるのだろうか。
「今回美浜さんのほうは、千夏含めて4名が立候補か。矢作高校だと書記、会計は別投票だから厳しい戦いにはなるな」
「そうなんだよね。三年生でも有力な人もいるみたいだし、来週の選挙活動頑張らなきゃ」
「まずは二人ともポスターに関しては出来上がってるのか?」
選挙活動においてポスターは必須アイテムである。まずは名前だけでも覚えてもらえば投票に繋がる。
「まだなんだよね」
「出来上がってないに決まってるじゃないか。おにーちゃん」
申し訳なさそうに答える美浜さんと自信満々に答えるマリア。まあマリアのほうは置いておいて、美浜さんがまだだったとは意外だ。
「美浜さんの友達でパソコンとか得意な人いないの?」
「んーいないかな。どうやって作ればいいんだろ?」
「データ作って学校に持っていけば印刷はしてもらえると思うぞ。マリアのほうは確か原則ポスターは似顔絵のみだったよな? クラスの上手いやつに書いてもらえ」
「うーん上手い人かー まなみちゃんでいいかな?」
いいかなと聞かれても俺はまなみちゃんの絵の実力を知らないから何とも言えない。だがまあ仲のいい友達に書いてもらったほうがいろいろやりやすいだろう。
「まあまなみちゃんでいいんじゃない? 明日書いてもらってこいよ」
美浜さんのほうは写真を撮ったり、加工したりといろいろな作業が出てくるからそう簡単にはいかない。
「んー美浜さんのほうは、最悪俺でもいいかな?」
「ありがとう! 全然桜形くんでも大丈夫だよ!」
美浜さんは親指をぐっと立てて笑顔で答えた。
エロ動画かネットサーフィンしか使い道の無かった我がPCがこんなところで役に立つとは。
「それで二人とも明日からの活動はどんなことしていくか決めたのか?」
俺の言葉に美浜さんとマリアは顔を見合わせて黙り込んだ。選挙活動期間は約1週間しかない。どんなに頑張ってもやれることは限られてくるだろう。
「おにーちゃんはなんかやってたの?」
「んーとりあえずビラ配りと呼びかけはやっておいたほうがいいかな? だけど無闇に呼びかけたりしてもあんまり効果ないぞ」
生徒選挙では、ほぼほぼ人気投票になってくる。この5月という時期の選挙においてキーポイントになってくるのは1年生の票である。彼らはまだ学校に入学して1ヶ月と日が浅いので必然的に知っている人に投票する確率が高くなる。
「ビラ配りや呼びかけは1年生をターゲットにやったほうがいいぞ。2、3年は同学年に入れる率が高いし、1年の票を取り込むのが一番早い」
2人は感心した様子で聞いているが、ちゃんと伝わっているかは不明である。
「さすがおにーちゃん! この調子で公約と呼びかけの原稿も考えてよ」
「なんで俺がゴーストライターやんなきゃいけないんだよ。公約はちゃんと自分で考えなさい。呼びかけはどうしてもわからなかったらまた聞きにこい。美浜さんはどんな公約考えたの?」
「私の公約は部活動や同好会の設立の緩和と文化祭や体育祭以外でのイベント企画だよ!」
うちの学校は部活動の数で言うと運動部7つの文化部4とかなり少ない。それは部活動として認められるにはかなり狭き条件をクリアしなければならない。学生生活の充実化を進めるにはいい公約かもしれない。
「イベントとかはなにか案あるの?」
「春に花見イベントや秋にハロウィンイベントとかしようかなと考えてて」
ハロウィンか。普段コスプレとかを馬鹿にしてそうな連中がその日だけはそんなことも忘れてバカ騒ぎするイベントは俺はあまり好きではない。ハロウィンって外国人のお盆みたいなもんだろ? そんなことでいいのやら。
「もちろん学校行事として行うから楽しいだけじゃなく、そのイベントの歴史を学んで、節度ある行事にしたいと思ってるよ」
どうやら俺の心配も無用なほど美浜さんはしっかりと考えているようだ。
「それならいいかもな! 応援してるよ! とりあえず明日他の人の動きを見て作戦を練ろう」
「おにーちゃん! 美浜さんばっかりじゃなくてマリアのこともよろしく頼むよ」
ちょっと上から目線のマリアにイラッときたが、まあ初めての選挙だし不安もあるだろう。
「はいはい。考えてあげるからちょっと待ってろ」
「じゃあ桜形くん! これから家に帰って呼びかけの原稿考えてくるからこれで失礼するね! マリアちゃんまたお菓子持ってくるから一緒に頑張ろうね!」
「おっ、おう。じゃあ気をつけて帰ってね」
美浜さんはやる気に満ち溢れた姿で颯爽と帰っていった。やっぱりなにもなかったじゃないか! 期待していなくて良かったと思う今日この頃であった。
こうして明日選挙活動がスタートするのであった。




