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12.うちの妹はめんどくさい

 その晩。明日美浜さんが家に来ることをマリアに伝えようか伝えまいか悩んでいた。小学生の時以来、家に女の子を呼んだことがなかったため、きっと伝えると面倒臭いことになりそう。


 とりあえず明日のマリアの予定でも聞いておくか。

 夕飯を終えて、ソファでゲームをしているマリアに尋ねる。


「なあ、マリアは明日どっか行かねーのか?」


「急になに? 特に用事ないからどこも行かないよー」


 案の定明日は一日家にいるようだ。この暇人め。

 マリアは吹奏楽部に入っているのだが、部活動も少なく基本的には平日と土曜日のみ活動している。


「そうかー。まなみちゃんと遊んでこればいいのに」


「なに? どこかに行ってほしいわけ? 怪しい···。尚更ここに住み着いてやる」


 住み着くもなにもお前の家はここだぞ。

 まあはぐらかしても仕方ないし、伝えてしまうか。


「べ、別に怪しくないけど? 明日友達が家に来るんだけど、マリアが気まずくならないかなって」 


「ふーん。マリアは全然構わないよ。で、誰が来るの?」

 

「美浜さんって子」


「美浜さん? なに女の子なの!? おにーちゃんいつから女子を家に呼ぶチャラ男さんになったの!」

 

 ゲームをほっぽり出して、ソファから立ち上がるマリア。女の子家に呼んでチャラ男さんなら世の中の大半の男がチャラ男さんだろ。


「いや、ただの高校の友達でだな。生徒会選挙に美浜さんが立候補するから、その原稿とかの相談に来るだけだ」


「ふむ、まあ友達かどうかは明日確かめるとして。生徒会選挙の相談かー。それマリアも聞いていい?」


「なんでお前も入ってくるんだよ」


「いやー、マリアももうすぐ生徒会選挙なんだよねー! なんにも準備してなくて。にゃはは」


 額に手を当て、はにかんだ笑顔を見せる。

 なんにも準備してない状態で選挙に挑むとは我が妹ながらなさけない。


「にゃははってお前本当に大丈夫かよ? まあ仕方ないか。負けて落ち込んでもらっても困るしな」


「さすがおにーちゃん! 話の分かる男だ!」


 全然嬉しくないんだけど。    

 そんなこんなで明日美浜さんとマリアの選挙活動の相談を受けることとなった。


 自室に戻るとスマホがバイブした。

 美浜さんからの着信だ。


「もしもし、美浜さん?」


「こ、こんばんは。美春です」


 美浜さんは緊張しているのかわからないが少しイントネーションがおかしい。ちょっとだけ『ヒロシです』に似ていた。


「こっ、こんばんは。明日ってどーする?」


「しょれにゃんだけど、私、桜形君の家分からないから駅に行けばいいかな?」


 出だし見事なまでの噛みっぷり。きっと電話の向こうの美浜さんは赤面した表情なのだろう。

 俺は笑いそうなのを必死で堪えて、答えた。


「お、乙川駅って駅があるからそこに来てくれれば迎えにいくよ」


「じゃあ10時に駅前にいればいいかな?」


「了解した!」


*****


 翌朝、俺はワクワクと緊張感に包まれていた。それはもちろん家に美浜さんが来るからだ。


 だが変な期待はしていない。家にはマリアがいるし、俺と美浜さんは付き合っているわけでもない。

 そう、世の中は期待してはいけないのだ。期待するだけ失望は大きくなり、自分の心に傷をつける。俺はここに誓う決して何かが起こると思わないことを!

 っと昨晩考えていたのだが、8時半にセットしたアラームよりも1時間も早く目が覚めてしまった。


 下に降りるとマリアが意味不明な動きで太極拳をしている。


「おはよ。なんでお前太極拳してんだ?」


「おにーちゃん! マリアは太極拳なんかしてないよ? 恋ダンスの練習だよ」


 なんかのっぺりしててキレがなく、太極拳にしか見えない。マリアは昔からダンスが下手なのは変わらないらしい。


「お前それどっかで発表するの? やめたほうがいいと思うけど」


 マリアがムッとした表情でこちらに振り返る。


「昨日マリアなりに考えてみたんだけど、楽しい生徒会を作るってことで、演説で踊ろうかなと」


 目立つだけって考えるならありかもしれないが、まあ演説で踊るのは無しだろう。しかも太極拳みたいなダンスを見せたところで公園にいるじっちゃん、ばっちゃんみたいな感じだし、楽しいというか楽しい老後のイメージしか湧かない。


「とりあえずそうゆうのは、ちゃんとした演説ができるようになってからしなさい」


「じゃあちゃんと演説して、踊ってやる!」


 どんだけ踊りたいんだよ。渋谷にいるギャルかよこいつは。


「今日美浜さんって子が来るんだよね? 何時から来るの?」


「10時に駅に迎えに行くから、多分15分くらいには着くと思うぞ」


「楽しみだね〜、おにーちゃん」


 マリアはニヤッとした表情でこちらを見て朝風呂に向かった。

 絶対なにか企んでいそうだ。

 俺の危機管理センサーがビンビンに反応している。面倒臭いことにならなければいいのだ···。


***


 時間も9時半を周り、家から駅に向かう。

 駅までは15分程度なのでゆっくりと歩いて行っても十分間に合う。


 本日も晴天だが、昨日よりは暑くない。清々しい風が吹き抜ける度、街路樹のクヌギが新芽をカサカサと揺らしている。


 駅に到着すると美浜さんの姿が見えた。10分前からいるとはなんとも美浜さんらしい。


「美浜さんお待たせ!」


「桜形くんおはよ! 今日はよろしくね」


 2人で自宅まで歩いてる途中、無言も気まずいので何気ない話題を振る。


「美浜さんって電話とか苦手なの?」


「昨日の電話のことかな? やっぱり変だったよね。私昔から電話ってなんか苦手で緊張しちゃうんだよね。でも昨日はさ···」


 美浜さんははっとした表情でこちらを見ての言いかけた言葉を飲み込んだ。

 やはりは電話緊張していたから噛み噛みだったのか。

 

 でも女子なら友達と電話すること多いだろうし大丈夫なのだろうか?

 マリアとかちょくちょく友達と長電話してるし、将来テレフォンオペレーターになっちゃえよと思ってしまう程だ。


「女子の友達とかと電話する時とかもそんな感じなのか?」


「んー、私メールで済ませちゃうからあんま電話しないかも」


 そうなのか。ならなぜ美浜さんは俺に電話してきたのだろうか?メールで連絡してくれても良かったのに。


「そうなんだ。なら昨日もメールでも良かったのに」


 美浜さんはギクッとして俯いた。


「そ、それはいきなりお願いしちゃったし、ちゃんと口で伝えたかったから」


「そうか! まあメールで伝えるとなんか味気ないもんな。もうそこが俺の家だよ」


「ここが桜形のお家かー! 新しいんだね!」


 我が家は5年前に建てたばかりの家なので新しい。周りをきょろきょろ見渡している美浜さんを家に入れた。


「お邪魔します」


 玄関に入ると、奥から化粧をしたマリアが出迎える。

 つか化粧やったことないからやりすぎて、おかめみたいな顔になっている。チーク塗りすぎだぞ。

 

「こんにちは 美浜さん。私涼の母のマリアと申します。うふっ」


 何やってんだこいつは! てか普通に考えて体も小さいから親には見えない。


「こ、こんにちは! 桜形くんのお母さんはじめまして! 美浜美春と申します」


 おい信じちゃったよ! どこまで純粋な子なんでしょう。


「おい、マリアなにやってんだよ! うちの母さんそんな、おかめロリみたいな顔してねーぞ」


「おにーちゃんは黙っててよ! これは妹たるマリアの仕事なの」


 妹って言っちゃってるじゃねーかよ。設定どうした。

 

「美浜さんすまん! こいつ俺の妹のマリア。変なやつだが悪いやつではない。マリアちゃんと挨拶しろ」


「なにその序盤の登場人物紹介みたいな言葉。えーっと先程はごめんなさい。妹のマリアです」


「妹さんだったんだね! 改めて美浜美春です。よろしくね」



  

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