1.彼女との出会いはめんどくさい
拙い文章ですがよろしくお願いします!
4月の学校帰り。
夕焼けが水面をオレンジに染め上げている堤防沿いの橋で、俺は一人の美少女と出会った。
「―――あなた自殺するの?」
「いや、しないけど?」
「嘘よ! あなたの目はこれから死ぬ人の目をしている!」
「いや、だから全然これっぽっちも死ぬ予定とかないんだけど!」
この時、俺は本当に自殺する気などはなかった。
学校帰りに河川を見ながら物思いにふけっていただけだ。
だいたいそのこれから死ぬ人の目とは一体どんな目だと言うのだろうか?
目でわかるのであれば世の中苦労しない。
まあいずれにせよ彼女の言うことは間違っている。
「悩みがあるのなら私が聞いてあげるから!」
「いや、人に言えるほどの悩みとか特にないんだけど···」
俺は彼女のしつこさに嫌気が差し、無視して再び夕焼けを見ようと振り返った時、彼女は大きな声を出して俺の体をギュッと抱きしめてきた。
「だめーっ!」
「うぉ! なんだよお前! 早く離せよ!」
二人揉み合っていると、バランスを崩し、腰の位置より少し高いばかりの柵を越えて二人河川へと落下した。
これが彼女との出会いであり、以後俺の高校生活は激変していくのであった。
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人生は面倒くさいことの連鎖でできている。
俺が17年間生きてきて辿り着いた結論だ。
随分と後ろ向きな考えだが、2年前まではこんな結論を出すような人間ではなかった。
燃え尽き症候群そんな言葉がこの世にはある。
燃え尽きた想いは灰になり、二度と燃えることなく散り散りになっていく。
中学時代の俺は青春という言葉を原動力に生きるそんな生徒だった。
バレー部のキャプテンで生徒会長。
自らが率先して先頭に立ち、様々な役割に挑戦していった。
もちろん周囲もそれを知り、俺を頼り、慕ってきた。
そんな忙しい生活を送る中できっと自分自身に酔っていたのだろう。
頑張ってる俺めちゃくちゃかっこいいんじゃね?
学校から帰るたびにそんな事を思っていた。
だがそのモチベーションは高校入学前に綺麗さっぱりと燃え尽きて、消えていた。
頼られること、挑戦することにひどく疲れてしまったのだ。
結局中学時代にこなしてきた数々の役割はただの自己満足であり、今になって考えてみると、親や先生、友達の評価を気にしてやっていただけなのだろうと思う。
世の中には『俺じゃないとできない』こと、なんてのは少ない。
学校生活での役割なら尚更である。
俺の代わりはたくさんいる。それが正であり、解である。
そんなわけで俺の高校生活は高校デビューの逆である高校リタイアをすることになった。
なるべく目立たず、且つ嫌われないように過ごしていこう。
そう決心して中学の同級生のいない学校に入学した。
入学して1年間、この上ない生活を送っていた。
クラス委員決めとか以前の俺なら率先して立候補していたものだが、今の俺は違う。
机に顔を伏せて、他の誰かがやってくれるのをじっと待ち、時間が過ぎ去るのを待った。
部活にも入っていない。
なにも役割のない日々を淡々と過ごしてる。
これは俺にとっては新鮮な経験であり、この生活に満足もしていた。
彼女と出会うまでは···。
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4月の河川は思った以上に冷たく、気を抜くとケータイの着信バイブのように小刻みに震えたくなる。
「お前! ふざけんなよ! 死なねーって言ってるのになんで構ってくるんだよ?」
高さもあまりなかったためか、どうやらお互い無傷のようで、河川を二人プカプカと浮きながら、俺は彼女にキレていた。
「だって、あなたがこれから死ぬって目をしてたんだもん! 私にはわかるんだよ!」
「だいたいさっきから言ってるこれから死ぬ目ってどんなんだよ!? ジト目か? 死んだ魚のような目か?」
「んー、諦め!?」
諦めだと!?
大喜利がしたいのかこの女は!?
「とにかく俺は死ぬとか考えてなかったのに、お前のせいでビショビショじゃねーかよ! 俺家遠いんだけど」
彼女は少し考え、提案をしてきた。
「仕方ない! 私の家近いからそこで服乾かせば大丈夫よ」
初対面の女の家だと···!
小学生以来女子の家など行ったこともない。
高校生という多感な時期に気軽に、しかも初対面の女の家に行ってしまっていいのだろうか?
―――――――うん! 行くしかない。
「まあ、それしかないようだし、仕方ないから行かせてもらおうか」
俺は決して下心が無いように振る舞って、純粋無垢な青年を演じるよう努める。
「じゃあついてきて!」
土手に上がると胸元のブレザーの隙間からブラウスが透けて、下着が薄っすらと見え隠れしている。
むむっ、ピンクか···! それにしてもこのサイズは成長しすぎじゃないですかね? お嬢さん!
「えっと、その前に落とされた事、謝ってもらいたいんだが?」
「···ごめんなさい」
「まあ、悪気があったわけじゃなさそうだし、もみ合いで落ちたのも不可抗力だから許してやるよ」
とんだ災難だったが、本当に反省しているみたいなのでこれ以上責めるのはやめることにした。
「私昔から早とちりでお節介なところがあって···。たまにみんなに迷惑かけちゃうことがあるんだよね」
「困ってる人は見過ごせないって正義感で俺にも構ってきたのか?」
「うん···」
彼女の肩くらいのセミショートの髪から数滴の雫が垂れる。
濡れきった制服からわかるしなやかなで、くびれた腰と発育した胸に目を奪われそうになるのを堪えながら、顔を背けて彼女に尋ねる。
「そ、それで名前は?」
「矢作高校2年の美浜美春って言います」
美浜美春。
俺はその名を知っている。
矢作高校に通う生徒であれば大抵の男子は知っているだろう。
入学当時から噂になっていた彼女は成績優秀であり、綺麗と言うよりは、大きい瞳に少し丸めの輪郭で、かわいいという言葉が大いに似合う愛嬌のある顔立ち。
さらにリーダーシップもあり中学時代は生徒会長だったらしい。
クラス委員やら実行委員なども率先してこなしており、次期生徒会長との呼び声も高い。
明るく、優しく、かわいいそんな言葉を体現したような女子生徒だ。
「俺は2年の桜形涼」
「さくらがた···? 確か私の代に隣町の中学にそんな生徒会長の人がいたような?」
なんだこの感のいい女子は!
気づかれるとめんどくさそうだからとっと服を乾かしに行こう。
「それより、早く服乾かさないと風引くぞ」
「そ、そうだよね! 家すぐそこだから」
200mほど歩くとすぐ家についた。
こんだけ近かったら通学楽そうだなーと思いながらも、女子の家ということで俺は緊張していた。
「お邪魔します」
家にはどうやら誰もいないようだ。
誰も·····いないだと!
綺麗に片付けられた玄関を抜けて、美浜さんに案内されるままに風呂場に行く。
「俺が先でいいのか?」
「そりゃ私が悪かったわけだし、これで風邪でも引かれたらもっと申し訳ないからね。気にしないで先に入って! 服はとりあえずそこの乾燥機に入れてくれれば大丈夫だから。ブレザーは私のほうでクリーニングに出しとくね」
風呂に入ると、美浜さんの髪から匂っていたシャンプーの香りがする。
女子というのはなぜあんなにもシャンプーの匂いが香ってくるのだろうと考えながら、頭を洗う。
煩悩退散! 煩悩退散! 俺の頭で幾重にも掛け声が流れる。
湯船に浸かりながら美浜さんのことを考える。
いや、決していやらしいことではない。
ホントですよ?
なぜ美浜さんは高校生活も頑張れているのだろう。
そしてなぜ俺はこうも頑張れないのだろう。
「死ぬ人の目か···」
不意に言われた言葉を思い出す。