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n=1から始める魔界方程式  作者: 辛味庵
一章 始まりの魔界
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死神――それは冥府における魂の支配者

「おお、おおおお!!」


 驚きと、それを失礼だと自制する心が合いまり、奇妙な悲鳴を上げる誠。それを不審がったミクサが声をかける。


「ちょ、ちょっと大丈夫!? マコト?」


「あ、ああ。だいじょばないけど、大丈夫。オッケー……」


 誠はなんとか落ち着きを取り戻し、息を整える。改めてそのウェスパーと呼ばれた死神の顔を眺める。

 ――全身黒装束に身を包み、その体の周りを黒く禍々しいオーラが覆っている。顔はヤギの骨をしており、黒く底の見えない空洞の眼はなにを考えているのかを悟らせない。手にした鎌は人の丈ほどもあり、鋭く光り、今にも命を刈らんとばかりの様相を醸し出している。

 誠は確信する。この死神、――強いと。


「ウェスパー。すまんな。こっちから挨拶に行くべきだったのに。騒がしくしちったからか」


 そんな話かけるのもためらうような容貌の死神ウェスパーに、何のことはなしと気軽に話しかけるのはナナミ。同じ悪魔だから恐怖がないのだろうが、それでもやはり驚かずにはいられない。


「フシュ―。フシュ―」


 と、ナナミの声にウェスパーがヤギの骨をした口から息を漏らすように反応する。


「いや、そうは言っても申し訳ねぇよ。……え、気遣う必要はないって?ふっ、ありがとな」


 そんな息を漏らしているだけのはずのウェスパーの反応に、なぜか彼(かもしくは彼女?)の言ってることが分かるかのように普通に会話を進めるナナミ。


「い、いやいやいやいや。待って。待って!なんで会話が通じてんだよ」


 誠は思わずツッコミを入れる。


「え?そんくらいはさすがに分かるだろ」


「いや、わかんないって。フシューフシュ―って息してるだけじゃん」


「そりゃ骨なんだから口は動かせないだろ」


「はぁ!?いや、まぁそうなんだけどさぁ……」


 ――確かに。骨なのだから口は動かせなくて当たり前である。まさに目から鱗だ。

そう言われると、昨今の骨キャラは筋肉のない口でどうやってあんなにハキハキとしゃべれてるのだろうか。不思議である。


「まぁいいや、……とりあえず、自己紹介、だよな?これ。……俺は、九條誠。よろしくお願いします」


 さすがに三度目となると自己紹介も自分からできるようになる。異世界ニートがうらやましいと言っていたが、確かにこんな環境じゃコミュ力もぐんぐん上がらざるを得ない。自分のコミュ力が上がったのを確信した誠。死神の自己紹介を待つ。きっとこの西南地区とかいうところでも屈指の悪魔なのだろう。はやく自己紹介が聞きたい。


「フシュー。フシ、フフッフ。フシュー。フフフフフ」


 しかし、返す死神の自己紹介というのはもちろん誠に聞き取れるはずもなかった。


「いや、やっぱり分かんねぇ。翻訳お願いしますナナミさん」


「しょうがねぇな、代弁してやるよ。もっかい頼むウェスパー」


 嫌そうにしながらも渋々と言った様子でウェスパーの翻訳を頼まれてくれたナナミ。さて、口の動かせないウェスパーはどんなことを言っていたのか。耳を傾けてナナミの言葉に集中する。


(フシュー。フシ、フフッフ。フシュー。フフフフフ)

「『我は死神、ウェスパー。我の持つこの伝説の鎌、『デスサイズ』は人間の魂を刈り取ることができるのだ。まぁ、我、手が骨だから重すぎて持ち上げることも振りかざすこともできないんだけどね。トホホ。……あっ、あと、我は死んだら、我を殺した相手複数に66時間以内に何かしらの不幸をもたらす呪いを付与することができる。』……っだそうだ」


 ――と、場違いなほどに、ひどくファニーなことを口走るナナミ、を通じて言葉を伝えるウェスパー。悪魔とはなんたるかを象徴するような、醜悪な見た目をしたこの死神から発されたのは、驚くほどに残念な言葉だったのである。

 ……思わず、ツッコまずにはいられなかった。


「おい、マジか。ウェスパーおまえ人が聞こえないのをいいことにそんなこと口走ってたのかよ!」


 いったいそのキャラはなんなのか。いかつい見た目から繰り出される怪しい吐息で、何を口走るのかと思いきや、トホホ……だと!?全くふざけているにもほどがある。


「頭に入らない?確かに結構な量しゃべったからな。もっかい言っとくか?」


「そーいう意味じゃねぇよ。てか逆にやめてくれ」


「ま、まあ、言わんとすることは分かるが……」


 とりあえず、ウェスパーの言ったことを頭の中で思い返す。そこで分かったのが、この死神、残念なのは口調だけでなく、能力もであった。


「こんな見た目しといてウェスパー、呪いしか使えないってことか。しかも死なないと使えない」


 ――そう、この死神、デスサイズだのなんだの言っていたが、結局のところウェスパーの能力、呪いしかまともに使えるものがないのであった。


「フシュー、フッシュ」


 と、なにやら微妙な雰囲気が流れた空間でウェスパーが必死になにかを訴えている。彼も自身を挽回したいのだろうか。


「一応、翻訳してほしいな。これでウェスパーの評価が変わるかもしれない」


 と、誠はウェスパーを横目に、言葉だけで答える。


(フシュー。シュシュシュ、フッシュー)

「……『しかも、我の呪い、人を殺したり、傷つけたり、そんな強いのじゃないから。せいぜい転ばせたり、めまいを起こさせたり、そのくらいの効力しかない、テヘッ』」


「……もう、十分だ」


 誠はウェスパーの肩を優しく撫でる。これ以上ないくらいに哀れみを持った表情で。もう勘弁してほしかった。そんな人を殺せそうな見た目で、そんなアホみたいなこと言うウェスパーにこれ以上耐えられそうになかった。だが、


ポキッ!


どこか間の抜けた、しかし、嫌な音が空間に響き渡った。


「あ、折れた」


 そんな音を聞いたミクサがふと呟く。その言葉に遅れて反応するように、誠もウェスパーの方に振り向く。

 ――そこには肩を撫でられただけで、肩の骨が折れたウェスパーの姿があった。

 肩から音を鳴らしたウェスパーは、誠に撫でられたところを押さえながら、声もなくしゃがみこむ。そして子供が泣きじゃくるようにもがき苦しんでいた。

 そんな誠のウェスパーを見る目は哀れみから嫌悪に変わる。そして、そんな目からぽたぽたと涙があふれる。


「もうやだああああああああああああ~!!!!!」


 誠の悲鳴がこだました。

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